第25話 聖剣ロンギヌス

「で? 君たち、どこに行く気なのかなぁ?」

ジェスターの獲物を狩るような鋭い目が俺たちを捉える。


あの仮面の男も明子さんも皆、あいつにやられた。

救援は来ない。そして、目の前にあいつがいる。

そんな状況で逃げられるのか?

いや、無理だろう。なら……。

「アリス! その子を抱えて撤退しろ。あいつの相手は俺がする」

「……っ! 玄野君。……わかったわ」

俺はアリスに殿を務めることを伝えると、ジェスターの前に立つ。


「君は逃げなくてもいいのかい?」

「へっ、お前くらい俺一人で十分だ」

「強気だね? でも…その割には君。足が震えているようだけど?」

「武者震いだ」

「そうかい。なら、遠慮はいらないねぇ」


ジェスターはそう言うと、一瞬にして目の前から消える。


来るっ!

「『Strengthening the身体強化 body』」

身体強化の魔術を自身にかけ、バックステップで後ろに下がる。

すると、1秒も経たないうちに今まで自分の立っていたところで爆発が起きた。


一撃であの破壊力。

かすりでもしたら確実に死ぬな。

その光景を見て恐怖を覚えていると、ジェスターの声が爆発によって起こった砂煙の中から聞こえてくる。


「おいおい。避けるなんてひどいなぁ」

「うるせえ! あんなもん喰らったら俺が死ぬわ!」

「褒め言葉だねぇ」

「褒めてねぇ『Stone bullet石弾』」


右腕に魔力を集め、石弾を創り出して、ジェスターに向かって発射する。


「ふーん。Stone bulletか。懐かしいねぇ」

ジェスターはそう言うと、俺の魔術を素手で握りつぶす。


マジかよ。あいつ。

全く魔術を使っていないのに、魔術を素手で握りつぶしやがった。

これでも、この魔術。

前よりは威力上がってんだけどなぁ。


「じゃあ、今度はこっちの番だねぇ。ふんっ!」

そんなことを考えていると、ジェスターが手を振り払い、その衝撃が波となって飛んでくる。


「うぐっ!」

ただ、衝撃波なのに……。

このスーツを着ているのに致命傷寸前レベルの威力……。

絶対に生身で受けたら手足が今ので吹っ飛んでる。


「あれぇ? もうこれで終わりぃ?」

衝撃波をもろに食らい、脚を地面について倒れていると、ジェスターが近づいてくる。


くそっ、勝てる気がしねえぇ。

どうする?


万事休すかと思われたその時……。

『伏せて!』

頭の中でルナの声が響く。


る、ルナ⁉

何でここに?

いや、それよりも……。

俺はその場で伏せる。


「何のつもりだい? 少なくとも降伏ではないよねぇ」

「零から離れろー!『神器開放 聖槍ロンギヌス』」

ルナの声が聞こえた瞬間、俺の頭上を光輝く一本の筋が通り過ぎる。


「何! くうぅ」

ジェスターは片手でルナの一撃を受け止めようとするが、勢いを殺すことはできなかったのか、森の奥まで飛ばされていく。


「ふうー」

「零、無事?」

立ち上がると同時に、森の奥からルナがやって来て、こちらに駆け寄ってくる。


「助かった。ありがとう。ルナ。そういえば、アリスとは会ったか?」

「いや、会ってないけど?」

俺の問いが不思議だったのか、ルナは首を傾げた。


「そうか。ありがとう」

ルナと会っていないということは撤退出来ていないか、もしくは……。

あのまま、一度撤退したか。今の状況を考えると、後者であってほしい。


俺が悩んでいることを察したのか、ルナは不安げに俺の顔を覗いてくる。


この状況で仲間を不安にさせるのはよくないな。

「問題無い。とりあえず、今はあいつを倒すぞ。ルナ!」

「うん」


そうだ。

1人なら無理かもしれないが2人なら……。

俺がそう言うと、ルナも槍を構える。


「はあ、舐められたもんだよ。まさか、僕が君たち程度に倒すことが出来ると思われるなんてねぇ」

向こう側から、少し火傷負ったジェスターが歩いて、姿を現す。


火傷を負っている?

さっきのルナの槍の一撃か?


