第23話 希望と現実、そして……本音
※主人公視点に戻ります。
結界の向こう側にいる明子さんの目の前に仮面の男が現れた。
その光景を見た瞬間、
『最後にひとつ。少年に言っておく。あれはもう人間じゃない。バケモノだ。愛情なんてものは無い。元が人間だからと言って、人間性なんてものは無い。言葉は喋ったりするが、油断させる罠でしかない。奴らにとっては人間なんて肉塊としか見えてない。もし、あれらと戦う時、元が自分の愛する人間であったとしても、遠慮はするな。即殺せ』
仮面の男が廃病院地下で言い放った言葉がフラッシュバックされる。
あの仮面の男、まさか……あのキメラを殺す気なのか?
まだ、意識があるっていうのに。子供を絶対に守るって強い意志があるのに……!
ほとんど人間なのにっ……!
こうしちゃいられないっ!
クソッ!
明子さんごめん。
「『
自身に身体強化の魔術を使い、何回も何回も同じ場所を殴りつける。
「何をしてるのっ⁉」
アリスの非難するような声が聴こえてくるが気にもせずに殴り続ける。
絶対このままじゃ……俺が後悔する。
ピシッ!
50回くらい殴った時だろうか、結界が弱っていたのもあり、ひびが入り始めた。
「やめなさい! 玄野君」
アリスが俺の服を掴んで止めにかかって来るが、無理やり最後の一撃を入れた瞬間、ガラスの割れるような音ともに結界が壊れ霧散していった。
よし。後は……とにかく走る!
結界が崩れると共に、外に出て明子さん達の元へと向かう。
「く、玄野君⁉」
「明子さん。ごめん。俺はどうしてもこの男に用があるんだ」
明子さんが驚いていることも気にせず、俺は仮面の男の方を向いた。
「怖い顔してどうした? 少年。何か言いたいことでもあるのか?」
「ああ、ある」
仮面の男と話しながら、槍が突き刺さって死にかけているバケモノとそれに縋り付いて泣いている子供に視線を向けた。
「なんで、この人を殺そうとした?」
「おかしなことを言うな。そいつはバケモノだ。人じゃない。先程までは人間だった頃の意識があったかもしれないが、いつかは心までバケモノと化す。少年。お前はそんな奴を放置出来るのか? 放っておいたらさらに大きな犠牲を生むかもしれないぞ?」
仮面の男は俺の問いに怒りを感じているのか、魔力を放出して威圧してくる。
目の前の男が言っていることは確かに正しい。
でも……!
「もしかしたら、人間に戻せる魔術だってあるかもしれないじゃないか!」
「そうだな。探せばあるかもしれない。
男はそう言いながら俺に近づいてくる。
「少年。そんな寝言じみた希望論は寝てから言え! それとも、なんだ? いっそのこと、その希望論とともにここで死ぬか?」
仮面の男は自分の腰に掛けていた剣を手に取り、俺の首筋に当てながら聞いてくる。
「「玄野君!」」
「おっと、変な真似はよしてくれよ。俺は少年に聞いているんだ。それに……今回の俺の目的は少年を殺すことじゃない」
仮面の男は2人を諭すように言うと、小さな声でボソッと何かを言った。
「さあ、少年。俺も忙しいんだ。早く決めてくれ。大人しく引くか。それとも……ここで俺に殺されるか」
剣先が少しだけ動いて、俺の首の皮を少し切り裂き、血が男の剣を伝って落ちていく。
脚は恐怖で震え、背筋を冷たい汗が流れ落ちてくる。
完全に自分の死を身近に感じて、本能が目の前の仮面の男に対して屈服しているようだった。
でも、そう感じたからこそ一つだけ自分の気持ちに気づくことが出来た。
俺は……このキメラを守るという事が大事だとは思っている。
でも、それは多分、一番じゃない。
今、俺が一番思っていること、それは……。
俺は……目の前にいる仮面の男、こいつの事が……。
「俺は……」
「なんだ?」
……めちゃくちゃ嫌いだ!
「俺は絶対に引かない!」
「そうか。では、死ね!」
俺の答えを聞くと同時に、仮面の男の剣が俺の首を撥ねようと迫って来る。
一か八か……。
「『
魔力を右腕から外へと放出して、剣を創り出す。
よし!
まだ少し不完全だが…。何とか成功はした。
魔術の使用による右腕の痛みをこらえながら、迫り来る男の剣を防ぐ。
キンッ!
金属同士がぶつかり合うような甲高い音が辺りに響き渡っていく。
「ほう。俺の魔術を使うか。成長したな。少年。ただ、1回の発動でその状態では先が思いやられるぞ?」
男のその言葉と同時に俺が創り出した剣からピシッとひびの入る音が聞こえてくる。
クソッ、強度が悪いのに加え……。
一回の発動による負担がまだデカい。
魔術の負担が大きかったのか、目や耳から血が流れ落ち、視界が曇っていく。
「まだだ! まだ、戦え……る…」
「いや、終わりだ。『もう動くな』」
男がそう言うと同時に、身体が金縛りにでもあったかのように動かなくなり、そのまま地面に倒れていく。
「がっ!」
身体が動かない。
一体、今何をされた?
「「玄野君!」」
「安心しろ。ただの金縛りだ。1時間くらいで治る。それよりもだ。俺の用はそのバケモノにある」
男は視線をバケモノの方へと向ける。
『サヨ。ニゲロ』
「嫌だよ。お父さん! 死なないで」
バケモノは限界を感じたのか、子供に逃げるように言うが、子供は涙を流すばかりで逃げることをしない。
そんな中、仮面の男は彼らに近づいていく。
『サヨ。ツヨクイキロヨ!』
バケモノはそう言うと、仮面の男から子供を守るように男の眼の前に移動し、仮面の男を睨みつける。
「あっ、あ、あ」
口が動かない為か声がうまく出せない。
「バケモノに成り下がっても最後まで子供を庇うとは、その心意気認めよう。せめて楽に死なせてやる。『魔力纏い、瞬閃』」
仮面の男はそう言うと、バケモノの首を一瞬にして撥ね飛ばした。
「ああ、あぁぁぁぁ!」
バケモノの首から飛んできた血が子供の顔に付着し、何をされたかを理解したのか子供は泣き崩れる。
ちくしょう!
動け! 動けよ!
目の前の状況をどうにかできない自分に苛立ちを感じながらも、動こうと金縛りに抗い続ける。
「よくもお父さんを許さない!」
「そうか。許さないでくれて結構だ。お前はもう眠れ。『
仮面の男は子供の額に手をかざして、魔術を使い、子供を眠らせると、明子さん達のいる方を向いた。
「センセー。この子とそこの小娘とそこで地面とキスしているそこの少年を結界で守ってやってくれ。これから先は何が起きても責任取れねぇ」
「あなた何を?」
仮面の男は明子さんの質問を無視して、別の方向を向き始める。
「なあ、そこにいるんだろう?
あいつ、何を言っているんだ?
「うーん。バレちゃったか。仕方ないねぇ。さすがだよー。仮面の魔術師。いや、こう呼ぶべきかな? “血塗れ“」
暗い森の中に目の前の仮面の男とはまた違った声が聞こえてくる。
なっ⁉
「なんで!?」
「噓っ!」
俺達はその声の主の姿を見るや否や絶句してしまった。
なんで、あんたがここにいるんだよ。
……マルティン先生。
月明かりに照らされたその姿は俺の知っているマルティン先生にそっくりだったのだ。
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