第十七話 依頼を終えて
※【青の同盟】視点です。
「行っちまいやしたね」
「そうですね。行ってしまいました」
グレゼスタの中へと入るルイン君を三人で見送る。
冒険者に依頼をしてくる人では、珍しく本当に良い子だった。
大抵の人間は下級冒険者である私達を見下して接してくる連中ばかりで、その行動にイラつき暴れかけるアーメッドさんを止める……と言うのが恒例行事でしたから。
まあ、それが当たり前であり、普通の態度ではあるんですけど。
最初は怯えていたと言うこともあったでしょうけど、私達相手にも丁寧に接してくれて、イラッとしないどころか常に楽しかった依頼は初めてでしたね。
「ルインのやつぁ、無所属って言ってましたし【青の同盟】に引き込んじゃいやしょうよ」
「スマッシュさんがルイン君を気に入ったのも分かりますが、それは厳しい話ですね。これから新天地に赴く訳ですし、即戦力でない限り新メンバーの加入は難しいです」
私はスマッシュさんに言い聞かせると共に、前で俯いているアーメッドさんにも聞こえるように話す。
ルイン君を一番気に入っていたのは、なんだかんだ言ってアーメッドさんでしたからね。
【青の同盟】に加入する条件の一つとして一番の問題である、アーメッドさんと馬が合う。
ルイン君はこの条件をクリアしていただけに、本当に惜しい逸材。
あの植物を鑑定する能力は常軌を逸していましたから。
別の出会い方をしていたら、もしかしたら一緒にパーティを組んでいた——なんて世界もあったかもしれません。
「かぁー! エリザが問題を起こさなければなぁ。ルインと長く仕事できたかもしれやせんのに」
「スマッシュさん、そう言う言い方は良くないですよ。私達はアーメッドさんと【蒼の宝玉】の確執を知っているんですから。それにちょっかいをかけてきていたのは向こうからです。アーメッドさんも手が出るのも無理はありません」
アーメッドさんは、スマッシュさんの一言に反応し肩を跳ねらせたが、こちらへ来ることはなかった。
いつもなら名前呼びしたことに対して、ゲンコツを食らわせにくるのだが……そんな余裕もないようですね。
私ももちろん接していて良い気持ちではありましたが、あのアーメッドさんを僅か四日でここまで好かせるとは、ルイン君は人たらしの才能があるのかもしれません。
「おっ、あっしらの番が来たようですぜ。さっさと手続きを終わらせちまいやしょう」
「そうですね。冒険者ギルドの報告も済ませて今日は休みましょう。依頼は楽しかったですが、山での野宿は精神衛生上あまりよろしくなかったですから」
今日は日が落ちかけているため休むことを提案し、グレゼスタの街へと入るための手続きを行った。
そのままの足で冒険者ギルドへと向かい、報告を済ませようとアーメッドさんを先頭に冒険者ギルドへと入ると、いつもの如くクスクスと嫌味たらしい笑いが起こる。
私達がグレゼスタの冒険者ギルドを追い出されたのが広まってからは常にこんな状態が続いていた。
アーメッドさんがいるため、直接は手を出してこないのでいいと言えばいいのですが、私でも少し癪に感じてしまいます。
「クエスト達成報告だ。さっさと報酬をくれ」
クエスト報告の受付へ行き、アーメッドさんが受付嬢に雑に報酬を要求する。
よく見なければ気づかないくらいではありましたが、受付嬢は若干顔を歪めてから報酬金が入っている麻袋を取り出すと、アーメッドさんに手渡され、そのまますぐに私へと渡される。
私は流れるように、中の金額が合っているかどうかを確認作業を行う。
「確かに金貨3枚と銀貨7枚ありました」
「よしっ、じゃあ帰るぞ」
一刻も早く立ち去りたいのか分かりませんが、足早にそう告げたアーメッドさん。
全員で踵を返したその直後、受付嬢から待ったの声が入った。
「すいません。ちょっとお待ちください……」
「ああ?」
受付嬢のその声に露骨にイラついた様子を見せたアーメッドさんが、威圧するような低い声で受付嬢を威嚇した。
受付嬢はアーメッドさんのドスの効いた声に体を跳ねらせて小さく震えながら、なにやらもう一つの袋を渡そうとしている様子。
「こ、これを依頼を出していた方から、渡して欲しいと受け取っていまして……」
ルイン君からのものだと察し、雑に袋を受け取ったアーメッドさん。
すぐに中を覗くと、複数本入った薬草の束とそれに添えられた小さく綺麗な色とりどりの花が入っていた。
そんなルイン君からの可愛らしいプレゼントに三人で、顔を見合わせて思わず微笑んでしまう。
……改めて思いますが、やはりルイン君は良い子でしたね。
それからこのグレゼスタで仕事できるまでの期間。
ルイン君を探しては、ちょっかいをかけるアーメッドさんの姿をよく目にした。
アーメッドさんの度が過ぎる可愛がりにも、嬉しそうに対応してくれるのが可愛くて仕方がないのでしょう。
ルイン君と仲良くなりすぎてアーメッドさんが、グレゼスタを出発する際にゴネ出すのではと少し怖かったのですが、軽く涙を流しはしたけれど問題なくグレゼスタを発つことが出来ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます