第五話 【青の同盟】


 それから俺は、受付嬢から契約を結ぶための条件を事細かに聞き、俺は冒険者パーティ【青の同盟】と正式に護衛契約を結ぶことに決めた。

 不安は確かにあったが雇う際の金額が決め手で、肝心の金額は四日間の護衛で金貨4枚。


 俺の所持金の30%程が持って行かれてしまったが、この三日間で金貨4枚相当の植物を採取すれば元を取ることができるからな。 

 正直、五年働いて金貨12枚分相当しか貯めることが出来なかった俺からしたら、四日で金貨4枚相当の植物を採取すると言うのは途方もないことのようにも感じるが、ちゃんと算段はついている。


 鑑定によって採取された場所が分かるのだが、俺が向かう予定のコルネロ山には魔力草の他にも、調合せずとも高い回復能力を持つ上薬草や、万能薬の材料でもあるオール草などの治療に使う植物もあれば、リンリン草やエンジェル草などと言った採取の難しい殺傷力がある猛毒の植物など、魔力草よりも高価な植物も採取できることが分かっている。


 これらを採取できればかなりのお金の足しになるし、なんと言っても俺には植物を鑑定する能力【プラントマスター】がある。

 そのため、戦う力がない分俺は、‟植物採取”と尖った部分に関しては相当の自信があるからな。


 ポピュラーな薬草や魔力草を採取しつつ、先ほど挙げた希少な植物を複数本採取出来れば、元は取れると自信を持って言える。 

 ……とまぁ、自分を励ますために色々と大丈夫だと思える根拠を必死に考えていたが、今はそんなことをしている場合ではなかった。


 【青の同盟】との顔合わせは今日の昼過ぎに冒険者ギルドで行うことになっているため、それまでにコルネロ山へ向かうための準備を揃えなくてはいけない。

 残っているお金でさっそく買い出しに行くか。



 商業通りにて一通り買い物を済ませたあと、両手に荷物を抱えたまま急いで冒険者ギルドへと向かう。

 太陽が真上にあるため、まだ予定の時刻よりかはかなり早いが、万が一待たせでもしたらどんな目に合わされるか分かったもんじゃないから、早めに向かうに越したことはない。

 

 冒険者ギルドへと着いたがさっきのような平静さは既になく、ギルドは昨日と同じように獣のような人間で溢れかえっている。

 荷物を持ちつつも、身を必死に縮こまらせながら待ち合わせ場所である、右奥の依頼掲示板前へ向かった。


 受付嬢さんが、【青の同盟】は目印となるように青い布を額に巻いていると言っていたから、まだ来ていないと思いつつも探してみると……見つけてしまった。

 時間よりもかなり早くに来たはずなのに、既に青い布を額に巻いている三人組が待っている。


 一人は頭はツルツルだが髭がもじゃもじゃで小汚い恰好をした小柄な男。

 もう一人は貴族のような服で着飾っている、細身で金髪の優しそうなイケメン。

 どちらも他の冒険者たちとは一風変わった風体をしているのだが、真ん中にいる人物には更に驚いた。


 周りと見比べても頭は一つ抜き出ているくらいに背は大きいが、なんと女性の方だ。

 冒険者らしき風貌の女性はちらほらと見かけるが、ここまで大きい女性は初めて見たな。


 それに……男よりも大きな体躯とは打って変わって、顔は綺麗で整っている。

 目は大きく程よい釣り目で、鼻も高く口元も綺麗。更には胸が目立っていて、思わず見入ってしまうほどには大きい。

 ただやはり‟冒険者”なだけあって、腕や足には多くの古傷のようなものが見られた。

 服装は所々の露出が激しく、胸の大きさも相まって見てはいけないものを見ている気分に陥るな。

 

 俺がかなり異質な大きな女性に見惚れていると、何故か俺に気づいた様子を見せた三人。

 目が合うとそのまま、真ん中の女性が他の冒険者を掻き分けてこちらへと近づいてきた。


「おっ、見つけた! お前が俺達の依頼主だろ?」


 俺に話しかけてきたのは綺麗な大きな女性。

 一瞬言葉に詰まるが、俺はすぐさま肯定の返事を返した。


「はい、そうです。えーっと、あなた方が【青の同盟】さん……でしょうか?」

「かっかっか! やっぱりそうだった! おいっ、ディオンとスマッシュ。てめぇら俺に銀貨一枚だからな!」

「また私達の負けですか。本当に毎回、毎回よく当てますね」

「ちくしょー。このままじゃエリザのせいで、あっしらの金が全部なくなっちまいやすよ」

「おい、スマッシュ! 俺を名前で呼ぶんじゃねぇって何回言えば分かるんだっ!」


 その言葉と共に、大柄の女性の拳がツルツルの男性の頭へと落っこちた。

 ゴツンッといい音が鳴り、ゲンコツをモロに食らったツルツル頭の男性は、地面に倒れもがき苦しんでいる。

 

「よしよし……くっくっく。今日も銀貨二枚稼いだぜ!」


 ニヤニヤしながら男性二人から巻き上げた銀貨を眺めている、エリザと呼ばれた女性。

 一連の流れについて行けず固まっていると、呆れた様子でイケメンの男性がエリザと呼ばれた女性に声を掛けた。


「アーメッドさん。依頼主が困っていますよ」

「ああ、そうだった! すまねぇな。放りっぱにしててよ! 俺はリーダーのアーメッドだ。この金髪キザ野郎がディオンで、こっちのツルッ禿げがスマッシュって言うんだ。よろしくなっ!」


 なんと言うか……。一言で言うなら豪快な人だな。

 口調も増して男っぽいが、綺麗な女性と言うこともあり受付嬢から聞いていたほど悪い印象はない。

 ただ、素行が悪いと言うことは会って間もないが理解できた。

 

「いえいえ、気にしなくて大丈夫です。私は今回護衛の依頼を出させて頂いたルインと申します。アーメッドさん、ディオンさん、スマッシュさん。よろしくお願いします」

「ハッハッハッ! 随分と堅苦しい奴だなっ! 俺達に失礼な態度を取るなと言われても無理だが、それでも良いなら護衛依頼引き受けるぜ」

「是非、よろしくお願いします」


 その後、明日の出発時刻を伝えると三人はすぐに帰ってしまい、こうしてあまりにもあっさりと冒険者パーティ【青の同盟】との顔合わせは終わった。

 余りにも素行が悪そうな相手だったら断ろうと思っていたのだが、普通に良さそうな感じだったな。……多少、綺麗な顔とスタイルの良さに騙されている感は否めないけど。 


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