第十四話 アーメッドのかわいがり


 その後、結局俺はアーメッドさんにお昼ご飯に焼肉を食べさせられ、吐き気を我慢しながら無理やり肉を胃袋に押し込んだ。

 肉なんて本当に久しぶりに食べたはずなのに、もう見たくもないほどには食せる限界をとうに超えている。


 ただ、そんな俺以上にアーメッドさんは食べているのだが、ずっと変わらずに恍惚とした表情を浮べており、改めて化け物だと実感した。

 あの体のどこにあれだけの肉が収まっているのか、本当に気になる。


 やっとの思いで食事を終え、捌いた肉のあった場所を見てみると、あれだけあったアンクルベアの肉は綺麗さっぱりなくなってしまっていた。

 ディオンさんも二日持たないと言っていたが、あの話がまさか本当だったとはな。

 

「はぁー、食った食った! あーあ……もう肉無くなっちまったのか。仕方ねぇな! 夜飯分が無くなっちまったし、ちょっくら食後の運動がてら狩ってくるか。なぁ、ルインも肉食いたいよなっ? よっしゃー、じゃあ行ってくるぜ!」


 俺が返事をする暇もなく、一人で会話を完結させると、そのまま何処かへ行ってしまったアーメッドさん。

 もう今日はなにも食べたくないのだが、あの様子ではまた魔物か獣を狩ってくるだろう。


 夜も大量の肉を食べることに対し、俺ががっくりと肩を落として俯いていると、両肩に優しく添えるように置かれた二つの手。

 振り返ると、励ますような表情をしているディオンさんとスマッシュさんの顔が見えた。 


「こりゃ、エリザに気に入られちまったなぁ」

「ですね。ルイン君、ご愁傷様です」

「えっ……。気に入られるのも……駄目なんですか?」

「もちろんでさぁ。あっしがエリザを名前呼びしている理由は、気に入られ過ぎねぇようですぜ?」

「気に入られ過ぎても可愛がられるため駄目。だからと言って嫌われても駄目。難しい塩梅なんですよ」


 そんなこと聞いていなかった。

 まさか、好かれ過ぎても駄目なんて普通は思わないからな。


「ディオンさんにスマッシュさんも、アーメッドさんに関する重要なことは教えておいてくださいよ……」

「いやぁ、まさかこんなに早くに好かれるたぁ思わなかったもんで。すいやせんなぁ」

「スマッシュさんの言う通り、今までアーメッドさんがここまで早くに誰かを気に入ることはなかったんですけどね。もしかしたらルイン君は、アーメッドさんに気に入られる才があったのかもしれません」

「いらないですよ。そんな才能……。それで俺はどうすればいいんですか?」


 この現状から打開する術を教えて欲しい。

 このままでは本当に肉の食べ過ぎで死に至る可能性もある。


「うーん。私はアーメッドさんが、気に障るギリギリのラインを意識して喋るようにしてるんですが……ルイン君では難しいと思います」

「なら、あっしみたいに名前で呼ぶのが一番良いと思いやすぜ。ゲンコツで殴られやすがね」

「あの、俺が殴られても生きていられますかね?」

「「………………………………。」」


 うぅ……。二人のだんまりが無理だと言っている。

 こればかりはいくら考えてもどうしようもなさそうだし、アーメッドさんの事は一度忘れて、植物採取の手伝いをお願いしようか。

 

「その件はあまり考えないようにします。それよりもあの、もう一度採取に行きたいので護衛をお願いしてもいいですか?」

「もちろんいいですよ。次はどうします?」

「なら、次はあっしが護衛しやしょうか」

「是非、お願いします!」


 気を取り直して、再び植物採取へと出かけることに決めた。

 出来れば次の採取で目標到達額に達したいところだ。

 今までの採取できた量からして、五割くらいの確率で到達できると思う。


 それからスマッシュさん護衛の下、別の植物の生い茂る場所へと移動し、例の如く有用植物を採取し尽くす。

 この作業にも大分慣れてきたのだが、ダンベル草を探すとなると、あからさまな雑草まで鑑定しなくてはいけなくなるため、これ以上の速度アップは期待できなさそうだな。


 まだ2本しか採取できていないため、これが正確な確率とは言えないけど、雑草の中からダンベル草の見つかる確率は約50000分の1程。

 ダンベル草の採取を諦めて、有用植物の採取だけに専念した方が効率的かどうかとかも、今後は考えないといけないかもしれない。

 現状は少しでも多くのダンベル草が欲しいため、全鑑定で行こうと思っているが。


 そんなこんなで鑑定、採取も終わり、約2時間程で全作業が終わった。

 今回は早めに作業が終わったため、スマッシュさんの言葉に甘えてそのまま次の場所へと移動し、連続で採取へと向かう。


 次の場所は比較的に植物の少ないエリアだったから良かったが、この辺りの調整はしっかりやらないといけないな。

 連続で採取を行い護衛時間が4時間ともなると、護衛してくれている二人に迷惑をかけてしまう。

 やはり一度のエリアで採取が終わったら、戻って護衛の交代をしてもらうのが負担が少なく済みそうだ。


「スマッシュさん。すいません、連続で護衛してもらって。お陰様で採取が終わりました。ありがとうございます!」

「そんな毎回お礼なんていらねぇですぜ。あっしらは無償でやってるわけじゃあねぇでやすから。それにこう言うものにも慣れていやすし、この程度でしたら問題ねぇってもんですぜ」

「そう言って頂けると本当にやりやすいです! スマッシュさん、ありがとうございます」

「……だからお礼はいらねぇって言ってるんでさぁ」


 しっかりと連続で護衛を付き合ってくれたスマッシュさんにお礼を伝えてから、拠点へと戻る。

 ちなみに目標金額である、金貨4枚分の植物の採取は最初のエリアの採取で達成できた。


 ただ、達成してからは数を数えていないため、現状の正確な採取数は分からない。

 今回の採取した植物の合計金額は、実際に買い取ってもらったときのお楽しみにしようと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る