第三話 冒険者ギルドにてクエスト依頼


 ここが冒険者ギルドか。

 一番有名な職業ギルドと言えば、冒険者ギルド。

 所属しているメンバーも段違いで、一つのクランで他の職業ギルドよりも大きい組織となっている……なんて話も噂で聞いたことがある。


 俺も話だけは聞いたことはあったのだが、生まれてこの方一度も冒険者ギルドへは来たことがない。 

 もちろん、治療師ギルドで働いていたときは冒険者ギルドへのポーションの納品などはよくあったが、直接届けに行ったことはないからな。

 

 それにしても、冒険者ギルドを出入りしている人間が今のところ全員怖い。

 出入りしている人間の殆どが屈強で強面の男で、到底同じ人間とは思えない体躯の男たちに怖気づきながらも勇気を出し、中へと入る。


 中はだだっ広いのにも関わらず、むせ返るような独特な臭いが鼻孔をつく。

 薬草のキツい臭いには慣れているはずなのだが、それとはまた別種の汗やらなにやらが混ざったキツい臭い。

 

 中にいる人もほとんどの人が化け物みたいな体つきをしていて、何故かすれ違う度に睨みつけてくる。

 絶対にぶつからないことと、目を合わせないようだけを気をつけながら、俺はクエスト依頼と書かれた専用受付へと向かった。

 受付だけでクエスト受注、クエスト報告、クエスト依頼に相談受付と四種類もあり、クエスト受注とクエスト報告に至ってはそれぞれ十個ずつ受付が用意されている。

 

 受付だけで冒険者ギルドの規模の大きさに気圧されながらも、クエスト依頼受付へとたどり着いた。

 さっそく受付窓口へと近づき、正面に立っている受付嬢の言葉を待つ。


「いらっしゃいませ。ここはクエスト依頼専用受付なのですが、よろしかったでしょうか?」

「はい。クエスト依頼をお願いしたいです」


 冒険者ギルドの独特な空気、そして受付嬢の異様なまでの綺麗さにガチガチになりながらも、おくびにも出さずになんとか受け答えをしていく。


「分かりました。まずはお名前と年齢、それから貴方様の職業と依頼したいと思っているクエスト内容を教えて頂けますでしょうか」

「はい。名前はルイン・ジェイド。年は十四、いや十五歳です。職業は無しで、依頼したいと思っているクエスト内容は護衛依頼です」


 俺が答えたことをさらさらと紙に書いていく受付嬢。

 特に何事もなく紙に情報を書いていたのだが、なにかが引っかかったのか途端に筆を止めた。


「お名前はルイン・ジェイド……さんでよろしかったでしょうか?」

「はい。ルイン・ジェイドですが……」

「もしかして治療師ギルドで働いていましたか?」

「…………ええ。働いていましたが、なにかまずかったでしょうか?」


 張り付けたような作り笑みではあったが、笑顔で対応してくれていた受付嬢の顔が一瞬で無表情となった。

 名前を聞き返され、そして前職を聞かれた時点で不味いと思ったがもうどうしようもない。

 この反応からして冒険者ギルドにも、俺の噂が広まっているのだろう。


「少しお待ち頂いてもよろしいでしょうか。少し確認しなければいけないことができまして」

「はい。大丈夫です」


 俺に了解を取ったあと、すぐに後ろの部屋へと消えて行った受付嬢。

 ブランドンの国へ送っていた最低ランク評価のせいで、雇ってもらえないことは身を以って体験していたが、まさかこっちがお金を出して利用することもはばかられているとなったら、本当にどうしようもない。

 身が削れる思いで受付嬢が戻ってくるのを待っていると、何事もなかったように戻ってきた受付嬢。

 

「お待たせして申し訳ございません。特に問題がなかったようでしたので、引き続き依頼の内容を確認させて頂いてもよろしいでしょうか」

「本当ですか。良かったです! いや、本当に……。それでは是非、依頼の方よろしくお願いします」


 ふぅー。なんとか依頼は受けてくれるようだ。

 一瞬ヒヤッとしたが、流石に利用ぐらいはさせてくれるよな。


 ……ただ、この受付嬢の反応から、俺は冒険者にすらなることが出来ないことが分かった。

 どんな荒くれ者でも雇ってもらえると言う、冒険者ギルドにすら雇って貰えない俺。

 一体俺がなにをしたと言うんだろうか。

 

 気分はドン底に叩き落されたものの、気持ちを切り替えて受付嬢にしっかりと依頼内容を事細かに伝えていく。

 ここだけは絶対にミスすることが出来ないため、確実にコルネロ山での護衛が出来る冒険者を見繕ってもらわなくてはいけない。


「依頼情報を繰り返させて頂きます。向かう場所はコルネロ山で滞在期間は3~4日。値段は出来るだけ安い冒険者で且つ、護衛経験の豊富な冒険者優先。こちらでお間違いないでしょうか?」

「はい。そちらの条件で間違いないです」

「それではクエスト依頼を出して冒険者の募集をかけておきますので、明日またお越しください。こちらが依頼番号札となりますので、再び来た時にお見せください」

「分かりました。よろしくお願いします」


 対応してくれた受付嬢に深々と頭を下げてから、俺は冒険者ギルドを後にした。

 一時は終わったかと思ったが、なんとか依頼まではこぎつけることが出来たな。


 ……ただ、やはり今日中には無理なのか。

 まあ、今日はクビにされたりと本当に色々なことがあったし、ボロ宿を取って久しぶりにゆっくりと休息を取ろう。


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