第十六話 帰還
「そうだったんですか。それは……どうしようもないですね。せっかくアーメッドさんだけじゃなく、ディオンさんやスマッシュさんとも仲良くなれたのに、残念です。本当に」
「……ルインはすぐにしみったれるな。別に永遠の別れって訳じゃねぇだろ。俺らはグレゼスタの冒険者ギルドが利用できなくなるってだけで、グレゼスタ自体を出禁にされた訳じゃねぇ。たまにならグレゼスタに遊びに来るし、会いたいならお前が強くなって俺らに会いに来いや!」
お前が強くなれ。
俺ももちろんその気ではいるが、仮に最速で強くなったとしても数年はかかるだろう。
アーメッドさんレベルとなると、もっとか。
「頑張りますが……会いに来てくれると嬉しいですね」
「意気地なしな野郎だな」
「……それで、いつグレゼスタを出発するんですか?」
「今月いっぱいまではグレゼスタにいるから、来月頭に発つ予定だな。一応、結構時間はある」
結構な時間はあると言っても、既に今月は半分が過ぎている。
残り半月でもう一度、コルネロ山の護衛依頼を受けてもらうのは、確かに不可能か。
「ま、俺は楽しかったって話だ。辛気臭い話になっちまったからもう寝る!」
「……はい。おやすみなさい」
無理やり話をぶった切ったアーメッドさんは、そのまま何処かへ行ってしまった。
良い感じで眠れそうだったのに、寝る前に嫌なことを聞いてしまったな。
アーメッドさん達からしたら、俺はただの依頼人Aだったかもしれないが、俺からしたら、初めてこのグレゼスタに来てから親切にしてくれた大事な人。
三日と言うまだ短い期間での付き合いだが、俺はこれから長い間、持ちつ持たれつの関係を築いていければと思っていただけに、本当にショックが大きい。
だからと言って、俺になにが出来るのかと言えばなにも出来ないのも事実。
自分の無力さを痛感することばかりで嫌になる。
暗い気分で眠りについた翌日。
変に考え込んでしまってあまり眠ることが出来なかった。
眠い目を擦りながら、ディオンさんとスマッシュさんを探して歩くと、いつもの如く二人は片付けを行っている。
まだ日が昇ったばかりなのに、本当に二人は起きるのが早いな。
「おはようございます。ディオンさん、スマッシュさん」
「ルイン君、おはようございます。……どうしたのですか? かなり眠そうな様子ですが」
「いや、実は昨日の夜、アーメッドさんからグレゼスタを発つことを聞いてしまいまして、それについて考えていたせいであまり眠れなかったんです」
「へー、エリザがそんなことまで話したんですかい?」
「アーメッドさんからではなく、俺が次の依頼を頼んでって感じでしたが、話してくれましたね」
俺がそう伝えると、二人はお互いの顔を見合わせた。
「そうだったんですね。私達もルイン君の依頼は楽しかったですし、依頼自体も気を楽に行えたので、また仕事を共に出来たなら嬉しい限りだったんですけど」
「本当にエリザが揉め事を起こさなけりゃあ、いい付き合いを出来ていたと思いやすがね」
「私もそう思いますが、こればかりは仕方がないですからね。今日で契約は終わりですが、最後までよろしくお願いします」
グレゼスタまでの護衛も兼ねて、俺は改めてお願いをする。
それから三人で片付けを終えたあと、まだ帰るまでは時間に少し余裕があったため最後の採取を行ってから、コルネロ山を下山することとなった。
「おーい、お前ら準備は出来たかっ! 忘れ物しても取りに来れねぇからな。よしっ、グレゼスタに帰るぞ!」
一晩経ち、高いテンションに戻っているアーメッドさん指揮の元、拠点を発つ準備を始める。
この四日間で採取した植物でパンパンになった鞄を背負い、もはや慣れ親しんだ拠点に別れを告げる。
この山のお陰で、俺の生き延びる目途が立てることが出来た。
また来ることと感謝を込めて山に一礼し、コルネロ山を後にする。
それから特に問題らしい問題もなくコルネロ山を下山でき、またしてもアーメッドさんの陽気な歌を聞きながら、四日前に通った平坦な道をひたすらに進んで行く。
行きとは違い、ディオンさんやスマッシュさんの人柄も知っているため、話も盛り上がりあっという間にグレゼスタの街が見えてきた。
行きはあれだけ長く感じたのだが、帰りは随分と早く感じたな。
「無事に戻ってくることが出来ましたね。ルイン君、お疲れ様でした」
「ルインはあっしらが引き受けた依頼人の中で、圧倒的に優良な依頼人でしたぜ。拠点は変わっちまいやすが、また何処かで会ったときは飲みにでも行きやしょう」
「お二人ともこんな俺に優しく接してくださり、本当にありがとうございました! この依頼を【青の同盟】さん達に依頼して本当に良かったです! 是非、また何処かでお会いできたらご飯でも行かせてください」
グレゼスタの門付近で、ディオンさんとスマッシュさんと別れの挨拶を済ませる。
たった四日間だが、俺にとっては人生を変える四日間だったと言っても過言ではない。
「おらっ、ルインは先に街に入れよ。俺達は手続きをするから」
二人とは一線を画しかなりあっさりとしているアーメッドさん。
アーメッドさんとも随分と仲良くなったと思ったのだが……まあ、これくらいの反応が普通だよな。
「……アーメッドさん、依頼を受けてくださいましてありがとうございました。護衛だけでなく、冒険者としての高みも見せてもらい勉強になることが多かったです。あの時は日和ってしまいましたが、宣言します。必ず強くなって必ず会いに行きますので、その時はよろしくお願いします」
「…………出発は来月って言ったろ? 街ですれ違ったとき恥ずかしくなるからやめろや! いいから中に早く入れっ!」
アーメッドさんは深々と頭を下げている俺相手に片手を振り上げ、殴る素振りをしてきたため、俺はすぐに逃げ出して街の中へと急ぐ。
……確かにグレゼスタを発つのは来月と言っていたな。思わず感極まって語ってしまった。
これだけ別れの言葉を綴ったら……確かに街ですれ違うときに少し恥ずかしくなりそうだ。
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