第13話 適性検査

「玄野君。そろそろ元気出しなよ。大丈夫だって。多分……」

「なんで、声小さくなっていくんですか」

笑って誤魔化そうとしているマルティン先生を睨みつける。


いや、俺がやらかしちゃったせいだけどさ。

せめて、大丈夫って言ってくれよ。

多分ってつけんなよ。不安になるだろ!


「はあ~。それで? なんで、マルティン先生がここに?」

いつまでもグダグダとしているわけにもいかないので、本題に入る。


「あ~。ごめんね。二人の事情だもんね。じゃあ、僕はこれで……」

マルティン先生は頬をかきながらそそくさと何処かへ行こうとし始める。


「ちょっ! なんで、そうなるんですか。違いますよ。僕はただ……」

「零、今日は後で説教」

「あ、はい。ってそうじゃない! マルティン先生! あなたがここにいるってことは何かあるからじゃないんですか」


絶対に何かあるよな?

多分、あのおっさんの命令とか……。


「まあ、流石にわかるよね。そうさ。僕は用事があって玄野君。君を待ってた。ただ、用事とは言っても僕が君に魔術を教えるだけなんだけどね」

マルティン先生は苦笑いしながらそう言った。


「マルティン先生が俺に……」


噓っ!

魔術を教えてくれんの?

やったー!


俺が飛び上がって喜ぼうとした瞬間、

「いらない!」

ルナの鋭い言葉が耳を通り過ぎていく。


「「え?」」

「あなたが零に教える必要なんてない。教えるなら私が教える」

ルナはマルティン先生を睨みつける。


え、いや。あの~ルナさん?

何でそう言っちゃうの?

いいじゃん。やろうよ。教えてもらおうよ。

あと、殺気出すのはやめよう?

もっと穏便にいこう? ね?


「ルナ、流石に……」

「零は黙ってて」

「はい」


ルナが怖い。

途轍もなく怖い。


「零に魔術を教える以外に何か目的があるんでしょ?」

「いや、流石に……」


無いでしょ。目的なんて。

チラッとマルティン先生の方を見ると、少し驚いた顔をしていた。


「よくわかったね」

「えっ⁉」


マジで⁉

マジでなんかあったの?


「僕は玄野君に魔術を教えるのと同時に君たちの監視を任されている」

「監視?」


なんで?

なんで、監視が必要なの?


「玄野君。そんな捨てられたチワワのような顔をするのはやめてくれないかなぁ? 僕だって監視をしたいわけじゃないんだ。一応、君たちを信じているつもりだから」

「それじゃあ……」

「だけどね、玄野君。君がそうでもルナちゃんがそうでないように。我々の一部も君たちを信じているわけじゃない。これが現状だ。理解してくれ」

マルティン先生はどこか悔しそうな表情をしながらそう口にした。


「……わかった。零に教えるのは許す。だけど……。監視は必要最低限にして」

ルナも理解したのか、顔を背けながら渋々といった感じで納得していた。


「ありがとう。玄野君。ルナちゃん」

「別にいいよ。そんなことくらい。それよりもさ、なんで、先生なの? アリスとかの方が監視をするって意味じゃ違和感がなくていいじゃん」

ずっと疑問に思っていたことを口にした。


なんとなくだけど、アリスがポンコツとかそんな理由かな?

でも、アリスが監視やった方がルナからは疑われなさそうなんだよなぁ。

うーん。わからん。


「それはね……」

マルティン先生が言いづらそうな表情をしながら口を開く。


「それは……?」


やっぱり何かあるんだろうか?

アリスにしなかった理由が……。


「僕が監視役に就いたら面白そうだからって言う理由で会長がね」


しょうもなっ!

理由が……しょうもなっ!

俺のワクワクを返せ!


地面に四つん這いになってガックシしていると、ルナから頭を撫でられる。


ルナさん。今、頭を撫でるのはやめてもらえません?

なんか、悲しくなってくる…。


「えーと。何かごめんね。それで……どうする? 今日、魔術について教えようかと思っていたんだけど……」


ま、魔術⁉


「是非とも!」

「立ち直り早いね」

「……それが零の良い所」

魔術という言葉につられ立ち上がると、マルティン先生が何故か苦笑いをしており、ルナは胸を張っていた。


「それじゃあ……」

「って言いたいところなんだけど。時間が……」

そう言いながら学校の制服のポケットに入っているスマホを取り出して電源を点ける。


あれ? 時間があまり進んでない?

