第三十七話 目が覚めて……
目を開けると、俺を覗きこんでいるアーメッドさんの顔が飛び込んできた。
ビックリして飛び起きると、そんな俺を見て楽しそうに笑っている。
ここは……宿屋か? 目の前の窓からグレゼスタの街並が見える。
「おっ、ようやく起きたか! くっくっく、本当にルインは良い反応をするよな!」
「あ、あれ……もしかして俺、背中で寝ちゃいましたか? 本当にすいません!」
アーメッドさんの背中に乗ってからの記憶が一切ないため、背中に乗っていきなり眠ってしまったのだと思う。
絶体絶命のところを助けてもらったのに、その人の背中で寝落ちしてしまった……。
「まあ、疲れてたようだし仕方ねぇよ。それにこの借りは高く返してもらう予定だから気にすんな! ルイン、怪我とかはねぇのか?」
「本当にすいません。怪我は……はい。手をちょっと火傷したくらいで、怪我らしい怪我はないです。……ってア、アーメッドさんのその足っ!」
「足ぃ? あぁ、これか。こんなのいつものことだ。……俺のことより、怪我なく帰って来れたなら良かったな!」
いつものことと言うが、アーメッドさんの足は切り傷のようなものが無数に出来ていて、所々に深い傷も見える。
見ているこっちが痛くなってくるほどには傷が酷い。
それに傷の新しさから見て、この傷……俺を探している時に出来た傷のように思える。
本当に申し訳なさが次から次へと押し寄せてくる。
「いや、ちょっと待ってください!……えーっと、あのこれ、良かったら使ってください!」
「なんだこの汚ねぇ色の液体」
「スライムの液なんですけど、薬草を漬け込んでるので塗り薬になるんです。その傷じゃ気休めかもしれませんけど……良かったら使ってください」
「んーこんな傷、唾つけときゃ治るからいらねぇけど……まあ、貰えるもんは貰っとくか! ありがとな!」
「いえ、お礼を言うのは俺の方です! 助けて頂き本当にありがとうございました! 救助してくれた費用と、それとは別でこの恩は絶対にいつか返します」
「かっかっか! その言葉忘れるなよ! 絶対に返してもらうからな! あーっと、金はいらねぇ。冒険者ギルドと【白のフェイラー】からたんまりと貰ったからな」
「いや……でも……」
「本当にいいんだっての。だからその分、ルインが立派になったら俺に恩を返しにこい! 分かったな?」
「……はい。絶対に返しに行きます!」
「うしっ!……そんで、一体何があったんだよ。俺に詳しく聞かせろ」
そこから俺は、アーメッドさんに何があったのかを丁寧に説明していった。
俺の話に珍しくアーメッドさんは、茶々も入れずにただ黙って聞いている。
自分で話していても思うが、あの状況から本当によく生き残れたよな。
「――とまぁ、あった出来事をまとめるとこんな感じです。【青の同盟】さんたちが優しかったので、少し油断してしまいました。もう少し、ちゃんと冒険者パーティを吟味すれば防げたことですので。アーメッドさんにも迷惑をかけてしまいましたし、この件は本当に反省します」
「まあ、確かにちゃんと選べば失敗は防げたな。……ただ、ルインは何も悪くねぇよ。わりぃのは全部【白のフェイラー】だ」
「いや……でも、イレギュラーが起こったのも事実ですから」
「イレギュラーが起ころうが護衛を依頼されたのに、囮にして逃げるなんて絶対に許されねぇ。ルイン、自分の気持ちを殺すのが良いことだと思うな。自分は悪くねぇと思ったら全力で抗議しねぇと駄目だ! ――まあ、俺はルインのそう言うところ嫌いじゃねぇけどな」
……それは、確かにアーメッドさんの言う通りか。
全てを黙認することが良いことではない。
ブランドンのようにはなりたくないが、何もしないのはただ搾取されるだけ。
アーメッドさんほど自由にやれはしないだろうが、俺はもっと自分の考えや気持ちは伝えられるようにしないといけない。
「……確かにそうですね。そういう部分はアーメッドさんを見習いたいと思います」
「そうだな、思う存分俺を見習うといい。……まあ、とりあえず【白のフェイラー】に関しては俺らがやっておくから心配すんな。グレゼスタを発つ前には片を付けて置いてやる」
「何から何まで本当にありがとうございます。……本当にアーメッドさんは俺の恩人です!」
「ははっ、なら一生感謝しろよな! それじゃ俺は行くからよ。冒険者ギルドへの報告は済ませておけよ!」
「はい! また日を改めてお礼をしに、顔を出しに行きますので」
俺は片手を上げながら去っていくアーメッドさんを見送った。
本当の意味でアーメッドさんには命を助けられてしまったな。
この恩だけは何があっても絶対に忘れないようにしよう。
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