第三十六話 必死の捜索

※アーメッド視点となります。




「おい! 俺に殴られたくねぇなら質問に答えろ」


 俺がキモ野郎その四にそう伝えると、やられた仲間をゆっくりと横目で見やってからブンブンと首を縦に振った。


「し、知ってることなら、な、なんでもこたえます!!」

「んじゃ、お前らはコルネロ山への依頼は受けたのか?」

「コルネロ山のい、依頼ですか……? それっていつ——」

「ちなみに少しでも嘘を言ったら、本気で殺すからな」

「う、受けました! う、受けて今さっき戻ってきたところです!」


 スマッシュの情報通り、やっぱりこいつらがルインの依頼を受けていたのか。

 ……ただ、だとしたらこいつらが、この冒険者ギルドにいることはおかしい。

 スマッシュの話では、ルインは前回同様に四日間で依頼したと言っていたからな。


「その依頼人はどうしたんだ?」

「え……っと、そ、それは……」

「おい、いいのか? 俺はお前を再起不能にするまで、殴っても構わないんだぞ? お前らの言っていた通り、俺は‟はみ出し者”だからな?」


 倒れているキモ野郎三人にギルド内がざわついているが、そんなの関係なしにその四を脅す。

 面倒くせぇし、気絶しない程度で一発殴ってもいいんだけどな。

 そんなことを考えていると、俺が何をしようとしているのかを察したようで、一度身震いをしてからハキハキと喋り始めた。


「こ、コルネロ山で依頼人と訳合ってはぐれてしまって、見つからなかったから俺達だけで戻ってきたんです」

「はぐれただと? お前ら、ルインをコルネロ山に置いてきたのか?」

「る、るいん? だ、誰ですか……それ」

「てめぇらの依頼人だろっ! このボケッ!!」


 思わず拳が出掛けたのだが、またしても俺の腕をしっかりとディオンが止めた。

 こいつから情報を聞き出すまでは殴っては駄目だ。

 何度も自分に言い聞かせながら深呼吸をし、無理やり怒りを鎮める。


「い、依頼人は山です! 置いてきたとかじゃなくて、本当に仕方なく帰ってきたんですっ!」

「仕方なく……ほう。と言うことは、あなた方がルイン君とはぐれたことは冒険者ギルドに報告済みですよね?」

「そ、それは……。あ、あ、そうだっ! 今ここに着いたところで、丁度報告しようと思ってたんです!」


 ディオンが詰める前から分かっていたが、これは嘘だな。

 こいつらはルインをコルネロ山に置いて、何もせずにここで談笑してたって訳か。


「…………もういいよな? ディオン」

「ええ、勿論。後先考えずにやっちゃって大丈夫ですよ。……と言うかアーメッドさんがやらないなら私がやります」

「俺がやる」


 気持ちを鎮めても鎮めても、血が沸騰しかける。

 一番冷静に判断できるディオンの許可が出たら……もうぶっ放すしかねぇ。

 拳を握りしめ、その握った拳に魔力を込めていく。


「……え? お、俺、全部喋りましたよ? な、殴らないって。言った! 喋ったら! そ、その拳、お、ぉろし――」

「【火竜の一撃】」


 貯めた魔力を熱へと変換し、拳をキモ野郎の土手っ腹に叩きこむ。

 一旦は衝撃によってそのまま気絶し、倒れるが……すぐに腹部の熱による痛みに依って目を覚ました。


 今の攻撃は、殴った箇所に追加効果で重度の火傷を負わせる。

 火傷による痛みも最短で一ヵ月は続くだろうな。

 ……それでもまだ足らないし、寝ているキモ野郎たちにも一発ずつプレゼントしたいところだが……。


「ディオン、スマッシュ。わりぃな、ちょっと用事出来たから今回の依頼はパスするわ」

「今回に関しては何も問題ないです。この馬鹿たちの処理もやっておきますので、早く行ってあげてください。ルイン君なら必ず生きてますから」

「そうですぜ。あっしらもこいつらを片付けてから、依頼をキャンセルし、すぐに後を追ってコルネロ山に向かいやすから。アーメッドは早くルインのところに行ってやってくだせぇ」

「助かる。後は頼んだぜ」


 こいつらは普段うぜぇが、こういったときは瞬時に俺の言いたいことを察してくれる。

 なんだかんだで頼りにはなる。


 ……それよりも早く、一秒でも早く見つけ出さないと手遅れになっちまう。

 俺はグレゼスタの街を飛び出し、コルネロ山に向けて全力で駆けた。


 とにかくわき目も振らずに全力で走る。一秒でも早く到達するために。

 なんで一度しかクエストの依頼人になっていない奴のために、ここまで全力になっているのか俺自身よく分かっていないが、ルインはなんだかほっとけねぇんだ。


 俺が感覚で気にいっちまったんだから仕方がねぇ。

 久しぶりに額から汗が垂れてくるが、構わずに全力で飛ばす。

 


