第三十五話 不快な朝

※アーメッド視点となります。

 時系列はルインがアングリーウルフを倒した翌日の朝です。




 朝。

 眠い目を擦りながら、怠い体を無理やり起こす。

 

 今日はグレゼスタでの最後の依頼があるとかで、ディオンが口うるさく寝坊するなと言ってきたからな。

 ディオンの言うことを聞くのは癪だが、時間通りに行かないとスマッシュが部屋へと入ってくるのがめんどくせぇ。

 

 盗賊団では雑用係をやっていたのに、やたらと器用で戦闘でもそこそこ強かったからパーティに誘ったんだが……盗賊なんかパーティに入れるもんじゃねぇな。

 解錠スキルが高いせいで、俺のプライバシーがないったらありゃしねぇ。

 ……まあ、スマッシュが部屋に入ってきたら、ゲンコツ食らわせればいいだけなんだけどな。


 スマッシュの野郎が俺のゲンコツ食らって泣き叫ぶところを想像して楽しくなっていると、約束の時間が迫ってきていることに気がつく。


「……チッ。めんどくせぇから時間なんて概念を無くしちまえばいいのにな」

 

 ポツリと誰もいない部屋でそう一人言を漏らしてから、俺は着替えを済ませて冒険者ギルドへと向かう。

 うるさい小鳥のさえずりにイライラしながら冒険者ギルドに着くと、既にディオンとスマッシュが待っていた。

 

 こいつらいつも朝はえーし、毎回一緒にいるよな。

 ……まさか付き合ってるんじゃねぇよな?

 そのまさかを具体的に想像してしまい、背筋がゾワっとする。


「アーメッドさん……。なんですか、その顔は。また、朝から変なこと考えてるでしょ」

「おめぇらがいつも一緒に居て気持ちわりぃなって思ってただけだ。……ってか、またってなんだよディオン!」

「エリザ、朝から興奮しないでくだせぇ。朝の大声は頭に響くんでさぁ」

「スマッシュ……てめぇは何回、俺を名前で呼ぶなって言ったら分かんだっ!!」


 眠そうにしているスマッシュの頭に、思い切りゲンコツを落とす。

 ……ッたく。こいつらといると、朝からイライラしてたまったもんじゃねぇ。


 頭を押さえて倒れているスマッシュを放置し、俺は冒険者ギルドへと入る。

 眠くてイライラするため朝は嫌いだが、冒険者ギルドの中だけは朝が一番快適だな。

 くっせぇ野郎は少ねぇし、イラつく笑い声も聞こえてこない。


 俺は清々しい気分でクエスト依頼受付へ直行したのだが、その途中で気になるパーティを見つけた。

 クエスト掲示板前で談笑してるあの四人……。


「おいっ、ディオン! あの四人見てみろ!」


 俺が後ろからついてきていたディオンに指さして教えると、四人を見て目を真ん丸くさせたディオン。

 この反応……やはり、あいつらがルインの依頼を受けたっつう【白のフェイラー】だよな?


「あいつらがルインの依頼を受けたパーティじゃねぇか?」

「あのパーティ、確かに【白のフェイラー】ですね。アーメッドさんが調べさせたスマッシュさん情報なので、ルイン君の依頼を受けたのは【白のフェイラー】で間違いはないと思います」

