第十一話 焼肉パーティ
アーメッドさんは全身血だらけで笑っており、そのすぐ傍には3m以上ある巨体の魔物が死んでいた。
まさか……あの巨体の魔物をアーメッドさんがやったのか?
「おーう。ルインとスマッシュ! 丁度いいところで帰って来たな。たった今、夜飯が捕れたぞ」
「あ、アーメッドさん。怪我とかは大丈夫ですか?」
「俺が怪我? はっはっは!こりゃ全部返り血だ。こんなちんけな山の魔物なんかが俺に怪我をさせられるはずないだろ。……たくっ、人が気分良く寝ていたところを襲ってきやがって、この熊野郎」
少し苛立ち混じりでアーメッドさんが魔物の死体を蹴り上げると、グブッと鈍い音を立て、死体の口から血があふれ出た。
初めて見るショッキングな光景に気分が悪くなる。
「ほらっ、ディオンとスマッシュでこいつの血抜きをしておいてくれ! 俺は体についた血を流してくるからよ!」
そう言い残すと、一人どこかへと消えて行ったアーメッドさん。
俺は、あまりに突然の出来事にその場で立ち尽くしてしまう。
「ルインも四日間も一緒にいるなら早く慣れやしょう。エリザといると、こんなこたぁ日常茶飯事でやすから」
「本当にアーメッドさんは魔物の倒し方まで下品ですね。私はいつまで経っても慣れる気がしませんよ」
「あっ、ディオンさんいたんですね」
「戦闘が始まったので少し隠れていたんです。アーメッドさんの攻撃に巻き込まれたらひとたまりもないですからね。……さて、戻ってくる前に処理をしてしまいましょうか」
「俺も手伝います」
こんなどぎつい魔物の死体処理は怖いためしたくなかったが、この場に残ってアーメッドさんと二人きりになる方が怖かったため、俺から手伝いを申し出る。
ディオンさんとスマッシュさんは休んでていいと言ってくれたが、無理やり手伝いをさせてもらい、三人で血抜きから解体までを行っていく。
驚くことに、あれだけグロテスクな死体でも解体さえしてしまえば、ちゃんとした肉となるんだな。
……今では美味しそうとすら思ってしまっている。
「この魔物って、何て言う魔物なんですか?」
「アンクルベアって言う魔物ですね。まあでも、アンクルベアの中でもかなり大きい部類に入ると思います……アーメッドさんの手に掛かれば瞬殺でしたが」
「こんな巨体の魔物を一瞬で屠れるって……相変わらず化け物みたいな強さですね」
「化け物。ふふっ、言い得て妙ですね。気性も非常に荒いですし、魔物とまでは言いませんが猛獣ですよ」
猛獣。確かにアーメッドさんは獣っぽい部分が多い。
本能のままに生きている感じがそっくり肉食獣そのものって感じがする。
「ったく。簡単に殺せるなら、一撃で心臓を突いてくれりゃあっしらも楽なんですがね。遊んで至るところに傷をつけるから、駄目な部分が増えちまってらぁ」
「本当に困りものですね。この傷物の部分は私達で食べましょうか」
「いつもあっしらがこの役目でさぁね。……たまにはエリザに食わせちまいましょうや」
「すぐにバレてしまいますよ。馬鹿に見えて五感だけは本当に鋭いんですから」
こうして二人の愚痴を聞きながら作業を進め、全ての解体作業が終わった。
大きな魔物なだけあって肉の量も相当多いのだが、この量ならば二日でなくなるらしい。
アーメッドさんは食べる量も常軌を逸しているようで、一日で十数キロの肉を食べてしまうそうだ。
それだけ消費するエネルギーが多いってことなのだろう。
……そうでなければ、あのプロポーションはおかしいもんな。
「おおっ! 良い匂いがすると思ったら焼けたのか!」
解体作業から流れるように調理へと入ったのだが、匂いにつられてアーメッドさんが寄ってきた。
焼かれている肉をそのまま手で鷲掴みすると、口へと投げ入れるように頬張る。
「うんめぇ!! やっぱり肉は捕れたてが一番だな!」
「アーメッドさん専用の肉焼き機を用意しますから、ちょっとは待っていてくださいよ。今の肉は手伝ってくれたルイン君用の肉だったんですよ?」
「あぁ?」
「いや、俺は大丈夫ですので! それにほら、アーメッドさんが捕った肉ですし……ね?」
なにやら一触即発の雰囲気を感じ取り、すぐに宥める。
ディオンさんもスマッシュさんも、アーメッドさんには気をつけろと言う割りに、意外とすぐに怒らせるからな。
「お? ルインは良く分かってるじゃねぇか! ほらっ、おめぇには俺の肉を喰わせてやるからこっちにこい!」
キレ気味な様子から一転、機嫌を良くしたアーメッドさんは俺を小脇に抱え、専用の肉焼き機のところへと移動した。
俺を雑に降ろしてからすぐに肉焼き機の火を着けると、炭をぶち込み火力を上げてから豪快に肉をおいていく。
最大火力に加えて、一気に置かれた肉の油で火柱が上がるが、アーメッドさんは動揺するどころかルンルンな様子で目を輝かせている。
「ほらっ、一瞬で焼けたぜ! ちょっと焦げてるが……うめぇ!! ルインも遠慮せず食え食え! あいつらのちまちま焼いた湿気た肉よりうんめぇぞ!」
こうして俺はアーメッドさんたちに混じり、焼き肉をご馳走してもらった。
アーメッドさんは怖いし割と理不尽だが、治療師ギルドで働いていた時に毎日感じていた‟嫌悪”の感情は一切芽生えないし、ディオンさんとスマッシュさんは純粋に優しい。
本当に……本当に久しぶりだったが、俺は楽しく充実した一日を送ることが出来た。
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