第24話 ジェスター
「うん? 明子先生? どうしたの? そんな顔しちゃって……。あ、まさか僕があの時死んだと思ってた?」
マルティンに似た男、ジェスターはニヤニヤしながら明子さんに視線を向ける。
「なぜ、あなたが生きているのです? ジェスター=アンドレイ」
アンドレイ?
マルティン先生と同じ家名……。
俺が目の前で起こっている光景に混乱していると、ジェスターと呼ばれている男は急に笑い始めた。
「あはははははは! なんで生きてる? そんなの死ななかったからに決まってるじゃないですか。明子先生?」
「あなた、精霊協会の魔術師全員を敵に回すつもりですか?」
明子さんはジェスターを睨みつけながらそう問いかける。
「ええ。最初からそのつもりですよ?」
「な⁉」
「僕は……そのつもりでここに来ました。あっ、いけない。感想聞いてなかった。プレゼントどうでした? 楽しんでくれましたか? 明子先生。まあ、魔術師のキメラなんてそうそう造れませんしね。楽しんでくれたら嬉しいです」
ジェスターはニコニコしながら、自分がキメラを造ったのだと告げた。
お前が……。
「ジェスター!」
明子さんの顔が怒りで次第に歪んでいく。
「あなたは、絶対に許しません」
「センセー。待て!」
仮面の男が明子さんを止めにかかるが、間に合わず、明子さんはジェスターに立ち向かっていく。
「『其は鏡。我が姿を映し、我を生み出せ。写し身の術』」
明子さんが呪文を唱えると、ジェスターの周りに明子さんの分身が出現する。
「「「「『其は全てを縛り、封じる鎖。
「これは……先程の……。成程、そこそこ硬い」
ジェスターは明子さんの魔術を避けようともせずにそのまま受ける。
「『其は絶大なる破壊者、その強大なる力を以って全てを壊せ!
明子さんがそう唱えた瞬間、大地が揺れ始め、巨人が姿を現す。
「これで止めです!『
明子さんがそう言うと、炎を纏った巨人の拳がジェスターに迫っていく。
すげえ、明子さん。
これは、流石に……あの男も喰らったらひとたまりもないだろう。
「ふーん。さすが明子さん。面白い術を使いますね。“導師”の称号をもらうだけのことはある。でもね。こんな少し硬いだけの土塊じゃあ、僕を殺すことまではできませんよ? はっ! てりゃ!」
ジェスターはニヤニヤしながらそう言うと、魔力を放出して、拘束を維持している明子さんの分身をかき消し、身体の自由を得ると同時に迫り来る巨人の拳を火の粉を振り払うように手で払って破壊する。
「あなた……。一体何を……」
「あはははははは! 何を……。って、長年のキメラを造る実験で得た力をほんの少しだけ使っただけですよー。って、うん? うーん。あっ、そうだ。やっと、思い出した! そこにいる金髪の女の子。何か見たことあるなぁって思っていたんですよ。アイリスちゃんですよね? 明子先生?」
ジェスターは何かを理解したかのように手をポンっと叩くとニコニコしながらアリスの方を見る。
なんで?
今、アリスの話を出すんだ?
「あなた、なんで私の名前を?」
アリスが首を傾げながら、そう問いかけた瞬間、
「「やめろ! ジェスター!」」
何故か仮面の男と明子先生が止めにかかる。
「うん? 気になるかい? 僕が君の事を知っている理由。それはねぇ」
「それ以上! 口を開くな! ジェスター! 『
ジェスターが続きを話し始めようとした途端、仮面の男がジェスターに斬りかかる。
「ごめんねぇ。忘れていたよぉ。君が嫌いなこと。そうだったね。君は……おっと、危ない」
ジェスターは笑いながら、男の剣をただただ避け続ける。
「ジェスター。貴様だけは許さない。今度は確実に殺してやる」
「おお。怖い。そう睨まないでくれよ。血塗れ君? それに、お腹の守りがお留守だよ!」
ジェスターはそう言いながら、仮面の男の横腹に蹴りを入れる。
「なっ! ぐっ」
仮面の男は瞬時に剣を盾にして攻撃を受けるが、完全に受け止められなかったらしく苦痛に顔を歪ませながら、森の奥へと飛ばされていく。
「ふうー。ちょっと疲れたかなぁ」
「『魔力纏い 正拳突き』」
隙を狙って、明子さんが一撃入れようとするが、ジェスターに受け止められてしまう。
「もお、明子先生。不意打ちは無いですよぉ。天国にいる姉弟子のマリアが泣きますよ?」
「黙りなさい! あなたがあの子の名を口にするなぁ!」
「はいはい。じゃあね」
ジェスターは適当に返事すると、明子さんを投げ飛ばす。
おいおい。マジかよ。あの2人が一瞬でやられた⁉
やばい。早く逃げないと!
「うっ、うう。ああ。アリス」
「く、玄野君⁉ あなた、大丈夫なの?」
頑張って声を出すと、アリスが気付いたのか、俺の方に駆け寄ってくる。
「ああ、大丈夫だ。問題ない。それよりも、ルナを探して撤退するぞ。今の俺らじゃ、あいつに勝てない」
「……玄野君。わかったわ。撤退しましょう。立てる?」
アリスはそう言うと、魔術で眠っている子供を片手で抱えて、俺に手を差し伸べてくる
「ああ、ギリギリ。とりあえず、急ぐぞ! 早くしないとあいつに……」
あいつに気づかれる。そう言おうとした時だった。
月明かりが目の前から消えていく。
「僕に……なんだって? うん?」
「なんで」
噓だろ⁉
一体どんな身体能力してんだよ
恐怖と驚愕で歪む俺たちの顔を楽しむかのように、ニヤニヤと笑うジェスターがそこに立っていた。
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