第二十四話 破格の買取額
それから、店内の商品を二周ほど見て回ったところで、奥の部屋からおばあさんが戻ってきた。
鑑定にかかった時間は約40分ほどだったのだが、その間お客さんは誰一人として来ていない。
お客さんがいなくては、買い取りなんてしている余裕などないんじゃないかと思いつつも、俺もカウンターへと向かう。
「待たせたねぇ。査定は終わったよ」
そう言いながら俺の持ってきた植物を、再びカウンターの上へと置いたおばあさん。
どうやら、俺が仕分けた薬草を更に細かく仕分けたようだった。
「これが査定額だよ。ちなみに毒草に関しては、私の店では扱っていないから買い取り出来ない。高品質なものを持ってきたのに悪いね」
「いえ、大丈夫ですよ……んんッ!?」
紙に書かれた査定額に思わず腰を抜かしそうになる。
合計で金貨1枚と銀貨8枚での買い取り。
内訳は薬草が84本。上薬草が3本。オール草が2本でそれぞれ銀貨6枚での買い取りであった。
「こんなに高くていいんですか!?」
「うん? ……別に高く買い取ったつもりはないよ。こっちは買い取った額の1.5倍ほどで売るからね」
「あの……失礼だと思うんですが、それで売れるんでしょうか?」
かなり無茶苦茶だと思う。
1.5倍だとしたら、上薬草を1本を銀貨3枚で売ると言うことだもんな。
治療師ギルドですら、そんな破格の値段設定ではなかったはず。
「すぐにって訳でもないけど、売れるさね。まあ、売る秘密はあるんだが……それは企業秘密だよ」
朗らかな笑顔でそう断言したおばあさん。
表情から見ても嘘はついていなそうだし、わざわざ高値で買い取って嘘を吐くメリットがないもんなぁ。
……気になるが、企業秘密ということなら仕方がない。
「凄く気になりますが……おばあさんが赤字にならないと言うことでしたら、是非その金額での買い取りお願いします!」
感謝も込めて、地面に頭がつく勢いでお辞儀をする。
良心的な価格で買い取ってくれるこのお店を選んで良かったと、俺は心から思った。
「そこまで喜ばれると、ワタシもなんだか良いことをした気分になるねぇ。それじゃこれが買い取り金額の金貨1枚と銀貨8枚だよ」
「本当にありがとうございます!」
初めて手にした正真正銘自分で稼いだお金。
いや、治療師ギルドで働いていたときも自分で稼いだお金なのだが、意識の違いというのか……。
給料から生活費が勝手に引かれ、忙しさのあまり受け取ったお金すら確認したことがなかったからな。
こうしてお金を稼ぐための手立てを考え、自分の足で赴き、それが実となった喜びは本当に大きい。
「こちらこそありがとう。よければアンタの名前を教えてはくれんか? また買い取りに持ってきてくれた時のために覚えておきたくてね」
「……私はルイン・ジェイドです」
一瞬、偽名を使うことを頭に過ぎったが、こんないい人に嘘は吐きたくない気持ちが勝り、俺は正直に自分の名前を名乗った。
この『エルフの涙』が、治療師ギルドと接点があることは、その接点から訪れた俺が一番良く知っている。
今後の利用禁止に加え、今回の買い取りも下手すればなくなってしまうのではとも俺は考えたが、嘘だけは絶対についてはいけない。
「ルインねぇ。覚えたよ……ん? ルイン・ジェイド?」
「はい。私がルイン・ジェイドです」
名前を伝えると心当たりがあったのか、すぐに聞き返してきた。
やはりブランドンはこのお店にも触れ回っていたんだな。
誰でも知っているような大きなお店に触れ回っているのはまだ分かるが、街の外れにあるこのお店にも触れ回っているとなると、本当にこの街で生活していくのは厳しいものがあるかもしれない。
ただ、そんな俺のネガティブな考えとは裏腹に、おばあさんは先ほど見せたような悪い笑顔になっている。
「アンタがルイン・ジェイドだったのかい。二日程前まではこの街で一番の有名人だったよ」
「やっぱり聞いていたんですね。すいません、黙ってお店に来てしまって」
「いやいや、気にしないで大丈夫だよ。ワタシは治療師ギルドのギルド長が大嫌いなものでな。言うならばルインの味方……とまではいかないが、味方寄りだよ」
「ですけど、俺がこのお店に通っていることがバレたら、治療師ギルドに植物を卸せなくなっちゃうんじゃないですか?」
「そこら辺は大丈夫さ。ブランドンが触れ回っているのは‟ルイン・ジェイドを雇うのを禁止”。利用に関しては特に咎めていない。それにワタシは別に治療師ギルドに卸さなくてもやっていけるからね。面倒くさい繋がりのために仕方なく卸してはいるけど」
おばあさんのその話を聞いて、なんだかすごく安心した。
俺にとって、事情を全て知っている初めての味方が出来たような気がしたのだ。
もちろん【青の同盟】さんたちも味方ではいてくれたが、詳しい事情は話していないからな。
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