第二十一話 ダンベル草の味
軽く表面を拭き取ってから、早速ダンベル草を口へと運ぶ。
普段の鑑定の時とかは絶対に咀嚼せずに飲み込むのだが、今回は希少と言うこともあるため味わって食べようか。
葉から滲み出る汁が大事……みたいな可能性もあるからな。
「……うぐっ!!」
口の中へと入れて数回噛むと、顔を思わず歪めてしまうほどのえぐい苦みが口いっぱいに広がり、体のありとあらゆる穴から苦みが体内を突き抜けていく。
えずきが止まらず、今すぐにでも吐き出したくなるが、俺は絶対に一滴たりとも吐き出さない。
手で無理やり口を閉ざし、涙目になりながらも口の中に入ったダンベル草を全て飲み込む。
飲み込んだあとも、口の中全てが麻痺したかのように痺れ、更には胃の中から苦みがしているようで、しばらく起き上がることが出来なかった。
色々な植物を食しているが、今まで食べた中でダントツの不味さだったな。
薬草とかもそのまま食べると、酷い苦みが襲ってくるのだが、まだ我慢できるレベルの苦み。
このダンベル草は、毒草を食べてしまったのではと思うほどの苦みだった。
そんなことを考えながら横になっていたお陰で、未だに口の感覚がないが大分楽になった。
ふぅー。
一息ついてから体を起こし、体の変化を調べる。
まずは外見から見てみるが……外見には一切変化はない。
変わらず細い枝のような腕のままだ。
部屋に置いてある古いベッドも軽く持ち上げてみるが、普通に重いまま。
希少性に加え頑張って食べたのに正直、期待外れだな……。
まあ、そもそも効果が小だったからな。
流石に一本程度の服用じゃ目に見える変化は訪れないか。
ただ、この即効性のなさから、ダンベル草は一時的に能力を上げるものではない可能性が俺の中で非常に高くなった。
遅れて効果が現れるものの可能性もあるけど、一時的なものは基本的にすぐに体に変化が訪れることが多い。
とりあえず体の変化が分からなかった以上、これ以上の正確なデータは取れそうにないしもう一本は取って置き、一日様子を見よう。
……と言うか、残りのもう一本を食べろと言われても食べれない。
ダンベル草に関しては期待はずれ感は否めないが、他の植物に関してはかなり満足のいく結果だった。
今日は今すぐ寝て、体力を回復させてから明日、仕分けた植物を売りに行ったり魔力草を使用したりしようか。
そう考え、俺は倒れるようにベッドへと寝転がると、そのまま気絶するように意識が飛んだ。
翌日。
疲れが相当溜まっていたからか、かなり眠ってしまったようだ。
疲労もかなり抜けているし、胃のむかつきもなく、腹もいっぱいじゃないのは久しぶり。
昨日のダンベル草で負った苦みによる痺れも、もう治まっている。
やはり体調万全の体は気持ちがいいな。
起きてからも、しばらくベッドでゴロゴロしていたのだが、流石に時間がもったいないと感じ始め、起き上がる。
今日の予定は植物の売却を行ってから魔力草の使用。
と言うよりも、今回稼げたお金次第ではあるが、しばらくの間は魔力草を消費する日々が続くと思う。
植物採取で稼げることは分かったが、あくまで俺の目的は自給自足である。
そのためには魔力を増やすことが先決だ。
素早く準備を終えて早速、昨日仕分けた植物を持ち、まずは低品質の植物の売却を行うため冒険者ギルドへと向かう。
本当は依頼をしたときのように、人が少ない朝一が良かったのだが、かなり眠ってしまったため、もう既に日は真上まで昇ってしまっている。
疲労がピークに溜まっていたし、こればかりは仕方がないな。
そう気持ちを切り替えて、冒険者ギルドへと入り、受付へと目指す。
うーん……。買い取りはクエスト依頼受付で良いんだろうか?
買い取り専用の受付がないため、どこの受付に行くか迷ったが、今回してもらうのは買い取り‟依頼”と言うことで、俺はクエスト依頼受付へ行くことに決めた。
おっ、【青の同盟】さんを紹介してくれた受付嬢さんの場所が空いている。
一方的だと思うが、顔見知りだしあそこの受付へ行こう。
「すいません。よろしいでしょうか?」
「いらっしゃいませ。ここはクエスト依頼専用受付なのですが、よろしかったでしょうか?」
もはやお決まりの言葉が返ってきて思わず笑ってしまう。
やはりこの対応がマニュアルなのだろうか。
微妙に会話になっていないもんな。
「クエスト依頼と言うか、買い取り依頼をしたくて来たのですが、受付はここでよろしかったでしょうか?」
「買い取り依頼ですか? はい。こちらで大丈夫ですよ。担当の者をお呼び致しますのでお名前と年齢。それからご職業をよろしいでしょうか」
「はい。名前はルイン・ジェイド。年齢は十五で、職業はなしです」
「…………ルイン・ジェイド……? ……かしこまりました。担当の者をお呼びしてきますので少々お待ちください」
スラスラと紙に情報を書いていた受付嬢さんだったが、俺の名前に引っかかりを覚えたのか、また意味深に俺の名前を呟いた。
この間もまったく同じことになったため、既視感を感じるやり取りだが、今回は特に問題なくそのまま担当者さんを呼んでくれるみたいだ。
受付嬢さんが後ろの部屋へと入り、しばらくすると一人の男性が中から出てきた。
スキンヘッドで冒険者のようにガタイが良く、鋭い眼光をした男性。
体中に無数の斬り傷を負っていて、禿げた頭にまで傷は及んでいる。
「おう! お前が買い取り依頼者か!」
「はい、そうです。よろしくお願いします!」
「わっはっは! そんなに気負わなくていいぞ。わりぃな、こんな見た目だから受付嬢みたいに愛想がなくてよ!」
見た目はかなり怖いが、気さくで人当たりの良い笑顔を見せてくれた。
冒険者ギルドの受付嬢さんたちは、なんだか人間と会話している感じはしなかったのだが、この人からは人間味を強く感じる。
どちらかと言えば、この人の方が愛想があると俺は思った。
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