第十二話 コルネロ山 二日目
酷い吐き気を覚え、目覚めの悪い朝を迎えた。
肉をたらふく食べてからそのまま眠ってしまったため、胸焼けが酷い。
吐き気を抑えながらなんとなく横を見ると、なんとアーメッドさんが俺の隣で寝ていた。
あまり覚えていないのだが、半強制的に肉を食べさせてもらい、その場に倒れたためこんなおかしな状況になっているのだろう。
とりあえずアーメッドさんは絶対に起こさないように、慎重に立ち上がってからゆっくりと抜け出す。
なんだかお酒臭いと思ったが、この辺り一帯に転がっているアーメッドさんが呑んでいた筒全部に、水ではなく酒が入っていたようだ。
もしかしたら食べすぎだけでなく、酒の臭いで酔って記憶が飛んだって可能性も出て来たな。
なんとか起こさずに抜け出すことができ、昨日三人で解体した辺りを見に行くと、ディオンさんとスマッシュさんは既に起きていた。
片付けを行っているようだったので、挨拶に向かう。
「ディオンさん、スマッシュさん。おはようございます」
「おお、ルイン君! 無事でしたか? アーメッドさんに無理やり連れていかれたので心配していたんですよ」
「はい。なんともないので大丈夫です」
「それならよかったですぜ。エリザのやつぁ酒癖が悪ぃからな。下手すりゃ、おっ死んじまってんじゃないかってディオンの奴と話してたんですぜ?」
死ぬって……。アーメッドさんどれだけ危険なんだ。
お酒を飲んでいるときは近づいてはいけないと、覚えておかないといけないな。
「それで、今日も植物採取に行くんですか?」
「はい。そのつもりですが……。ディオンさんも、俺がコルネロ山に植物採取に来たこと知ってるんですね」
「ええ。昨日、お肉を食べながらスマッシュさんから教えてもらいましたので。……それでなんですが、今日は私が護衛をしてもよろしいですか?」
「ディオンさんが護衛ですか? 私としては全くありがたい限りですけど、どうして急に?」
「仕事っぷりも聞きましてね。私も実際に見てみたいと思ったのですよ」
なるほど。
あまり自覚はなかったが、スマッシュさんは俺の採取速度が速いって言っていたもんな。
【プラントマスター】のお陰で確かに早いが……地味な作業だし、正直見せられるようなものではないと思うんだけど。
「人に見せるような技ではありませんし、過度な期待をされると困りますけど……。そういう理由でしたら是非、護衛の方よろしくお願いします!」
「いやいや、あっしは昨日見ましたが人並み外れていやしたから。ディオンは期待していいと思いますぜ」
「ええ。期待していますよ。私も薬草の採取はたまに行いますし、参考にさせて頂きます」
何故か期待値が上がっているようだが、変に期待するのはやめて欲しいな。
まあ、護衛してもらうのだから、見せるくらいはするべきなのか。
こうして昨日とは違い、ディオンさんに護衛してもらうこととなった。
スマッシュさんはこの拠点付近に残り、アーメッドさんの見張りをするそうだ。
あれだけゲンコツを食らってるのに、常に名前呼びのままだし、また殴られなければいいけど。
採取する場所を探しながらディオンさんと話をしたのだが、どうやらディオンさんはスマッシュさんとは違い、索敵能力には長けていないようだ。
ただ、近接戦はスマッシュさんよりも強く、ディオンさんの最大の武器はいつも背中に背負っている弓の扱いらしい。
巧みな弓術で遠距離から一方的に魔物を倒すことができ、昨日のアンクルベアのような大物以外は問題なく一射で射殺せると言っていた。
昨日の移動中のような、魔物を無理やり押し付けられたりとかだと、長所を生かせないと言っていたけど。
「ディオンさん。ここら辺で採取したいのですが大丈夫ですか?」
雑草の生い茂る良さげな草むらを見つけたので、ディオンさんにここでの採取を提案すると、目を真ん丸にさせて驚いた様子を見せた。
「えっ? ここですか? 確かにちらほらと薬草らしき植物はありますけど、殆ど雑草だと思いますよ?」
「ちょっとした理由がありまして、雑草も見たいのでここがいいんです。それに薬草と魔力草もかなりの数紛れているようですので」
「……ですが、識別すれば無駄に時間が……いえ。私が口出しすべきことではありませんね。それでは私が周囲の警戒をしておきますので、敵には気にせずに採取してもらって大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。それでは護衛の方よろしくお願いします」
お礼を言ってから早速、昨日同様に鑑定と採取へと取り掛かる。
治療師ギルドで働いていたときは、雑草なんか鬱陶しいゴミとしか見ていなかったが、ダンベル草を見つけた今は全ての雑草が宝に思えてくる。
なんとかもう一本ダンベル草を採取して、筋力上昇の正確な効果を調べたいところだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます