第22話 魔術師 明子
Side:明子
「今から、ルナちゃんが来ると思いますので、合流次第、あなたたちは即刻撤退してください。後は私が一人で何とかします」
「「……明子さん」」
何かを勘違いしているのか、玄野君とアリスちゃんはとても悲しそうな表情をしているように見える。
これ……絶対何か勘違いされていますね。
別にいいですよ。
このミッションが終わった後で、私がやられるわけが無いということを彼らの骨の髄まで徹底的にわからせてあげますから。
まあ、そのためには……生きて帰らないといけませんね。
「そんなに悲しそうな顔をしないでください。私はあんなバケモノに負けはしませんよ。必ず勝って帰ります。なので、早くルナちゃんと合流してください」
私が彼らに向かってそう言った時で、先程バケモノが飛んで行った方向から物音が聴こえてくる。
それにしても……
思いのほか頑丈だったのか、それとも回復するスピードがただ早いのか……。
情報が少ないので両方あること、もしくはそれ以外の能力があることを想定して戦った方がいいかもしれませんね。
なら、彼らを撤退させるのは少々面倒。
私は自分の道具を入れている袋の中から、文字の書かれた紙の人型を数枚取り出す。
「玄野君。アリスちゃん。先程、撤退を申しましたが作戦変更です。今から、私が結界を張るのでその中に入っていてください。『其は全てを覆い、厄災を遠ざけるもの。四方結界』」
私が呪文を唱えると、紙の人型は2人を包み込むようにして四方八方に飛んでいき、半透明な壁を創り上げる。
不安要素はこれで何とかなるでしょう。
後は……集中して戦えます。
私はバケモノのいる方に向き直る。
「さあ、こういう時は第二ラウンドって言うんでしたっけ? 始めましょうか」
『キサマ。ココデコロス!『コイ!
私の言葉に反応してか、バケモノは怒りのこもった眼でこちらを睨みつけながら、魔術を使い、どす黒い瘴気を纏った禍々しい槍を召喚する。
魔術が使えるのですか。
少々厄介ですね。
「『
閃光の魔術を使って、バケモノの視界を奪う。
『グガッ、メガアア!』
やはりキメラはその生物の特徴を大いに受け継ぐのは正解みたいですね。
生物によってはメリットもありますが、同じくデメリットもあります。
トカゲの場合は再生能力に優れている代わりに光に弱い。
そこをつけば……一瞬だけ隙が生じる。
「『其は鏡。我が姿を映し、我を生み出せ。写し身の術』」
私は三枚の紙の人型に自身の髪を巻き付けて様々な場所に投げながら、呪文を唱える。
すると、髪の毛の巻かれた紙の人型はグニャグニャと変形していき、私の分身を創り上げていく。
『キサマ。ナニヲシタ。ナゼフエテイル?』
バケモノはやっと視界が回復したのか、こちらの変化に気づいて、睨みつけてくる。
「「「「それを私があなたに教えると思いますか?」」」」
私が言葉を言うと同時に、分身も同じように行動し始める。
写し身の術は東洋の方の魔術であるのに加えて、私が放たれている魔力までそっくりそのままコピーしてあるので、本体は絶対にわからないでしょうし、本体が狙われてもそのダメージは分身が肩代わりしてくれるという優れモノなんですよ。
私はクスリと笑いながら、次の術式の準備に取り掛かる。
「「「「『其は全てを縛り、封じる鎖。
私と分身が呪文を唱えると、足元の地面から鎖が生えていきバケモノの身体に巻き付く。
『グッ! ウゴケヌ』
「「「「諦めなさい。その鎖は壊せない。これで終わりです。来なさい。『茶々丸』」」」」
“茶々丸”その言葉を言った瞬間、人型が刃渡り2mもある綺麗な刀へと姿を変えていく。
この刀を使うのは久しぶりですね。
長い間召喚してあげられなかったから、少し拗ねているかもしれませんが……。
急用です。すみませんが力を貸してください。
茶々丸。
刀を手にし、バケモノに振りかざした瞬間、
「止めてぇー!」
突然、背後から子供の声と走っているかのような足音が聴こえてくる。
「え?」
『デテクルナァー! サヨー!』
子供の登場と共に、バケモノの反応はどこか焦ったものへと変わっていく。
子供?
何故?
ま、まさか……。
「お父さんを傷つける奴は絶対に許さない!」
子供が泣きながらそう叫んだ瞬間、子供からでかい魔力が放たれ、私が生み出した分身も、鎖も全てが消されていく。
しまっ……。
『サヨカラハナレロー!『ジンライ』』
バケモノが手に持っていた槍を地面に突き刺すと、辺り一帯に電撃が走っていき、何かが焦げたような匂いが辺りを漂う。
「「明子さん!」」
悲鳴のような彼らの叫び声が聴こえてくる。
「大丈夫ですよ。無事です。それよりも結界が無事で良かったです」
私は懐から焦げた人型を取り出して、捨てる。
彼らを守っている結界が無事で良かったです。
それにしても……今回のミッションの対象となったキメラが魔術師だったとは……。
少々、意外でした。
今までは持ち前の高い魔力で精神を保っていたみたいですが……。
どうやら、限界が近いみたいですね。
私はバケモノに視線を向ける。
『ウガアァァァァ!』
視線の先にいたバケモノは頭を抱えてもがき苦しんでいる。
まるで、何かに抗っているかのように……。
早く止めを刺さなければ……事態は悪化するでしょう。
私はまだ袋に残っている紙の人型を取り出し、もがき苦しんでいるバケモノに近づいていくと、先程の子供が泣きながら目の前に立ち塞がる。
「そこをどいてくれませんか?」
「絶対にここは通さない!」
子供はバケモノに近づけさせまいと仁王立ちして、邪魔をしてくる。
困りましたね。
早く止めを刺さないといけませんし……。
でも、そのためにはこの子を力尽くでどかさないといけません。
『グッ、サヨ……』
バケモノの目から一滴の雫が落ちた時であった。
空から一本の鉄の槍が落ちてきて目の前のバケモノの腹を貫いた。
「「「「え⁉」」」」
「センセーらしくない。何故早く止めを刺さない。子供なんて力尽くでどかせればいいだろうに……。」
私たちの驚愕する声をものともせず、その声は聴こえてくる。
「あなたは……」
声のする方向を見ると、仮面の男が黒色のローブを風で少しなびかせながら木の枝に腰を掛けて、面白くなさそうにこちらを見ていた。
「報告に有った仮面の……」
「初めまして。魔術師、明子。あなたに覚えられているとは光栄です」
私が目の前の男を睨んでいると、男は木の枝から降りてきて、そう言うのであった。
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