スマホの電源を消して点けてを繰り返すが時間は変わらない。

やばい。スマホ壊れたんじゃ……。


「あ、言うのを忘れていたけど、ここ『アガルタ』は時間の進み具合が外と違うから気をつけてね」

「あ、はい」


へえ、精○と時の部屋みたいな仕組みかぁ。

うん。もっと前に言って欲しかった。


「じゃあ、今から修練所まで案内するからついて来て」

「「はい」」

マルティン先生の後をついて行きオペレーションルームから出て行く。


・・・


オペレーションルームから少し歩いた先に扉の前でマルティン先生が止まった。


「さあ、着いたよ。ここが修練所さ」

扉が開かれていき、コンクリートで出来た大きな部屋が見えてくる。


「広いなぁ」

「そりゃあ修練所だからね。まあ、今は使っている人はいないっぽいけど。じゃあ、とりあえず、玄野君とルナちゃん。支給された服があったと思うけどその服に今から着替えてくれないかな。向こうにある更衣室を使っていいから」

「わかりました」

「わかった」


・・・


更衣室内の鏡の前で自分の姿をチェックする。


サイズはぴったしか……。

俺、成長期だからすぐに変えることになるのかな。

鏡に映る白いロングコートっぽい何かに身を包まれた自分の姿を目にしながらそんな感想が出てくる。


「……」


なんか、こうして鏡を見ているとポーズ取って見たくなるな。

うん。あれやろう!

なんとなく、ムーンウォーク的な何かをやろうとした瞬間、更衣室の扉が開く。


「ひゃあ!」

「零、準備できたのなら行くよ」

「あ、はい」

ルナと共に更衣室から出てくると、マルティン先生が修練所のど真ん中に立っていた。


「お、似合ってるじゃないか。2人とも」

「ありがとうございます」

「……」


「じゃあ、やっていこうか。まず、玄野君。魔術とは何だと思う?」

マルティン先生はニコニコしながら、俺に質問してくる。


「え、魔術? えーと」


いや、知らねえんだけど。

俺。この前、魔術を使ったばっかだし。


「えーと。こうモワモワといった感じでやったら出るやつ」

そう言った瞬間、ルナとマルティン先生が固まる。


「零……」

「いや、だって知らねえもん。わかんねえもん」


俺は悪くない!


「ま、まあ、仕方ないよね。じゃあ、説明していくよ。まず、魔力というこの世に存在する原子がもともと持っているエネルギーがあってね。僕ら魔術師は自分の身体にあるこの魔力を放出して魔術を使っているんだ。つまり、魔術とは魔力を使って起こしている現象なんだよ」

マルティン先生はそう言うと、片手から火の玉を出現させてすぐに消した。


「おぉ! すげえ」

目を輝かせていると、今までニコニコとしていたマルティン先生の表情が一変し、怖い顔になっていく。


「マルティン先生?」

「玄野君。ルナちゃん。魔術を使う上でこれだけは絶対忘れないでくれ。魔術っていう力はね時として薬にも毒にもなったりするものなんだ。だから、使い方だけは間違ないでくれ」

「あ、はい。わかりました」

「……わかった」

俺とルナが返事するとマルティン先生はニコっと笑った。


「ごめんね。辛気臭い雰囲気なんか作って……。じゃあ、次は適性検査をやってみようか」

マルティン先生はそう言うと、ポケットから透明なビー玉のようなモノを取り出した。


「では、まずは手本として……」

マルティン先生がそう言った瞬間、ビー玉のようなモノが赤色と黄色の光を放ち始める。


「赤色と黄色い光?」

「……火と土」

「ルナちゃん。正解。僕の適正は火と土さ。それじゃあ、2人とも。やってみようか」

マルティン先生はそう言うと、俺とルナにビー玉のようなモノを渡してくる。


「それに魔力を流してみて」

「わかりました」

「……わかった」


よし。身体強化を使った時と同じような要領で……。


渡されたビー玉のようなモノに魔力を流した瞬間、ビー玉のようなモノが灰色に輝いた。


は、灰色?

「マルティン先生! これって何の適正?」

「玄野君。終わったのかい。どれどれ? うん? 灰色?」

マルティン先生は俺の適性を見るや否や、眉をひそめる。


「先生。これ、何の適正ですか?」

「ごめん。僕にもわからない。こんなの初めて見たよ」


マルティン先生でも知らない適正って……。

それって大丈夫なのかな?


自分の適性に悩んでいると、隣から緑色の強い光が放たれる。


「……ルナちゃんの適正は風か」

「はい」

「なるほど。それじゃあ、次は……」

マルティン先生が何かを言おうとした瞬間、修練所の扉が勢いよく開いて一人の男性が入って来た。


「アンドレイさん。会長がお呼びです。至急オペレーションルームまで来てください」

「……了解。後で向かう」

マルティン先生は男性に返事を返すとこちらを向きなおす。


「ごめんね。玄野君。ルナちゃん。ちょっと用事が出来たから失礼するよ」

マルティン先生はそう言い残すと男性と共に修練所を出て行った。

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