第五十一話 神妙な面持ち
とりあえず俺は、前回の採取で行っていない方角へと足を進める。
【青の同盟】さんたちと採取に来た前回は、時計で言うところの12時の方向に進んで採取を行ったため、今回は1時の方向に進んで採取を行っていこうと思う。
こうやって大体の方角を決めておけば、次回採取するときもどこの場所を採取したのかを覚えていられる。
「そういえば、ポルタは魔法使いなんですか?」
「ええ、そうですよ。僕は付与術師と言う一風変わった魔法使いなんです」
ポルタは結局一度も戦闘には参加しなかったため、なんとなく気になって尋ねてみたのだが、これまた変わった回答が返ってきた。
付与術師か……聞いたこともないな。
「すいません。付与術師を存じ上げないのですが、普通の魔法使いと何か違うんですか?」
「そうですね。普通の魔法使いは基本的に攻撃魔法……【ファイヤーボール】とか【アイスランス】とかの魔法で、敵を直接攻撃する俗に言う、黒魔導士のイメージがあると思うのですけど、僕は味方の能力を上げて補助を行ったりする魔法使いなんです」
「能力を上げる……ですか? それって、味方の力を上げたりとかってことですよね?」
「ええ。魔法を対象者に纏わせることによって筋力を上げたり、逆に敵に魔法を掛けたりすることで、敵の動きを阻害する魔法とかも使えるんですよ」
へー。そんな魔法があるなんて知らなかったな。
……と言うことはポルタがいれば、格上相手にも戦えるようになるってことだよな?
もしかして俺も戦えるようになったりするのか?
「あっ、あまり期待しないでくださいね。爆発的に強くなる訳ではないので。体感少し強くなったなぁぐらいだと思います」
「いや、そんなことはないだろ。俺はポルタのバフ魔法のお陰でアンクルベアとなんとか戦うことが出来たからな。倍くらいの強さにはなるんじゃないか?」
「倍なんてある訳ないですよ。せいぜい1.1倍が限度かと」
「1.1倍ですか。あまり伝わらないですけど、それでも凄いことなんじゃないですか?」
「そりゃ凄いぞ。確か、4年ぶりの付与術師って、士官学校の先生が言っていたよな?」
「ええ、そうらしいです。……でも所詮、付与術師なんて脇役ですから」
そう自虐するように笑ったポルタ。
確かに、話を聞く限りだと凄さがあまり伝わってこないし、目立ち辛そうだとは思ってしまうな。
「ふっ、脇役な。あれだけ暴れるクセによく言うな。……それよりルイン、ほらっ薬草の生えてるところについたぞ」
バーンが意味ありげに含み笑いをしたことに対して少しひっかかるが、それよりも植物の生い茂った場所へと出た。
前回が採取出来ずに失敗に終わってしまったから、なんだか植物採取したのも随分と前に感じる。
久しぶりな感じがあるせいか、目の前の生い茂った植物を前に宝石箱を目にした気分になり、気分が高揚してきた。
ダンベル草や新種のレアな植物もあればいいのだが……果たして見つかるだろうか。
「それではしばらくの間、植物採取に集中しますので護衛の方をよろしくお願いします」
「了解。護衛は任せておけ」
「ええ。バーンさんのサポートは僕がキッチリと行います」
二人からの頼もしい返事を聞いたところで俺は、植物鑑定及び植物採取へと意識を向けた。
まずは分かりやすい薬草と魔力草から採取していこうか。
ドンドンと鑑定からの採取を繰り返し、約30分ほど。
目の前に見えていた薬草と魔力草を採取し終わり、辺り一面が綺麗になった。
採取し終わった達成感から、満足気に鞄に入れた薬草と魔力草を見ていると、凄い勢いでこっちに来ているバーンに気が付く。
「手が止まるのを待っていたんだが……おいっ、ルインッ! なんだこれは!? これ全部薬草なのか?」
「え、ええ。そうですけど……もしかして、なにか違う植物が混じってましたか?」
「あんな速度で採取してたら見える訳ないだろ。なんでそんな速度で採取できるんだ? 薬草と……ほらっ! この雑草とだってよーく見ないと見分けつかないだろ?」
そう言って俺の鞄から引っ張り出した薬草と、そこら辺で採取した雑草を見せつけてくるバーン。
俺からしたら薬草は分かりやすい形で、念のために鑑定はしているが、見ただけでも瞬時に分かる。
ただ、やっぱり普通の人からしたら見分けがつきづらいよな。
俺も治療師ギルドで働き始めたばかりの頃は、見分けがつかなかったし。
一応、見分けのつけかたがあるのだが、これは言ったところで伝わらないし、【プラントマスター】で鑑定してると言おうか。
「実は俺、‟レア”持ちでして、それを買われて治療師ギルドで働けていたんですよ。――そして、その‟レア”と言うのが、この植物を一瞬で鑑定できる能力なんです」
「……なるほどな! 全ての疑問に合点が行ったぞ。どうやってあんなに早く採取ができ、そして薬草採取なんかで生計を立てられているのかと思っていたが、‟レア”持ちだったとはな」
俺が‟レア”持ちを告白すると、納得したのか満足気に頷いているバーン。
そんなバーンとは対照的に険しい顔をしながら、俺の方へと寄ってきたポルタ。
「あの、ルインさん。ちょっといいですか?」
なにやら神妙な面持ちで俺にそう尋ねてきたポルタ。
……真剣な表情で見られると、なんとなくムズムズするな。
「はい。なんでしょうか?」
「よければなんですが、ルインさんも【鉄の歯車】に入りませんか?」
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