「ルナ!」

「うん。わかった。『神器開放 聖槍ロンギヌス』」

俺がルナの方に視線を向けると、瞬時に俺の意図を理解したのか、槍の力を解放させて、ジェスターに突っこんでいく。


「あー。もういいや。飽きた」

ジェスターはそう言うと、ルナの槍を掴んで破壊した。

槍が破片となって、パラパラと散っていく。


「「なっ!」」

噓だろっ!

あの槍を……壊しやがった⁉


俺たちが驚愕していると、

「ねぇ。これで終わりなの……か…なっ!!」

「うぐぅ」

ジェスターがルナに蹴りを入れ、そのまま遠くへ蹴り飛ばす。


「ルナー!」

「叫ばなくても次は君だよ」

ジェスターが近づいてくる。


どうする。

ルナまでやられた。このままじゃ俺も……殺される。


死を覚悟したその時、目の前に落ちていたルナの槍の破片が一瞬だけ光ったように見えた。


なんだよ。

お前まで俺の死を喜んでいるのか?


死を間際にして、どうにもならない現実に絶望してかは分からないが、俺は何故かその槍の破片に意思があるように感じてしまったのだ。


まあ、槍の破片に意思があるわけないよな。

全てにおいて生きることをあきらめようとしたその時……。


『何をあきらめようとしておる。戯けめ』

少女のような声、だけど話し方は年より臭い。そんな声が頭の中で響いてくる。


うるさいっ!

だって、こんな状況で勝つ方法なんてあるかよ。

無理ゲーだろっ!


『イラッ! なんかお主相当ムカつくのじゃ。前の継承者に似ていたから手を貸そうと思ったのに……』

ぷんすかぷんすかと怒っている声が頭の中で響く。


はあ、さっきからなんだよ。

要件があるならとっと言え!

あと、シリアスな雰囲気をぶち壊しにするようなその喋り方をやめろっ。バカっ!


『なっ、バカって言ったな。バカって。じゃあ、お主はバカじゃ。バカにバカと言われる大バカ者じゃっ!』


あ、なんだと。

てめぇ、ちょっと……表へ出ろやっ!


『ぷっ、あははは』


何が可笑しいっ!


『やぁーっと、元気になったのう? じゃあ、今からわしの言う事をよく聞け!』


嫌だねっ!


『今、お主。そんなことを言っている場合かのう? まあ、お主がどうしようがわしは知らん。とにかく話しておく。お主の前にあるわしを手にして、剣を創れ!』


どれ?


『お主の目の前におるじゃろうっ! キュートでプリティなわしが……』


俺の眼にはただのゴミしか見えませんが?


『ゴミって言うなぁ‼』


まあ、お前の言いたいことは分かったよ。


俺は、目の前に落ちている槍の破片を掴んで立ち上がる。

「うん? どうしたのかなぁ? 諦めたって感じじゃなさそうだけど」


『さあ、唱えよ。わしの姿を変える呪文をっ‼』

わかってるよ。


「ジェスター。今から、おまえを倒す!『Sword Creation剣創造 mode origin type Longinusロンギヌス』」

破片を持った手のほうに魔力を注ぎながら、呪文を唱えると、周りが次第に熱くなっていき、破片が強く輝き始める。


やべえぇ。結構魔力を持ってかれるし、魔力の量も多いから調整を少しでもミスったらすぐに爆発しそう。



「君ぃ。一体全体何をやろうとしているのかなぁ?」

俺が必死に魔力を制御していると、ジェスターが少し怒ったような表情で近づいてくる。


くそっ、今攻撃されたら、ひとたまりもない。

やはり無理かっ!

流石に無理かと諦めそうになったその時……。


「玄野君の邪魔はさせない」

撤退したはずのアリスがジェスターに飛び蹴りを入れた。


「あ、アリス。なんで?」

「私のことはいいからそっちに集中して!」

「ああ、もう! 邪魔だ!」

「きゃっ‼」

アリスがそう口にした瞬間、ジェスターによって、投げ飛ばされる。


「アリス! すまん。ありがとう。おかげで……何とか終わった」

破片から出る輝きが止み、一本の剣が破片を持っていた手に収まる。


「力を貸してくれ。『ロンギヌス』」

俺がそう口にすると、頭の中で『良い名じゃ。センスはあるのう』と嬉々とした少女の声が響く。


当たり前だっ!


「さあ、第二ラウンドといこうか。ジェスター」

『さあ、第二ラウンドの開始じゃ』

「調子に乗るなよ。雑魚が」


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