第26話 決着

暗い森の中を、金属同士が激しくぶつかり合う甲高い音が響き渡っていく。


「くっ、硬い」

聖剣ロンギヌスでジェスターに斬りかかるが、皮膚が尋常じゃないくらいに硬いためか、ダメージを与えられたように思えない。


魔力の消費量から見て、限界は抑えても3分くらいか。

厳しいなぁ。


『焦るでないぞ。常に冷静を保つのじゃ』

そんなの分かってるよ。


俺はジェスターの攻撃をバックステップで避けながら、自分が手にしている剣、ロンギヌスについて考えていると……。


「今って考え事している時なのかなぁぁ?」

動きが少し遅れたためか、ジェスターが目の前に接近してくる。


『バカっ!』

「しまっ……。ぐっ」

瞬時にロンギヌスで防御するが、衝撃までは消せず、剣を持っている手がビリビリと痺れる。


「あれぇえ? 本気で殴ったはずなのに……。なんでぇ、その剣。破壊できないのかなぁ?」

視線の先にいるジェスターがロンギヌスを破壊できなかったことが気に入らなかったのか、顔を不快そうに歪ませる。


あー。クソッ。

手がビリビリくる。


『わしもちっとばかし痛かったのじゃ』


こんなやつ相手に様子見していると確実に死ぬなぁ。


『じゃあ、様子見せずに本気で戦えばいいのじゃ』


ごもっともな意見ありがとよ。

仕方ない。後先考えず、全力フルでいくか。

サポート頼む。ロンギヌス。


『了解したのじゃ。では、今からお主の魔力回路を通じて情報を送るのじゃ。後はお主のその妙な器用さでなんとかせいっ!』


丸投げかよっ!

まあ、いいや。やってやるよ。


頭の中に流れ込んでくるロンギヌスの情報原理を整理しながらやり方を覚える。


ははっ、こりゃあ、やべえ。

一発で魔力切れ確定じゃんか。


『ひよってる時間はないぞっ!』

ロンギヌスの言葉を聴いて、ジェスターに視線を向けると、もう次の攻撃準備をしていた。


ああ、もう。どうにでもなれ。

今、自分が出せる最大の魔力をロンギヌスに注ぎ込む。

「いくぞ。ロンギヌス『神器開放 聖剣ロンギヌス』」

『さあ、早く奴を倒そうぞ』

ロンギヌスは俺の全て魔力を吸収すると、全体から青い炎のようなオーラ的な何かを吹き出し始めた。


「なんだい? その澄んだ魔力は? いや、これは……魔力なのか? まあ、そんなことは殺してしまえばどうでもよくなるよねえぇぇぇぇ!」

ジェスターはそう言うと、猛スピードで突っ込んでくる。


『迎え撃つのじゃ!』

「了解」

俺は青いオーラを放つロンギヌスを強く握り締め、正面から突っ込んでくるジェスターを迎え撃つ。


ガゥンッ!

ロンギヌスの刃とジェスターの拳がぶつかり、鈍器で何かを殴ったような音ともに、衝撃波が辺り一帯に広がっていく。


「うっ」

重い!

手が……めちゃくちゃ痺れる。


『しゃきっとせい。しゃきっとっ!』

俺が手の痺れに顔を顰めていると、頭の中でロンギヌスの俺を怒るような声が響く。


分かったよ。

『分かったのなら良いのじゃ。それよりも……』


「ぐっ、ぐわああぁぁぁぁ! 熱い! 痛い! なんだぁ! その剣。クソッ!」

ロンギヌスと話していると突然、ジェスターの腕が燃え始め、ジェスターが悲鳴を上げる。


『見てみぃ。あ奴の表情を……。余裕がなくなっとるじゃろ』


なんだ?

ロンギヌスにジェスターが触れた瞬間、発火した⁉


『どうじゃ、わしの凄さが少しは分かったじゃろ』


ただ、あいつを見たところ、ロンギヌスの刃による外傷は無さそうだな。

てことは、火傷によるダメージが入っているってことなのか?


『えーっと、わしの声。聞こえてる? ねえ』


ジェスターに刃が通らないとなると、火傷だけが有効だという事か。

あれ? めちゃくちゃ偉そうに言ってる割には切れ味がそうでもない?


『え、何? なんで、わし。ディスられてるの?』


まさか……このロンギヌスって相当ななまくらとか?