「ディオンはちょっとスマッシュ呼んで来い。俺はあいつらと話をしてくる」

「分かりました。くれぐれも騒ぎにならないように……って、もう聞こえてないですね」


 あいつらがルインの依頼を断ったのかどうかを、まず聞かねぇとな。

 逸る気持ちをなんとか抑えて、早足で四人へと近づく。


「おいっ、おめぇら【白のフェイラー】だよな?」


 俺が声を掛けるときょとんとした顔をしてから、俺が【青の同盟】だと言うことに気づいたのかニヤニヤとし出した。

俺を嘲笑した野郎ってことで、今すぐぶん殴っても問題ないが……今は堪えて情報を聞く方が先だ。


「ああ、そうだけど? ……はみ出し者で有名な【青の同盟】さんに声を掛けられるとは、俺達も出世したな!」

「……ぶっ! ぶあっはっは! おいおい、あまりイジってやるなってよ! パーティから追い出され——そして、この街からも出て行かなくちゃいけないんだしな!」


 頭の糸が切れた音がした。

 こっちは話で解決しようとしてたんだがな。

 こいつらが拳で聞いて欲しいなら、望み通り拳で話を聞かせてもらおうか。


「あっはっ……はぁ? おいお前、ここがどこだが忘れてんのか? 冒険者ギルドの中だぞ?」


 近づき胸ぐらを掴むが、キモ野郎は俺が手を出せないとタカを括り、きっしょいニヤケ面で煽ってきてやがる。

 ふっふっふ。この顔を今から殴れるのは最高だろうなぁ!


「お前こそ、俺が誰だか知ってんのか? —―オラァッ!!」


 右手で掴んだ胸ぐらを引くと同時に、左手を伸ばしキモ野郎の顔面に拳を叩きこむ。

 鼻の骨が潰れる感触がしたその瞬間、タイミング良く右手を放し、キモ野郎は勢いよく地面に叩きつけられながら吹っ飛んで行った。

 どんなキモ野郎でも血を噴き出しながら、宙を舞っているときは綺麗なんだよな。


 俺がそんな感想を抱くと同時に、飛んできた血まみれのキモ野郎の姿を見た受付嬢から悲鳴が上がる。

 騒ぎになっちまったが……、まあ、どうせ来週には利用禁止だし俺には関係ねぇな。


「はい、終わり。で、次はどいつが俺に殴られてぇんだ?」

「お、お、お、お前イカれてんのか!? こ、こ、ここは冒険者ギルドだぞ!!」

「そ、そ、そうだ! こ、こ、ここで事件なんか起こしたら—―」

「事件を起こしたらなんだってんだ? 生憎、こちとら‟はみ出し者”なもんでな。俺には一斉関係ねぇんだよ!」

「う、受付嬢! ギルド長を呼んでくれぇー」


 大声で受付嬢を呼んだ奴の頬を片手で掴み、そのまま宙へと持ち上げる。

 手足をジタバタさせて抵抗しているようだが、まるで抵抗になっちゃいねぇな。


 さて、どうしようか。

 このまま顎を粉砕してやってもいいんだが、やりすぎはよくねぇから……。

 俺はキモ野郎その二を、地面へと思い切り叩きつけた。

 見た目は地味だが、即地面だと威力が逃げねぇからこっちのが効くんだよな。

 

 俺は気絶したのを確認してから続けざまに、茫然としているキモ野郎その三に近づいて、顎先目掛けて拳を振り抜き、気絶し倒れているところをハイキックで合わせた。

 完璧に決まったハイキックにより、キモ野郎その三も吹っ飛び、残りはあと一人。

 さて、最後の奴はどう殺ろうかな。


「お、お、お、俺達がな、何かしつれいをしたなら——あ、あ、謝るんでっ!」

「謝罪なんていらねぇから、てめぇも一発殴らせろや」


 拳を振りかぶり、キモ野郎その四の顔面目掛けて、腕を捩じ上げるように拳を突き出すと、後ろから何者かに腕を止められた。

 血を吹き出しなが吹っ飛ぶところを想像していただけに、イラッとして振り向くと、俺の腕を止めたのはスマッシュを連れて戻ってきたディオンだった。


「ギルドの入口で別れてから、一分も経たずにこの惨劇。……アーメッドさん、流石にちょっと引きますって」

「うっせぇ。あとこいつだけだ、一発殴らせろっ!」

「駄目ですよ。まだ情報を聞き出していないですよね?」


 ディオンにそう言われ、ハッとする。

 不快な態度に血が昇り、すっかり本来の目的を忘れていたぜ。

 本当は一発だけ殴って、立場を分からせるつもりだったのに、危うく情報を聞き出す前に全滅させてしまうところだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る