第三十八話 冒険者ギルドからの謝罪


 ……よしっ、俺も準備しようか。

 ベッドから降り、スカスカの鞄を背負って部屋を後にする。

 疲労が完全に取れてはいないようで、まだフラフラとするがアーメッドさんの言葉通り、クエスト失敗の報告をしに行こうか。


 俺がいつも泊っているボロ宿よりも豪華な宿屋を後にし、冒険者ギルドへと向かう。

 ちなみに宿代に関しては、先に部屋を出たアーメッドさんが支払ってくれていたようだ。

 本当にアーメッドさんは、やることなすこと全てが恰好いい。

 

 おぼつかない足取りだったが、なんとか冒険者ギルドに辿り着いた。

 いつもと変わらない冒険者ギルドなのだが、【白のフェイラー】がいないかどうか、少しドキドキしてしまう。

 

 今回の件で俺に非はないのだが、俺が戻ってくることが不都合な【白のフェイラー】が、何か仕掛けてくるのではないかと言う恐怖がある。

 ただ、そこに関しては、アーメッドさんが何とかしてくれると言っていたから信じようか。

 ……本当に何から何まで頼ってばかりだな。


 アーメッドさんへの感謝、そして自分への不甲斐なさを感じながら受付へと目指す。

 失敗の報告は、クエスト報告受付でいいのかな?

 とりあえず行ってみようか。


「いらっしゃいませ。クエスト達成報告でよろしかったでしょうか?」


 受付へと近づくと、受付嬢さんがそう声をかけてきた。

 えーっと、ここで失敗されたことを伝えればいいんだよな?

 

「いえ。実は護衛依頼を途中で放棄されまして、その報告に来ました」

「途中……放棄ですか? それは大変申し訳ございませんでした」


 俺がそう伝えると一瞬驚いた表情を見せてから、すぐに頭を下げてきた受付嬢さん。

 ……別に受付嬢さんに謝ってほしい訳じゃないんだけどな。


 仕事を取り持つ窓口となっているだけで、受付嬢さんは何一つ悪くない。

 治療師ギルドで働いていたとき、全く関係ない他人のミスでよく謝らせられてた俺は、今の受付嬢さんの心境が痛い程よく分かる。


「いえ、別に受付嬢さんが悪い訳じゃないので。謝らなくて大丈夫ですから、顔を上げてください」

「冒険者の責任は、仕事を斡旋した冒険者ギルドの責任でもありますから、私も今回の非の一因でございます」

「いや! 本当に大丈夫ですので、顔を上げてください」


 二回目の大丈夫と言う俺の言葉で、ようやく顔を上げてくれた受付嬢さん。

 非がない人間から謝られると言うのは、決して気分の良いものじゃないのにブランドンはよくあんなに気持ちよさそうにしていたよなぁと、一番思い出したくない人物の思い出したくない表情を鮮明に思い出してしまった。


「ご配慮頂きありがとうございます。その件についての詳しいお話をお聞きしたいので、ひとまず依頼番号を教えて頂いてもよろしいでしょうか」

「依頼番号ですね。少々お待ちください」


 俺は受付嬢さんに依頼番号札を手渡し、それから依頼内容の確認と依頼パーティの確認を終えたあと、アーメッドさんに話したように詳しい状況を説明した。

 受付嬢さんは話を聞いている内に段々と顔を真っ青にさせていき、全てを聞き終えたときには今にも卒倒しそうな様子になっている。


「これが起こった全てなのですが……受付嬢さん、大丈夫ですか?」

「本当に、本当に申し訳ございませんでした。しょ、少々お待ちください。すぐにギルド長を呼んでまいりますので!」


 かなり慌てた様子で受付嬢は俺に再び謝罪をすると、凄い勢いで裏の部屋へと入って行った。

 俺としては【白のフェイラー】が俺に関わらないことと、これからしっかりとした冒険者パーティを斡旋してくれることを約束してくれればいいのだが……俺が思っているよりも大事のようだ。


 まあでも確かに、依頼人を囮に使ったら流石に一大事か。

 俺もアングリーウルフと対峙したときと、帰れないと分かったときは本気で死を確信したからな。

 

 夢みたいな絶望的体験を思い出していると、奥から受付嬢さんが戻ってきた。

 その後ろにはこの間、植物の買取をしてくれたスキンヘッドの職員さんがいた。

 

「大変お待たせいたしました。ギルド長をお連れ致しました」

「えっ!? ギルド長さんなんですか?」


 俺が驚き、声を上げると、ツルツルの頭をポリポリと搔きながら困ったような表情を見せた。

 てっきり買取専門の一般職員さんだと勝手に思っていたが……。

 

「騙したみたいになって悪かったな。ルイン」

「えっ!? 俺を覚えているんですか?」

「そりゃ、ついこの間査定したばかりだろ? ……ってそんなことよりもだ、今回の件本当に申し訳なかった。冒険者ギルドが斡旋した冒険者のせいで、命の危険にまで晒してしまった」


 地面に頭がつくのではと言う勢いで頭を下げたギルド長さん。

 受付嬢同様に俺は悪くないと思ってしまうが……流石にギルド長となると責任はあるのかもしれない。


「こうして謝罪をしてくれたなら私の方は大丈夫ですので。ただ、二つほど条件があるんですが大丈夫ですか?」

「ああ。こちらに出来ることならなんでもやらせてもらう」

「ありがとうございます。それでは一つ目の条件なのですが、【白のフェイラー】が私に近づかないようにしてもらいたいんです」

「ああ。それに関してはもう安心してくれて構わない。依頼人を故意に置き去り、見捨てる行為は、単純なクエスト失敗ではなく罪に当たる。【白のフェイラー】はこちらから国に報告し、処罰を受けるためにすぐに捕まるだろう。先ほど捜索の者を手配したところだ」


 俺の予想の遥か上の回答に唖然としてしまう。

 捕まる? 逮捕されるってことなのか?

 正直、重い罰で冒険者ギルドを追放されるぐらいだと、勝手に思っていただけに自分でもかなり衝撃的だった。

 

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