『違うのじゃ。あの人間の肌が異常に硬いだけなのじゃ』

なんか、頭の中で泣き声が聴こえてくるが無視して剣をジェスターに向かって構える。


ちょっとでも有効打があるんだ。

さっきまでとは訳が違うよな。

希望が……希望が見えてきた。


「なんだよ。その眼は。ああ、うざいなぁ! もう! 死ねよ! お前ぇ!」

ジェスターは腕を振って、腕についていた火をかき消すと、一瞬にして、間合いを詰め、殴りかかって来る。


「っ!」

急いで剣を盾にし、攻撃から身を守るように構える。


「ああ、痛いなぁ。クソッ。もう壊れてしまえよぉ!」

ジェスターはロンギヌスに触れた瞬間、苦痛に顔を歪ませるも、そのままロンギヌスを殴り続けてくる。


重たい。一撃一撃が途轍もなく重たい。

このまま防御し続けたら……限界が。


焦りが顔に出てきたのか、ジェスターは口の端を吊り上げる。


「あれぇえ? もしかして、魔力よりも先に腕に限界が来たのかなぁ? 剣を持つ手がさっきから震えているよぉ?」


くっ、バレた。

『バカッ!』

「当たりのようだねえぇ! ほらほら、攻撃に集中出来なくなって、防御が間に合ってないよ。おらっ!」


下から⁉

しまっ……。


ジェスターのその言葉とともに、アッパ-が放たれ、ロンギヌスは俺の手から離れて宙を舞い、手を伸ばしても届きそうにないくらい遠くの地面に突き刺さる。


「僕の……勝ちだねぇ」

ジェスターの拳が目の前に迫って来る。


俺は最後の光景に目をつぶる。

そして、口の端を吊り上げ、


「いや、それは間違いだ。ジェスター。

俺はそう言った。


「何?」

ジェスターがそう言った時、ジェスターの手首に鎖のついた手枷が装着され、顔に当たる寸前で止まる。


「これは……手枷? なぜ? まさか……」

「そうです。私です。ジェスター」

「明子先生ぇ!」

明子が森の奥から姿を現し、ジェスターは怒りで顔を歪ませる。


「こんなもので僕の動きが阻害されるわけないだろぉ!」


ピシピシ、パキンッ!

ジェスターは手枷を鎖ごと破壊し、再度、俺に対して拳を振るうが……。


「一瞬あれば十分だ。ルナ!」

「『Shield』」

ルナの声がするとともに、俺の目の前に透明な膜が出現して、ジェスターの拳の行く手を阻んだ。


「舐めた真似を……」


この時を待っていたっ‼

「いくぞ。『置換式魔術』」

「『神器開放 聖剣ロンギヌス』」

俺の声に続いて、ルナが地面から引き抜いた聖剣ロンギヌスを構えながら呪文を呟く。


すると、青いオーラがロンギヌスから、溢れ出し、ロンギヌスの刀身を青く染めていく。


ははっ、すげえ。俺が直前までロンギヌスに残していた魔力とルナの魔力が合わさってでかい魔力を生み出してやがる。


「ああ、もう! うざいなぁ!」

ジェスターはロンギヌスを持っているルナを危険と思ったのか、ターゲットをルナに変えた。


「いくぞ。ルナ!」

「うん」


「「『Jinn’s blade碧き炎の精霊の刃』」」

ルナがロンギヌスを振り下ろすと同時に、刀身から出た青い炎が魔人と化してジェスターに襲い掛かる。


「ぐあぁぁぁ! 熱い熱い!」

ジェスターの悲鳴が聞こえてくる。


これで終わりだ!

遠くから操っている魔力をさらにロンギヌスに注ぎ込み、炎の勢いを強くしていく。


「うぐぐぐぐ。まだだ。せめて一人道連れに……」

ジェスターは燃えながらも最後の力を振り絞って魔力切れになりかけている俺に近づいて来る。


やべえ。早く逃げねえとっ!

頭では分かっているのに、足に力が入らない。


「零っ‼」

「玄野君!」

「あはははははは。道連れだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

ジェスターの手があと数メートルで俺に達するといったところで何故か止まった。


攻撃が来ない?

動きが止まった?


「零を傷つけようとするやつはユルサナイ!」

「お前、まさか……」

ルナのような声とジェスターが焦るような声が聴こえてくる。


「最高傑作かっ!」

「ソンナノ知らない。とにかく貴様をコロス」

「……ルナ?」

魔力切れで今にでも意識を失いそうな状況で、最後の力を振り絞ってルナに視線を向けると、そこには、黒く朦朧とした何かを背中から伸ばしてジェスターの動きを封じているルナの姿があった。


なんだよ。あれ?

ルナ……なのか?

見ているだけで、近くにいるだけで恐怖を覚える。

……どういうことだ?


ルナのあまりの変わりように呆然としていると、真横から風が通り抜けていく。


「寝坊していたツケは払わしてもらうぞ。ジェスター!『魔力纏い 黒彼岸』」

その言葉が聴こえてきた瞬間、ジェスターの首に一筋の黒い光の線が通り過ぎていき、ジェスターの首がずれ落ちていく。


「え?」

その言葉がジェスターの最後の言葉になるのであった。

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