第四話 パーティ紹介
翌日。
ここ五年は殆ど3~4時間睡眠で過ごす日々が続いていたため、本当に久しぶりに時間を気にせず、ゆっくりと眠ることが出来た。
今にも崩れさりそうなグレゼスタで一番のボロ宿ではあったが、治療師ギルドで俺が寮として住んでいた物置小屋よりかは、大分居心地も良かったしな。
まだ朝も早いが、早速冒険者ギルドに行ってみようか。
……正直、やることなんてなにもないからな。
昨日、寝る前に魔力が勿体ないからと作った薬草三本を鞄に押し込んでから、さっそくボロ宿を後にする。
昨日訪れたばかりの冒険者ギルドだが、朝が早いせいか屈強な冒険者たちは殆どいないため、昨日とは全く別の建物のように感じる。
化け物みたいな男たちがいないと言うことは身を縮こまらせて歩く必要がないため、俺は気を楽にさせてギルド内を闊歩し、クエスト依頼受付へと向かった。
「いらっしゃいませ。ここはクエスト依頼専用受付なのですが、よろしかったでしょうか?」
昨日と同じ人がいたためそこの受付へ向かったのだが、受付嬢の反応は昨日同様にまるで初見の時と同じ態度だった。
そう言うマニュアルなのかと思ったのだが、どうやら本気で覚えてない様子。
職業と名前まで確認されて、覚えられていないのは少し物悲しいが、ただ一日に数えることもできない人数の接客をするのだから、当たり前と言えば当たり前か。
「実は昨日、クエスト依頼の募集をお願いしまして……これがお預かりしていた番号札です」
「ありがとうございます。それでは応募が来ているのか確認してきますので、少々お待ちください」
そう言って番号札を持って、すぐに後ろへと消えて行った受付嬢。
相変わらず張り付けたような笑顔だったが、やはり美人。
無表情となったときでも綺麗だったもんな、なんて昨日のことを思い出していると、受付嬢はすぐに奥から戻ってきた。
「お待たせいたしました。確認してきましたところ、現状で三組の冒険者パーティからクエスト受注の申し出がございましたので、ご説明させていただきます」
「応募が来ていたようで一安心です。説明の方よろしくお願いします」
良かった。
昨日の今日で朝も早かったし、まだ一パーティからも受注の申し出がないと思っていたから、現段階で三組のパーティから応募して貰えたのは素直に嬉しい。
「はい。それでは一組目のパーティから紹介させて頂きます。一組目はEランクパーティ『青の同盟』。所謂、安定性に評判のある中堅揃いのパーティでEランクパーティながら、リーダー以外の二人がDランクなのも魅力の一つとなっております」
おっ、一組目からかなり良さそうな冒険者パーティを紹介された。
もう他のパーティ紹介を聞かずとも、このパーティに依頼して良さそうなぐらいには魅力的に感じている。
「ですが、Eランクパーティですので若干ですが値段が張りますのと、リーダーの素行が悪く、それが問題となって何度かDランクから降格させられたりしています。……えーっと今、Eランクパーティなのも素行不良が原因で降格させられてますね。ただ、裏を返せばそのお陰で、Eランクパーティの料金でDランクパーティを雇えると言えますが」
この補足だけで、最高値まで高かった魅力が一気に地の底まで落ちた。
実力があろうが素行が悪い奴はできるだけ雇いたくない。
ブランドンのように俺みたいな力も金も名声もない相手には、なにをしてくるか分からないからな。
下手すれば所持金を全て巻き上げられる可能性だってある。
「素行が悪いのはちょっとマイナス要素ですね。良ければ二組目以降も紹介して頂けたら幸いです」
「分かりました。では続けて二組目を紹介させて頂きます。二組目はFランクパーティ【バクロ】。Fランクパーティの中でも最低辺ランク評価の冒険者パーティで、非常に安価で雇うことができます」
「…………………………。えーっと、終わりですか?」
「はい。【バクロ】についての説明は以上ですね」
受付嬢のやる気がないのか、それとも【バクロ】に紹介する部分がないのか。
恐らく後者だろう。この受付嬢さんは、俺に報告したことから見ても、仕事はしっかりとやるようだからな。
「……それじゃ最後のパーティの説明を聞いていいですか」
「はい。三組目のパーティはこちらもFランクパーティです。パーティ名は【鉄の歯車】で、先月ここに登録された者ばかりで構成されたパーティですね。実力についてはクエスト成功率を考えると、後二年程でEランクパーティに上がれるほどにはポテンシャルを持っていると思います」
「へー、ルーキーで構成されたパーティですか。地力はあるみたいですし、正直かなり魅力的なのですが……」
ネックなのはルーキーだと言うこと。
俺は生きるためにも、この護衛だけは絶対に成功させて貰わねば困る。
俺の命運を懸けたこのクエストをルーキーに任せることが出来るのかと問われたら、俺は首を縦に振ることはできない。
……ならば、【青の同盟】か。
ただ、俺にクビを宣告してきたときのブランドンの顔が未だに脳にこびりついているし、また搾取される側には回りたくない。
「全て断った場合って、また別の新しいパーティから募集がくるんですよね? できれば新たな募集をかけてほしいのですが」
「はい。もちろん来ますが、【青の同盟】よりも良い条件からは来ることがないとは思っておいてください」
そう言われると、自分の中で断りづらくなってしまう。
受付嬢さんの話が本当ならば、【青の同盟】は確実に護衛を成功させるだけの実力はある訳だからな。
でも素行不良は嫌だ。……うーん。本当に悩むが——。
「すいません。やはり【青の同盟】の雇う際の金額等を教えて頂けますでしょうか?」
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