 グレゼスタを発って、約三時間ほど。俺はコルネロ山の入口に辿り着いた。

 まだ日は高いから、今から探して夜までに見つけたいが……どこにいるかサッパリ分からねぇ。


 どの辺りではぐれたのか聞けば良かったが、聞いたところでどっちにしろ俺には分からねぇか。

 こうなったら、五感を全て使って手当たり次第に探しまくるしかない。

 そう決めた俺は、コルネロ山に着いてから視界と嗅覚を集中して効かせ、とにかく走り回ることした。


 それからしばらく山の中を駆け回ったのだが、風があまり吹いてないのもあり匂いがあまり飛んでこず、未だに痕跡を一つも見つけられていない。

 山に入る前はまだ高かった日も、もう落ち始めて暗くなってきやがった。


 ……………これはもう五感のみで探し当てるのは無理だ。ここからは勘頼りで行く。

 自棄になったんじゃなく、こういったときは俺の勘に頼った方が上手くいくことが多いと言う経験則から決めた。

 

 完全に思考を停止させ、直感だけで進み初めてから約2時間。

 ようやく俺は初めての違和感を感じ取った。


 微かにだが、風に乗ってルインの臭いが漂ってきた気がした。

 立ち止まってもう一度冷静に匂いを嗅ぐと、やはり南の方から匂いがしている!

 

 こうなったら後は、この漂ってくる匂いを頼りに突っ走るだけだ!

 夜になったことで魔物が大量に溢れているが、雑魚魔物に構ってる暇はねぇ。

 躱せる魔物は躱し、進路に立った魔物を剣で両断する。

 


 ――そして。

 

「おいっ、ルイン! 上にいるんだろっ! 助けに来てやったぞ!!」


 この木の上から強くルインの匂いがする。

 絶対にこの木の上にルインがいるはずだ!


「アーメッドさんっ! い、今降ります!!」


 俺が声を掛けてからすぐに、木の上の方から今にも泣きそうな声のルインの声が聞こえてきた。

 やっぱりいたか!


 ふぃー、ひとまず無事で良かったぜ。

 ……へっへっへ。少し馬鹿にして、困った顔を拝んでやろうか!


「うっしっし。やっぱり居たか! おら、とっとと降りてこい」


 俺はルインが木から降りてくるのを今か今かと待っていると、ようやく姿を見せた。

 さぁて、なんて声を掛けてやるかな? まずは感謝からしてもらおうか!


「へっへっへ! ルイン、助けに来てやったぞ! 俺に感謝――って、おいっ!俺に抱き着くな!」


 なんだこいついきなりっ!!

 すぐに引き剝がそうとするが、ルインは凄い力で俺を掴んでいて大泣きしている。


 …………おかしい。泣き顔を見ると何故だか胸がいてぇ。


「アーメッドざん”っ! 本当にあり”がどうございまず! 俺、大きな魔物に襲わ”れで! それがら帰り道も分がらないじ、自分でば考えな”いようにじでだんでずげど、俺も”う帰れないんじゃないがっで……それで……」

「…………なに言ってるか分からねぇよ。……泣くなよ、男だろ?」

「ずいまぜん。アーメッドざんの姿を見だら、本当に安心じでじまっで……すぐに涙止めまずのでっ」


 泣きながらルインがなにか喋る度に胸がズキズキと痛くなり、それと同時に再び【白のフェイラー】への怒りが再燃してくる。

 とりあえず、ルインの様子がおかしいから落ち着かせるしかねぇ。

 …………くそっ、調子が狂うな。


「……ッたく、本当しょうがねぇ奴だなぁ。……ほらっ、背中乗れよ。そんなんじゃ歩けないだろ?」

「大丈夫です。もうぢょっどで止まり”まずので」

「いいから乗れって! ゲンコツ食らわすぞっ!!」


 無理やり背負うと、俺の背中を離さないように強く抱いてきたルイン。

 まだ幼いと言うこともあるのだろうが、軽いし小さいな。

 ……背中の感触から何故かルインを意識してしまい、急に恥ずかしくなってきた。


「おい、ルイン。それで一体なにがあったんだよ」


 恥ずかしさを誤魔化すために、背中のルインに質問したのだが返答は返ってこない。

 …………。


「おいっ! ルイ—―」


 俺を無視してくるため、首を回して背後を確認すると……そこには気持ち良さそうに寝ているルインの寝顔が見えた。

 ん、ぐっ!


 …………叩き起こして反応を見るのも面白そうだが、ちょっとぐらいは寝させてやるか。



 それから俺は寝ているルインを起こさないように、グレゼスタまで運んだ。

 帰りの道中でディオンとスマッシュに遭遇したため、背中のルインを見せ無事を報告すると、二人はほっとした姿を見せた。

 ただ、スマッシュの野郎は、ルインを背負ってる俺を茶化すようなニヤケ面で見てきたため、あとでゲンコツを食らわすのは決定だな。


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