第十三話 ダンベル草の採取


 ここ一帯の植物の量が尋常ではなかったため、全ての鑑定と有用植物の採取に約3時間程かかってしまったが、無事に全て採取を終えることが出来た。

 結果は薬草84本。魔力草28本。上薬草3本。オール草1本。リンリン草5本。

 それとは別に、未鑑定の植物も複数種あったが、未鑑定植物に関してはどれも効果は微妙で採取には至っていない。 


 でも、ここら一帯の収穫だけで、昨日の合計収穫額を超える約金貨1枚と銀貨6枚分の植物が採取できた。

 まだ目標金額である金貨4枚分には少し遠いが、俺の計算上あと銀貨9枚分で目標には到達するため、今日中には達成する可能性も出てきたな。


 そして……俺は見つけた瞬間につけていた、目印に向かって歩く。

 目印前に着き、その目の前に生えている植物を鑑定して、俺の見間違いではないことの再確認を行う。


【名 前】 ダンベル草

【レベル】 76

【効 能】 筋力上昇(小)

【繁殖力】 極低

【自生地】 コルネロ山


 うん、よしっ! 間違いなくダンベル草だ。

 数えきれないほどの雑草の中に紛れていたダンベル草を、ようやくだったが俺は見つけることに成功していた。

 目標到達額にも到達するだろうし、このダンベル草は俺用として使用することができる。

 ダンベル草の正確な効果を調べないといけないからな。


 現状、俺は‟使用したら筋肉がつく植物”だと認識しているが、これが一時的にと効果が限定されている可能性も十分にある。

 なんにせよこのダンベル草が、超有用な植物であることには変わりはないんだけどね。


「ルイン君。採取は終わったのですか?」


 俺がダンベル草を採取してからしばらくの間、ニヤニヤしながら立ち止まっている様子を見兼ねたのか、少し離れて周囲の索敵を行ってくれたディオンさんが声を掛けてきた。

 ダンベル草に意識を全て持って行かれていたため、採取完了の報告を完全に忘れてしまっていた。


「ディオンさん、すいません。採取は終わりました」

「少し棒立ちしていましたので、心配しましたが問題なかったようで良かったです。……それにしても、尋常ならざる速度でしたね」


 少し目の色を変えてそう言ってきたディオンさん。

 尋常ならざる速度。

 俺には正直その自覚はないが、確かに【プラントマスター】がなければこの速度で採取していくのは不可能ではあることは確かだ。


「あの……実はギフトで得られたスキルが‟レア”でして、そのお陰でこの速度で鑑定出来ているんです」

「なるほど、‟レア”持ちだったのですか。それなら多少の合点はいきました……が、鑑定スキルを持っていたとしても、その速度で鑑定と採取を行うのは人間技ではないと私は思いましたよ?」

「いや、スキルさえ持っていれば誰でもできますよ。本当に全て‟レア”のお陰ですので」

「ふふっ。ルイン君の驕らないところ、私は好きですね」


 驕っていないって訳ではないんだけどな……。

 驕るほどの実力を持っていないだけで。


「あの、少しだけ採取した薬草を見てもよろしいですか?」

「ええ、もちろんです。良ければ何本か持って行ってもらっても構いませんよ」


 ディオンさんのお願いに俺は快く了承する。

 採取した植物を見せるために鞄を開くと、薬草の独特な臭いが鼻をつき、治療師ギルドで働いていたときのことが脳裏を駆け巡る。

 奮発した買ったばかりの鞄も既に緑がかってしまっているし、この良い鞄を植物入れにしたのは勿体なかったかもと少し後悔。


「へー、本当に全て薬草と魔力草ですね。……これ、護衛依頼ではなくパーティを組めばすぐに大金持ちになるんじゃないですか?」

「パーティは事情がありまして、少し難しいんですよね……。あっ! その別の袋で分けられている植物は毒草なので気をつけてください」


 パーティは組んでみたいが戦闘において俺は、完全なお荷物となってしまうからな。

 植物採取特化と言う尖りすぎた個性しかない俺では、パーティを組むのは無理だろう。

 この植物採取でのお金稼ぎが軌道に乗って、俺自身の力をつけることが出来たら組んでみたいとも思うが……そもそも俺は、ブランドンのせいで冒険者にすらなれないからな。


 採取した植物を一通り見せたあと、俺とディオンさんは一度、アーメッドさんとスマッシュさんの下へと戻ることに決めた。

 ディオンさん曰く、このまま次のエリアへ採取に行っても良いとのことだったが、俺は残したスマッシュさんが少し心配だったため戻ることを提案。


 ディオンさんの弓術を見させてもらいながら広場まで戻ると、スマッシュさん、それにアーメッドさんの姿も見えた。

 なにやらアーメッドさんは木剣を振り回して暴れており、スマッシュさんが無手の状態で必死に逃げている。


「おっ! ルインじゃねぇか! どこ行ってたんだよ!」


 俺たちが戻ってきたことに気づいたアーメッドさんは、スマッシュさんを追いかけるのを止め、何故か俺の方へと近づいてきた。

 片手に木剣が持たれていたため、思わず身構えるが表情はニコニコ笑顔だ。


「薬草の採取に出かけてまして、アーメッドさんは大丈夫でしたか?」

「あぁ? なにが大丈夫なんだ?」

「昨日、酷く酔っ払っていた様子だったので」

「はっはっは! んなこと毎日だから気にすんな! それよりなんだ?肉食うか?」


 何故か昨日よりも更に機嫌が良い様子のアーメッドさん。

 それに何故か、アーメッドさんにちょっとだけ好かれているような気がする。

 肉を食べたこと以外、好かれるようなことは特になにもしていないはずなんだけど。

 ……あと、肉はしばらく食べたくないな。


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