第五十話 息の合った連携


 コルネロ山の山道に入ってすぐ、横道から現れたコボルト一匹とワーウルフ三匹が襲ってきた。

 すぐに戦闘態勢を取る【鉄の歯車】さん達。

 前衛がライラとバーン。後衛がポルタとニーナで、ポルタが俺にピッタリと張り付いてくれている。

 

「バーンと一緒に足止めするから、ニーナよろしくね!」

「右側は任せろ。ライラ、無理だと判断したらすぐに指示だせ。カバーに入る」

「分かってる。んじゃ、いっくよー!」


 即座に指示を出し合い、戦闘を開始した二人。

 すぐにコボルトとワーウルフの計四匹と交戦した二人だったが、後ろから見ていて全く危なげがない。

 戦闘能力が高いことは然る事乍ら、連携が完璧で見ていて気持ちが良いほど息があっている。


「【アンチヒール】いきます! ライラッ、左に避けてください!」


 そこにニーナが指示を出し、なにやら魔法を飛ばした。

 ニーナの手から放たれた緑色の球体のような魔法が、物凄い速度でコボルトへ一直線に飛んで行きぶつかる。

 そして、コボルトは球体がぶつかったと同時に苦しみ出した。

 

「バーン、次はそちらに撃ち込みます。その場から動かないでください!」


 魔法がコボルトに当たったことを確認すると、ニーナは苦しんでいる様子のコボルトを無視して、すぐに次なる魔法を唱えながらバーンに指示を飛ばす。

 魔法を当てようと狙っているワーウルフとの間にはバーンがいるのに、何故か動かないように指示を出したニーナ。


 次の瞬間、ニーナは【アンチヒール】を飛ばしたのだが、【アンチヒール】は先ほどの一直線とは違い、大きな弧を描くようにカーブしながら、ワーウルフ目掛けて飛んで行っている。

 

そしてニーナの魔法がバーンの頭を越えた瞬間に、魔法に合わせるように動き出したバーン。

 なるほど! バーンを目隠し代わりに利用し、ワーウルフが魔法に反応出来ないようにしたのか。


 ニーナの意図に今頃気づき一人で感心していると、魔法とともに動き出していたバーンが左側のワーウルフに斬りかかり、真ん中のワーウルフは【アンチヒール】が直撃して藻掻き苦しんでいる。

 そして右側のワーウルフはと言うと、【アンチヒール】の当たったコボルトを倒したライラが駆け付けており、あっという間に魔物の群れは壊滅した。


 見惚れてしまうほどの連携に拍手を送りたくなるが、音を鳴らすと魔物が寄ってくる可能性があるため、グッと堪える。

 ……それにしても、ニーナが凄かったな。

 的確な指示に正確な魔法。どれを取っても完璧だったように思える。


 普段のおどおどとして俯きがちな姿からは、想像もつかないようなハキハキとした恰好良い姿だった。

 本来のニーナは戦闘中のあの姿で、普段おどおどしているのはもしかしたら退学となった事件が関係しているのでは……と、思わず邪推してしまうほど。


「いぇーいっ! 完封! 流石はニーナ。今回も指示が完璧だったよ」

「今回はルインがいるから、いつも通りできるか心配だったが……問題なさそうだな」

「ありがとうございます。二人が的確に動いてくださるので、やりやすいです」


 三人は軽く手を合わせてハイタッチをしながら、褒め合っている。

 雰囲気も良いし、見ていて気持ちが良いやり取り。


「三人共恰好良かったです。ポルタも護衛ありがとうございました」

「恰好良かった……? 戦ってる姿が恰好良いなんて初めて言われたよ!」

「確かにな。ルインは感性が少し変わっているよな」

「そうですかね……? 本当に恰好良かったですよ。ニーナの魔法なんて後ろから見てると、生きているかのように敵目掛けて飛んでいって、凄かったんですから」


 話の流れで俺はニーナにも触れるが、やはりまた俯いてしまった。

 うーん……なんとかちゃんと会話したいんだけどな。

 魔法のこととかも色々と聞きたいし。


「よしっ、この調子で進んでいこっか! ポルタはごめんね。多分、この道中は出番ないと思う」

「そんなこと気にしなくて大丈夫ですよ。僕はライラさんやバーンさんみたく、戦いたくてうずうずする……とかは一切ないので」


 こうして俺達は目的地の山の中腹まで、問題なく辿り着くことが出来た。

 道中に襲ってきた魔物も、コボルト、ワーウルフ同様に危なげもなく連携を駆使して屠って行っていて、【鉄の歯車】さんはFランクパーティだけど、安定度で言えば【白のフェイラー】なんかよりもよっぽど安定している。

 個々の能力は、【白のフェイラー】の方が高いとは思うけど。


「とうちゃーくっ! ルイン、ここでいいんだよね?」

「ここで大丈夫。渓流も近いし、ここを拠点にするのがベストだと思う」


 前回、【青の同盟】さん達と拠点にしていた場所を、今回も拠点とすることに決めた。

 ここ付近の植物は採取し尽くしてしまったのだけど、この場所は飲み水の確保もでき、あまり魔物も襲ってこない場所。

 拠点にするにはもってこいの場所だと俺は思う。


「じゃあ、軽くテントを建ててから、ご飯を作って……ルインの話を聞かせてもらおうかな?」

「いや、まだ時間的には早いだろ。ルインの話は気になるが、ルインには明るい内に植物採取をしてもらおう」

「えー。話が聞けると思ったから頑張ったのに!」


 こうして一度話はお預けとなり、俺はバーンとポルタに護衛についてもらい、男三人で植物採取へと出かけたのだった。

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