第二十三話 イミュニティ草


「かなり質の高いものを持ってきましたので、多分大丈夫だと思います! とりあえず査定だけでもしてもらうことってできますか?」

「あらまぁ凄い自信だね。アタシは構わないけど、査定して売らないってことになったら幾分か査定費をもらうが大丈夫かね?」

「はい。それで大丈夫ですので、お願いします!」


 そう返事をし、俺は鞄から昨日仕分けた高品質の植物を取り出す。

 仕分けたときは、高品質の植物は少ないなと思っていたのだが、こうして改めて見るとかなりの量がある。


「おんや、随分と多いね。どれ、とりあえず一つだけ見て――んっ!?」


 俺が取り出した薬草を一本手に取り、眺めたおばあさんの手が止まった。

 その後、人が変わったように機敏な動きでポケットからナイフを取り出すと、軽く表面に傷を入れ、そこから零れ出たエキスを指で掬ってペロリと舐めた。

 

「なるほど、なるほど。もう一本見るよ」


 そう言うとおばあさんは、別の薬草をもう一本手に取り、先ほどと同様のことを始めた。

 エキスを舐めてなにかが分かったのか、何度も頷いているおばあさん。

 最初はしかめっ面だった表情が、段々と悪い笑顔になっていっている。


「アンタ……。どうやらプロのようだね。私が仕入れのために専属で雇っている冒険者たちが持ってくる薬草と、同等以上にこの二本とも質が高かった」


 プロと名乗るのはおこがましいけど……伊達に長年、鑑定作業だけを行ってきていない。

 【プラントマスター】のスキルもあるし、植物の鑑定だけが俺の唯一の特技と言える。


「そう言って頂けて嬉しいです。他の植物も品質的にはその二本と同品質だと思いますので、良ければ買い取りお願いします」

「この二本の薬草を見せられたら疑う余地がないからね。分かったよ。しっかり鑑定と査定をするから待っとくれ。何処かで暇を潰してもらってきてもいいからね」

「あー……それじゃ、時間潰しにここの商品を見ててもいいですか?」

「ああ、大丈夫だよ。あまり面白い物はないが、ここで時間を潰しておいてくれ。それと今切り傷を入れた薬草に関しては、確実に買い取らせてもらうから安心しとくれ。なんだったらこの二本に関しては買い取る前に駄目にしてしまったし、二倍の値段で買い取らせてもらうからね」

「いえいえ。買い取って頂けるなら正規の値段で大丈夫ですよ。それではよろしくお願いします」


 俺が出した植物を持ち、奥の部屋へと行ってしまったおばあさんを見送った。

 杖をついていたし、運んであげれば良かったと少し後悔しながら、俺は暇つぶしにお店の商品の物色を始める。

 

 数は少ないが面白い商品が結構並んでいるな。

 色々と商品を見ていくが……やはり俺の目に止まったのは、様々な効能を持っている植物が置かれた棚。

 良いことではないんだろうなぁと思いつつも、手をかざし鑑定してみるとやはりどの植物も高品質だ。

 

 ただその分値段も高く、薬草なのに1本で銅貨1枚で売られていたり、魔力草は1本で銅貨5枚もする。

 鑑定できる俺は、高品質なのだからこれぐらいの値段設定でもおかしくないと思うが、一般の人は果たしてこれを買うのかどうか疑問に思ってしまうな。

 ……店主のおばあさんが素晴らしい鑑定眼を持っていながら、お店にお客さんがあまりいない理由がなんとなく分かってしまった気がするぞ。


 引き続き鑑定を行いながら植物を見ていたのだが、俺は一本の植物の前で立ち止まる。

 立ち止まった理由はその値段の高さだ。

 なんと、驚くことにこの植物一本で白金貨1枚と書かれている。

 

 えーっと、名前は『イミュニティ草』。

 聞いたこともないし、もちろん見たこともない植物だな。


 見た目もかなり異質で、葉が渦を描くように生えている。

 ……なにかの間違いがあるかもしれないと思い、鑑定も行ってみるがやはり一度も鑑定したことのない植物のようで、全ての項目で???と出てしまっている。


 単純にどういった効能なのか気になるけど、鑑定する訳にもいかないし、もちろん鑑定のためだけに白金貨1枚なんて払えない。

 そもそも俺は生まれてから一度も、白金貨を触ったことがないからな。


 名残惜しい気持ちも残しつつ、植物の置かれた棚を後にする。

 『イミュニティ草』に関しては、あとでおばあさんに軽く聞いてみようか。


 それと、ダンベル草に関しても聞いてみよう。

 博識そうだったし、なにかしら知っている可能性があると俺は踏んだ。

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