第六話 いざ、出発
顔合わせを終えた俺はやることもなかったため、すぐにボロ宿へと帰って明日に向け、先ほど買った物の整理を行った。
今日購入したものは、低級ポーション×2、携帯用食料×8、水入りボトル、小瓶に入った油、ボロボロの少し錆びついている短剣、ボロ布、小さなスコップ。
とりあえず必需品として買い集めたものを、奮発して買った大きめの鞄に入れていく。
これで恐らく、旅の一式は揃ったとは思うのだが如何せん、旅とか冒険なんてドノの村からこのグレゼスタへ来るときにしか行ったことがない。
俺の半端な知識で買い集めた物だが、足らなかったとしても【青の同盟】さん達がいるからなんとかなるだろう。
……さて、本当にやることがなくなったし、まだ日が昇っているが薬草だけ作ってから今日は寝ようか。
起きていると腹も減るしな。
そして翌日。
魔力切れで動けなくなったこともあり、緊張して眠れないなんてこともないまま、ぐっすりと眠ることができた。
体調は万全。荷物の最終確認を行ってから、集合場所となってる冒険者ギルド入口へ急ぐか。
それから俺は冒険者ギルドへと着き、建物前でしばらく三人を待っていると、予定していた時刻ギリギリではあったが三人の姿が見えた。
アーメッドさんは大あくびをかいて眠そうにしているが、ディオンさんとスマッシュさんは昨日と大して変わらない様子。
「おはようございます。今日からどうかよろしくお願いします!」
「おうおう。俺達は慈善活動じゃなくて金貰ってるんだから、そんなにペコペコしなくていいぞ。……それより、お前。馬はなくていいのか?」
馬。
確かに俺も移動用の馬を借りようか迷ったのだが、費用対効果を考えて諦めたのだ。
実際に馬に乗れるのは山に入る前までだし、山に籠っている間の管理も出来ないからな。
糞の処理とか馬の食料とかを考えたら、自力で歩くのが一番と俺は判断した。
「はい。体力には割かし自信があるので大丈夫です」
「そうか。ちなみに移動の手伝いとかは俺達はしねぇからな。歩けなくなって動けないまま四日経ったらそこで契約終了だ。理解はしてるよな?」
「……はい。そこら辺はちゃんと把握していますので大丈夫です」
「それならいいや。よしっ、じゃあ行くか!」
こうして俺の初めての、そして人生がかかった植物採集が始まった。
成功させてやると言う気持ちで臨んではいるが、今回もし失敗したとしても許容範囲内ではある。
ただ、この次の植物採集は確実に成功させないと残金的に人生が終わるため、何の成果も得られない失敗は絶対に許されない。
頬を思い切り叩いて気合いを入れてから、俺ははじめの一歩を踏み出した。
「うーさぎーおっいし、かーのーやーまっと!」
上手いとは到底言えないアーメッドさんの歌を聞きながら、グレゼスタの街を出て既に二時間は経過した。
気合いを入れてから出発したはいいものの、街を出てからすぐ近くにコルネロ山がある訳ではないので舗装された平坦の道を歩いている内に、出発前に入れた気合いは何処かへ消え去っている。
「アーメッドさんは大変気持ち良く歌っていますが、聞いているこちらとしては不快極まりないですね。……ルイン君もそうは思いませんか?」
唐突にそんな話を俺に振ってきたディオンさん。
なんとも答えづらい質問だが確かに二時間も同じ歌で、それも同じ部分を歌っているし音程もバラバラなので、ほんの少しだが耳障りになってきていた部分もあった。
これで違いますと言うのも変だし、アーメッドさんには聞こえないように小さい声でディオンさんに同意する。
「確かにちょっとだけですが思います。別の歌を歌ってくれるならまだいいんですが……」
俺が同意の声を上げると、スマッシュさんも勢いよく首を縦に振り出した。
やはり全員の共通認識だったのか。
少しだけだが、この二人と初めて意思疎通できた感じがして嬉しくなっていると、前方でずっと気持ちよさそうに歌っていたアーメッドさんが急にこちらへと振り返った。
「おいっ! 聞こえてるぞお前らっ! せっかく冴えない旅を盛り上げてやってるってのにくだらねぇ文句つけやがって! ……そうか、そんなに私の歌が嫌ならお前ら三人にも歌ってもらうか」
ニヤリと悪い顔をしてからそう言い放ったアーメッドさん。
あんな大声で歌っていたし、距離も結構あったのに聞こえていたなんて……。
急に声を掛けられたときは、心臓が止まるかと思ったほどビックリした。
「あっしは何も言ってねぇですよ。濡れ衣ってもんですぜ」
「スマッシュうっせぇぞ! お前も全力で頷いてたのを知ってるんだからな」
「ば、化け物かっ!」
こうして無茶苦茶なアーメッドさんの言い分から、巻き添えを食らったスマッシュさんも混じってのコルネロ山まで歌合戦が始まった。
余計な体力を奪われたくなかったし歌なんて殆ど知らなかったため、参加したくなかったが、同意した俺が悪いため仕方なく必死に歌って盛り上げる。
下手くそな歌を歌いながら、俺はもう二度とアーメッドさんには余計なことを言わないと、心から誓ったのだった。
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