第二十二話 エルフの涙
「それで、一体何の買い取りを希望してるんだ?」
ワクワクしたような目を俺に向けているスキンヘッドの職員さん。
持ってきたのは大量の植物なんだけど……果たして期待に沿えるだろうか。
「実は有用植物の買い取りをお願いしたくて来たのですが、大丈夫ですかね?」
「植物? ……植物かぁ。まあ、大丈夫だ。随分とデカい鞄を引っ提げてたから魔物の素材かと期待しちまったぜ」
露骨に興味が薄れたのか、テンションがガタ落ちしている。
ちょっとだけ申し訳なく思いながらも、鞄から低品質の植物を取り出し、受付のテーブルの上へと乗せた。
「こちら全部、植物なんですが……見積りして頂いてもよろしいですか?」
「それ全部有用植物かよ! 一体どんだけ集めてきたんだ……。まあ、分かったぜ。植物の類は俺の専門外だから他の職員がやるだろうが、買い取り金額の見積もり出しておく。この量だとしばらく時間がかかるだろうから、余所で時間潰してきてくれ」
「分かりました。よろしくお願いします!」
俺はスキンヘッドの職員さんに深々と頭を下げる。
この人の良い職員さんが金額査定するとなったら、流石に低品質なものだけを詰め込んだのは申し訳なくなるが、他の職員さんなら良かった。
俺は買取番号札を受け取ってから、時間を潰すために一度、冒険者ギルドを後にした。
次は高品質の植物を売ることも兼ねて、薬草などを直接扱っているお店へと向かいたいのだが……正直、どのお店がいいのか分からない。
治療師ギルドで働いていたが、本当に薬草の仕分けしかしてなかったもんなぁ。
どこに行こうか頭を悩ませていたのだが、俺はとあることを思い出し、一つのお店にピンと来た。
俺は治療師ギルドでは、植物の鑑定……つまりは、品質の良い植物と悪い植物を選別する作業を行っていたのだが、そのとあるお店だけ俺が品質が良いと判断するギリギリのラインのものばかりを送ってきていたお店があったのだ。
確か、『エルフの涙』とか言う名前のお店だった気がする。
俺自身はなんの伝手もないし、どんなお店なのかすらも分からないけど、単純にどんな人があの薬草とかを卸していたのかが気になるな。
そこで買い取りもしてもらえるかもしれないし、一度行ってみるのはアリかもしれない。
もし品質までこだわっているのだとしたら、俺が仕分けた高品質の薬草の価値も分かってくれるかもしれないしな。
そんな考えから、俺は街で聞き込みをしながら『エルフの涙』へと向かうことに決めた。
「ここが『エルフの涙』かぁ……」
聞き込みをしながら辿りついたのは、街のはずれにある小さなお店。
俺の想像では大きなお店だったので、聞き込みをした人に騙されたのかと思ったが、確かに看板には『エルフの涙』と書かれていた。
店の近くから既に薬草の匂いが漂ってきているが、鼻にくる独特のキツい臭いではなくほんのり優しい心が安らぐのような心地よい香り。
俺は誰もいない店の前で匂いを嗅ぐように大きく深呼吸をしたあと、『エルフの涙』の扉を開いた。
扉が開くと、扉についていた鈴がカランコロンと心地の良い音を響かせる。
店内も大きいとは言えず、店頭に並んでいる植物やポーションの数もかなり少ない。
と言うか他のお客さんも店主さんもおらず、店内は俺一人だけだ。
不用心だなと思いながらも、店主さんを呼ぼうと声を掛けようとしたその時、店の奥の方からコツンコツンと杖をつく音と、こちらにゆっくりと歩いてくる足音が聞こえてきた。
「おや? こんな時間にお客さんとは珍しいね」
奥から出来てきたのは、異様に耳の長いおばあさんだった。
髪の毛は金髪と白髪の半々で、昔は美人だったであろうことが分かる。
そしてニッコリとした笑顔は、朗らかで柔らかい印象を受けた。
「いきなり来てしまって申し訳ございません。このお店に来るのは初めてなのですが大丈夫でしょうか?」
「ああ。もちろん大丈夫だよ。うちは見ての通りお客も少ないから、一見さんお断りなんてしている余裕はないからねぇ」
そう言いながら、くつくつと笑っているおばあちゃん。
治療師ギルドの件で、俺は入店お断りもあると思っていたから本当に良かった。
まあ、俺の素性を知らないだけって言う可能性もあるけど。
「それで、今日はどんな用事でこのお店に来たんだい?」
「実は薬草等の買い取りをしてもらいたく、訪ねてきたんですが……大丈夫ですかね?」
俺がそう伝えると、先ほどまで優しそうな笑みを浮かべていたおばあちゃんの眼光が、キッと鋭くなった。
その鋭い視線に思わず背筋が伸びる。
「そういうことなら悪いが期待には沿えないかもしれんね。アタシのお店で取り扱っている薬草はかなりこだわっていてね。中途半端な薬草は冒険者ギルドよりも安く売ることになるよ」
その言葉を聞いて思わず顔がにやけてしまう。
思った通りだ。このお店ならば、俺の仕分けた高品質の植物の価値を分かってくれるかもしれない!
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