第三十一話 白のフェイラー
約束の掲示板の前で待つこと、既に3~4時間程が経った。
冒険者ギルドの窓から夕陽が見え、もうそろそろ夜となる。
予定の時刻を大幅に過ぎているし、もしかしたらなにか問題でもあったのかと心配になるが、【白のフェイラー】さん達のことをなにも知らないから、俺にはただ待つことしか出来ないもんな。
ただ流石に遅すぎるため、一度受付へ行って確認しに行こうか迷っていると、入口の方から白のバンダナを巻いた四人組の冒険者がこっちに向かってきているのが見えた。
なにやら楽しそうに会話しているところを見て、なにも問題がなさそうでホッとする。
向こうは俺に気づいていなそうだし、こっちから話しかけようか。
「あの、【白のフェイラー】さんですか?」
「おいっ、マジかよぉ……。なんで待ってんだよ」
「うわ、イカレ野郎だったわ。……くっそぉ! 今回の賭けは安牌だと思ってたのに!」
「また負けかよ……昨日女に金使って手持ちねぇのによ」
俺が声を掛けた瞬間、口々に文句を言い始めた【白のフェイラー】さん達。
なにがなんだか分からず、俺は放心状態となってしまう。
「よーし、俺の勝ちな! 依頼内容見たときに頭のおかしい奴だと勘づいて良かったぜ。逆張りしたお陰で儲かったわ! ありがとな、坊主!」
三人が悔しがって一人が嬉しがっている。
それから少し立ち止まって話を聞いていると、どうやらこの人達はわざと遅れてきて、俺が待っているか待っていないかで賭けを行っていたらしい。
三人は待っていない方に賭け、もう一人は俺が待っている方に賭けていたと言うことのようだ。
俺で賭けると言う部分だけ見れば【青の同盟】さん達と似ているが、こっちの賭けはなんだか胸がざわつき、少し悲しくなる。
……でも、来てくれたなら良かった。
依頼は受けてくれるってことだもんな。
「あの、依頼について話をしたい——」
「あ? ちょっと待ってろや!」
賭けに負けた一人が食い気味で怒鳴ってきた。
態度の悪さが目につくが、俺はこういったことは慣れている。
心の中で5秒数えれば……ほら、気分は落ち着く。
言われた通り、しばらく四人の話を黙って聞いていると、ようやく話に一段落着いたようだ。
賭けで負けたからか、四人中三人の機嫌が悪いのが少しやりづらい。
そんなことを思っていると、先ほどから俺に突っかかってきた男がこっちを向いた。
「そんで、依頼だっけ? コルネロ山までの護衛に金貨4枚だよな?」
「ええ、内容と報酬はそれで合っています。受けて頂けるんですか?」
「誰かさんのせいで、丁度金もなくなっちまったしな。仕方がねぇが受けるわ。時間は明日からで良いよな?」
「こちらは大丈夫ですよ。早ければ早いほどありがたいので」
「それじゃ決まりだ。明日は朝に冒険者ギルドな。坊主、遅れるんじゃねーぞ」
俺にそう言うと、【白のフェイラー】さんたちは冒険者ギルドから立ち去って行ってしまった。
あまりの出来事に言葉を失ってしまう。
治療師ギルドでも似たようなことはあったが、あくまで従業員と従業員でだったからな。
……これはもしかしたら、ハズレの冒険者パーティを引いてしまったかもしれない。
素行が悪いと聞かされていたアーメッドさんの態度には不快感はなかったのに、【白のフェイラー】さん達への不快感が凄いな。
冒険者ギルドにチクったらなんとかならないかなとも思いつつも、仕返しが怖いため今は泣き寝入りするしかない。
今朝はあれだけ魔力草を食べたくないと思っていたのに、今すぐにでも魔力草を食べて強くなりたい。
アーメッドさんとの約束の次に、強くなりたいと思えた出来事だった。
クエストに関して不安が残る顔合わせだったが、性格が少し駄目でも実力は確かだと思うから、依頼に関しては大丈夫だと思う。
……でもこうなってくると、二連続でのクエスト失敗が引っかかってくるんだよな。
俺に出来ることは少ないとは言え、出来る準備はするべきだと思う。
買い出しは済んでいるが、万が一に備えて追加でアイテムを購入しておこう。
買い出しを終えて、宿へと戻ってきた。
追加で買ったアイテムは携帯用食料と、スライムの液体。
それから簡易的な皮の防具と戦闘用のダガー。
スライムの液体は治療師ギルドで使っていたアイテムで、植物をつけこんでおくと、その効能がスライムの液体へと移るのだ。
食べられはしないのだが、塗り薬が簡単に作れるため、かなり重宝されているアイテム。
防具とダガーに関しては、完全に気休め程度のものだ。
特価で売られていたため、なんとなく買ったもの。
よしっ、これらの追加グッズも鞄に詰め込み、準備万端。
あとは明日を迎えるだけだな。
やることも終わったし、【プラントマスター】の実験に入ろうか。
俺は寝る準備を調えて、定位置へと着く。
今日行うのは、魔力草を生成するのに必要な魔力量を調べること。
現在の総魔力量14で魔力草を限界まで生成することで、生成に必要な魔力量を割り出す作戦だ。
魔力草、一本目を生成。脱力症状はなし。
二本目も脱力症状はなし、三本目と四本目も問題なく生成できた。
そして五本目だったのだが……生成が成功せずに脱力症状が起こった。
目の前がクラクラしだし、体に力が入らなくなる。
このことから、魔力草の生成に必要な魔力量は3だと言うことが分かったな。
市場価値は魔力草が薬草の6倍だから、売るとしたら魔力草を生成した方がコストパフォーマンスは良さそうだ。
そこまで考えたところで、俺の意識はぱったりと途切れ、眠りについた。
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