第21話 森の中で
空が真っ赤に染まる頃、俺はアリスから教室に呼び出されていた。
「それで? 報告の方は君がもうしたのか?」
「ええ。もうしたわ。それにしても、呼び出した理由は聞かないのね」
俺の口から出た言葉が意外だったのか、アリスは首を傾げながら聞いてくる。
「どうせ、今日聞いた噂についてだろ? 聞く必要があるか?」
それに……
「そうね。……とりあえず、結論から言うわね。今回のミッションのメンバーは私とあなたとルナちゃんと明子さんよ」
“明子さん”その単語を耳にしただけで背筋が凍りつく。
何? その言っただけで人を殺せそうなワードは?
ああ。もう現実逃避したい。
「……。俺、用事あるんだった。ごめん。帰るね」
「ダメよ」
回れ右して帰ろうとすると、アリスから肩を掴まれる。
「明子さんがいるならいいじゃん。俺、行かなくてもいいでしょ。それに……修行が無いのならそれでいいじゃん。ね? アリスもそうでしょ? ね?」
「……諦めなさい『
駄々をこねていると、視界が歪んでいく。
・・・
「おえぇぇぇぇぇ!」
「あなた。まだ治ってなかったの?」
お決まりの
そんな残念な奴を見る目で俺を見るな。
残念なアリスに見られると、俺がへこむ。
「なんか、すごくディスられたような気がするけど。まあ、いいわ。『
このままでは埒が開かない。そう思ったのかアリスは魔術を唱える。
「た、助かった。死ぬかと思った」
「治ったのなら、早くオペレーションルームに行くわよ」
通路で大の字になって倒れていると、アリスから早く行くように指示される。
「あと一分、あと一分だけ」
「……明子さんのスーパースペシャル修行メニュー」
「はい。行かせてもらいます。いやー。ホント、体が軽いなぁ。うん」
急いで身体を起こして立ち上がり、オペレーションルームに向かい始める。
「はあ、あなたって人は……」
途中、後ろからアリスの呆れる声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
というか気にしたら負けだ。
そんなしょうもないことを考えていると、いつの間にかオペレーションルーム前まで来ていた。
「やあ、玄野君。アリス。早速だけど、今からミッションについて説明させてもらうよ」
オペレーションルームの中に入っていくと、ハリスのおっさんが入り口近くで待ち構えるようにして立っていた。
「おっさん。何してるの?」
「ひどいなぁ~。玄野君。今回は大まじめな案件だよ」
ハリスのおっさんはニコニコしながら、俺の肩をポンポンと叩いてくる。
今回ってことはいつもふざけてんのかよ。
「それで……今回のミッションは?」
若干イラっと来るのを抑えつつ、ハリスのおっさんの話を聞く。
「じゃあ、今からざっとミッションの内容について説明させてもらうよ。今回のミッションはキメラの目的情報が多発している森林の調査。現在、魔術師たちを数人派遣して結界を築いてキメラが逃げられないようにしている中、“導師”明子とルナ=セクトを調査隊として派遣して調査をしてもらっている。だから、君たち2人には先に現場に着いている2人の補助を任せるよ」
「え、もう。ルナは現場に行っているんですか?」
ルナの奴、大丈夫なのかな?
まあ、いつもみたいな修行じゃないから極端に疲れることはないだろうけど。
でも、前回のミッションとは訳が違うしな。
「うん。30分前に向かったからまだ遭遇はしてないと思うよ」
「……そうですか」
なんか嫌な予感がする。
「それで……お父さん。いや、会長。今回のミッションのキメラに関する情報は?」
「……それがねえ。無いんだよ」
ハリスのおっさんは顔を顰めながら質問に答える。
情報が無い?
なら、なんで、目撃情報が発生しているんだ?
おかしいだろ。
ハリスのおっさんの発言に疑問を感じていると、アリスが首を傾げだす。
「それは……おかしくないですか。目撃情報は出ているんですよ。なんで、キメラに関する情報が無いんですか」
「情報はあるんだよ。ただ、一つ一つの情報が全部合わなくてね」
「全部合わないとは?」
アリスが質問すると、ハリスのおっさんは急に頭を抱え始めだす。
どうしたんだろう?
