第七話 コルネロ山の魔物


「ほら、ルイン! 見えて来たぞ。これがコルネロ山の入口だ」


 単純な歩き疲れに加えて、歌い疲れでヘロヘロになっていたところ、ようやく大きな山の入口が見えてきた。

 ……これがコルネロ山か。想定よりも遥かに大きく、徐々に不安になってくる。


「それで、コルネロ山の護衛って依頼だったがここまででいいのか? それなら俺達はここら辺で待っているが」

「いえ、出来れば山の中腹まで連れて行ってほしいのと……頼みづらいのですが、その先の護衛もお願いしたいです」

 

 俺がそう頼むと、嘔吐しそうな顔で露骨に嫌そうな顔をしたアーメッドさん。

 俺は元々その予定で依頼したのだが、確かに少し伝え方が悪かったかもしれない。

 ただ、だからと言って報酬を上げるお金も持ち合わせていないし、コルネロ山で魔物と遭遇した時の対処のすべも俺は持っていない。


「お願いします! いつかなにかで返しますから!」

「私は良いですよ。ここまでの感じからして、ルイン君は悪い子ではないでしょうし」

「あっしも。エリザに無茶ぶりをされた者同士、既に絆みたいなもんを感じちまってますからな」


 賛同してくれた二人の言葉に思わず泣きそうになる。

 治療師ギルドでは一人たりとも、俺の味方となってくれる人はいなかったから余計にだ。


「けっ。そう言ってちゃんと返した奴はいねぇが……まあ、いいや。どうせ山の下で待っててもやることねぇしな。……それと俺を名前で呼ぶなって何度言ったら分かるんだ! このハゲッ!」


 またスマッシュさんが、アーメッドさんから怒りのゲンコツを食らった。

 昨日、一発貰っていたから、今日は既に頭の天辺がぽっこりと腫れていたのだが、この一撃で更に酷いことになるだろう。

 ……俺の味方となってくれたし、後で俺が生成しておいた薬草を塗ってあげよう。


「三人共、本当にありがとうございます! 四日間よろしくお願いします」


 こうして俺と【青の同盟】は、コルネロ山を意気揚々と登り始めたのだが……魔物の出現率が先ほどまでの平坦な道と比べても尋常ではなかった。

 ゴブリンにコボルトにキラーホーネット。


 様々な魔物が多方面から襲い掛かってきているのだが、先ほどと変わらず先頭に立っているアーメッドさんは、魔物たちを鼻歌交じりに一撃で屠っていっている。

 しかもアーメッドさんが使用している武器は俺の全長くらいある大剣なのだが、俺では視認できない速度で振られていた。

 

「ルイン君、凄いでしょ。あれが冒険者ギルドで元若手ナンバーワンと呼ばれていた、【蒼龍】の異名を持つアーメッドさんの実力ですよ」

「正直、凄すぎてよく分からないです。それに……元若手ナンバーワン? 【蒼龍】?」

「あれ? 聞いていませんか? アーメッドさんは元々【蒼の宝玉】って言う現Aランクパーティでリーダーをやっていたんですよ。まあ、素行が悪すぎて脱退させられたんですけど」

「いや、知りませんでした。素行不良でDランクとEランクを行き来していると言うのは聞いていましたけど。……と言うことはアーメッドさんは元Aランクなんですか?」

「いや、アーメッドさんがリーダーを務めていた当時は、【蒼の宝玉】はまだCランクパーティでしたね。ただ、脱退さえさせられていなかったら、Aランク冒険者までのし上がっていたと断言できます」


 へー。面白いことを聞いたな。

 Dランク冒険者ってこんなに強いんだなと感心して見ていたが、アーメッドさんが特別強いだけで、実際はAランク冒険者の実力があるってことなのか。

 少し気になるな。……そこのところをもう少し詳しく聞きたい。


「ディオンさん。興味があるのでアーメッドさんのことを、もう少し詳しく教えてくれませんか?」


 俺が更に情報を聞こうと尋ねたのだが、やはり前方で魔物と戦っていたアーメッドさんにもしっかりと聞こえていたようで、おもむろにこちらを振り返った。


「おいっ、ディオン! ペラペラ余計なことを喋りやがって。そんなに暇なら俺と代わって前で戦えや!」

「いやいや、他愛もない雑談ですよ。アーメッドさん。それに私だけでは魔物の処理に時間が掛かってしまいますので」

「うっせぇ! ならスマッシュも前へ来いや!」


 俺とディオンさんの後ろで先ほど食らったゲンコツ部分を撫でながら、ゆっくりと歩いていたスマッシュさんまでまた呼び出されている。

 いきなり呼び出されたスマッシュさんが、目を真ん丸にさせて驚いたのも束の間、先頭で魔物の相手をしていたアーメッドさんが小気味良いステップを踏んで、魔物の攻撃を躱しながらこっちへと近づいてきた。


「ほらっ! スイッチだ。いけっゴブリン共!」


 まるで魔物の親玉のようにゴブリン達を巧みに誘導し、後ろで待機していたディオンさんとスマッシュさんになすりつけたアーメッドさん。

 その顔は本当に楽しそうに笑っていて、思わず見惚れてしまう。


「おらっ! ルインはボケッとすんな。少し後ろへ行くぞ!」


 流れるように突っ立ていた俺を片腕で担ぐと、凄まじい速度で後ろへと下がっていく。

 人を抱えて走れる速度では到底ないのだが、そこは流石はA級の実力を持つ冒険者と言えるな。


「かっかっか! お前ら雑魚魔物なんかに負けるなよっ!」

「くそっ! アーメッドは相変わらずの鬼畜っぷりですぜ」

「スマッシュさん、右からコボルト。それと前方上空にキラーホーネットが来てます」


 それから前衛をディオンさんとスマッシュさんがこなし、必死に戦っている二人を見ながら高笑いしているアーメッドさんと二人で、俺は後ろからついていくこととなった。


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