あのハリスのおっさんが頭を抱える案件って……。
夢の中なのかな?
ハリスのおっさんの意外な姿を目にしたが為に、夢なのか少し疑ってしまう。
「目撃者が皆、違う特徴を口にするんだ。1人は鳥のような頭だったと証言して、また1人はライオンのような頭をしていたと証言するんだ」
「……え? キメラって複数体いるの?」
「それが分からないんだよ。ただ、結界を構築してくれている魔術師たちによると、
キメラが一体だけなのに、目撃情報が異なっている?
うーん。感がられる可能性は……まさか!
「もしかして、今回の件って何かしらの魔術が使われている可能性がある…とか?」
「その線で合ってると思うよ。だからね。くれぐれも気を付けてね? じゃあ、今から送るよ『
ハリスのおっさんは最後にそう口にすると、俺とアリスを転移魔術で現場へと飛ばした。
・・・
「さて、彼らなら何とかなるかな。今回は明子さんもいるし。最悪は避けられるだろう。そんな事よりも……」
ハリスの近くに置かれているパソコンの画面に様々な人物の顔写真が映し出されている。
その中には重要案件と書かれているものがあった。
「まさか……ついに魔術師の行方不明者まで出てしまうとはね」
ハリスはそのデータを目にした後、室内にある大型モニターに視線を向けた。
「まだ、ミッションが始まって間もないけど……。何も起きないことを願うばかりだよ」
零とアリスがいなくなってスタッフだけが残ったオペレーションルームでハリスは独りそう呟いていた。
・・・
時間的な問題もあり、暗くなってしまった森の中、俺は……。
「うぷっ、おえぇぇぇぇ!」
絶賛、吐き気と戦闘中であった。
「はあ。『
「た、助かる」
呆れ顔のアリスに感謝する。
「早く明子さん達を探すわよ」
「わかった」
それから、2人で森の中を歩き初めて5分が経った頃、目の前に寺院のような建築物が見えてきた。
懐かしいなぁ。
昔、ここでかくれんぼしたことがあるんだよなぁ
寺院を見て、そんなことを考えていると、寺院の中から何か聴こえてくる。
「今、なんか聴こえなかったか?」
「はあ? 何言ってるの? 何も聴こえないわよ」
そんなはずは……。
再度耳を澄ましてみるが、やはり何か子供の声らしきものが聴こえてくる。
やっぱり、あの寺院の中に誰かいる。
そう思って、寺院に向かって歩き始めたその時であった。
「っ! 戦闘態勢!」
アリスの焦った声が聴こえてくる。
「『
急いで身体強化の魔術を使い、バックステップで後ろに下がると同時に今まで立っていた場所から砂煙が発生する。
うっ、視界が……。
なんだ?
攻撃?
「アリス!」
「わかってる。『
アリスが呪文を唱えた瞬間、旋風が巻き起こり、砂煙を吹き飛ばしていく。
すると、偶然かどうかは分からないが突然、雲が晴れていき、綺麗な月が姿を現し、襲撃者の正体を照らしていく。
いきなり襲ってきたそいつは身体中に無数の鱗、竜のような頭、縦に裂かれた竜の様な眼を持っていた。
どうする?
撤退か。
いや、距離が近い。
撤退は難しいぞ。どうする?
「アリス」
チラッとアリスの方に視線を向ける。
「ええ、わかっているわ。戦うしか……」
アリスのその言葉を聞きながら、バケモノの方を見る。
ギロリッ
獲物を捉えようとする肉食獣のような眼がこちらを捉える。
へへっ、プレッシャーがやべえぇわ。
あまりの威圧感に背筋からヒヤリと冷たい汗が流れだす。
『ココガラサレ! サモナイドコロス!』
バケモノの威圧がさらに強くなっていく。
どうする?
そう思った時であった。
何処からかは分からないが、突然何かが飛んできて、バケモノを吹き飛ばした。
「「え?」」
「早く逃げなさい。あなた達」
そこには明子さんが立っていた。
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