第19話 強くなる為に

※主人公視点に戻ります。


病院の事件から1か月が経とうとしていた。


この一か月間、『アガルタ』の図書館などの資料を読み漁って魔術の知識をより深めたり、病室で筋トレを始めたり、マルティン先生に怒られたり、マルティン先生に怒られたり、怒られたり……。


あれ?

俺、この一か月間……マルティン先生に怒られてばっかじゃね?

まあ、そんなことは置いておいて……。

図書館の魔術書を読んだ結果、あの魔術を使用するためには魔力制御の質を上げなければならないことが分かった。


一か月間、いろいろとやっていたので、魔力制御は上がっているとは思うが……。

未だにあの男のような精錬された魔術は使えていない。


そして、俺は今、ルナに頼み込んで模擬戦をしていた。


「はっ!」

最近、身につけた格闘術と身体強化を使って、槍を手に持つルナに近接戦を挑む。

しかし、誰もがわかるように槍の方がリーチが長い。

普通なら槍相手に近接戦はないだろう。


「がはっ」

勿論のこと、俺はルナに槍で薙ぎ払われ、吹き飛ばされる。


ああ、やっぱり無理か。

だけど、あともう少しだ。

あともう少しで何かを掴めそうな気がする。

それもこれもこの足枷のおかげだ。


自分の足につけられている足枷に視線を向ける。


『魔力抵抗の足枷』というものだ。

これは装着者の魔力の流れを6割程度妨害した後、さらにその妨害した魔力で足枷の質量を重くするといった優れものだ。


これは勿論、自分で着けたわけではない。

俺があまりにも安静にしてなさ過ぎて、激怒したマルティン先生につけられたのだ。

最初は自由に動けなくて絶望したのだが、今となってはものすごく感謝している。

なぜならこれを着けてからというもの、魔力制御の質が大分上がっているからだ。


ありがとう。マルティン先生。大好き。愛してる。

今、ここにいないマルティン先生に感謝しながら、立ち上がる。


「……零。もうやめない?」

「いや、あと、もうちょっとなんだ。だから頼む。もうちょっとだけな?」

「はあ、わかった」

ルナにそう頼み込んで模擬戦を続けてもらう。

そこから、吹き飛ばされては立ち上がって、吹き飛ばされては立ち上がってを繰り返して、1時間が経過していた。


「あと、もうちょっとなんだけどなぁ」

自分の手のひらの中に出来ている小さな土塊を見ながら、そう口にする。


やはり、なかなか上手くいかない。

いや、上手くいかないというのは少し語弊が生まれるか。

もし、これが枷を外した状態かつ非戦闘中なら、俺は今から使用しようとしていた魔術を発動できていただろう。


でも、それだと戦闘中には使えなくなってしまう。

戦闘中はどうしても別の事に気を取られてしまうためか、魔力制御が少し疎かになってしまうのだ。


だから、あの男のように、魔術の中で一番難しいとされている創造系の魔術を戦闘中に使うには戦闘中に魔力制御の質が落ちないことと、魔力制御が創造魔術を使えるくらいに質が高いこと。この二つが揃ってなければならない。


そう。今やっているルナとの模擬戦は魔力制御の質の向上、戦闘経験、戦闘中の魔力制御の質が低下する割合を減少といったゲームでいうところのボーナスステージなのだ。


だからこそ。このボーナスステージルナとの模擬戦で一つや二つ魔術を使用してみせる。


「……零、そろそろ休憩しない?」

ルナが心配そうな顔でこちらを見てくる。


「すまん。あと一回だけ。これで出来なかったら終わるから。頼む!」

ここで俺のボーナスステージを終わらせられるか。

ラスト一回だ。ラスト一回。


「うーん。わかった」

ルナは渋々ではあるが承諾し、槍を構えてくる。


ふうー。これが最後だ。

何としても成功させる。

しゃがみ込んで、地面に右手を置いた後、目をつぶって、魔力を制御するのに集中する。


「『Earth sword大地の剣』」

そう唱えた瞬間、床から不格好な一本の剣が生み出される。

修練所の床を素材にしているから強度はそこそこだと思うが……形がなぁ

頭の中で改善点をまとめながら、その剣を握り、次の工程に入る。


ふう。まあ、いいや。

仕上げに入らないとな。


俺は足枷に奪われる魔力を制御して、足枷から床に魔力を流し込むように集中する。


よし!

足枷は重くなってない。やっと成功した。

後はあれが出来るかどうかだな。

大丈夫だ。絶対に成功する。

俺は初めての成功に喜びながら、脚に力を入れる。


「勝負だ! ルナ!」

俺はそう言うと、ルナに向かって走り、剣を振るう。


カンッ!

剣と槍がぶつかり、甲高い音が修練所の中を響き渡る。


「やっぱり。ルナは強いなぁ」

「……零」

「でもな、ルナ。最後だけは勝たせてもらう」

やっぱ、ボーナスステージだとしても最後は勝ちたいよな。


再度ルナに斬りかかろうとした次の瞬間、握っていた剣に少しだけひびが入る。


げっ、強度には自信があったんだけどなぁ。

まあ、いいや。

まだ次がある。

俺はルナのはじき返そうとする動きの勢いを逃がすように握っていた剣を放した。

「……っ⁉」

ルナは俺の動きが意外だったのか、一瞬だけ動揺した。


今から……近接戦だ!


俺はニッと笑い、ルナの槍を蹴り上げる。

しかし、ルナもそれを許すほど弱くない。

槍を放すことなく、俺の足を叩き落そうとしてくる。


「ぐっ!……ルナ。俺の勝ちだ。『置換式魔術 Stone bullet石弾』」

そう言った瞬間、俺が最初に立っていた位置から石弾がルナに向かって飛んでいく。


「っ!」

ルナは予測できてなかったのか、防御が遅れてその一撃をもろに食らった。


何とか成功したが、難しいな。

この魔術はずっと、自分で維持しなきゃいけないし。

成功率は1割程度か……それ以下だしな。



「……強くなったね。零」

そんなことを考えていると、ルナが近づいてくる。


「どうだった? 今の戦い方」

「良かったと思うよ」

「そっかぁ」

俺とルナが今の模擬戦について話していたそんな時であった。


「置換式魔術ですか。珍しい戦い方をしますね」

パチパチと拍手する音とともに小さな女の子のような甲高い声が聴こえてくる。


この声……どこかで……。

声のする方に視線を向けると、修練所の扉の前に一人の少女が立っている。


「げっ! め、明子さん」

「久しぶりですね。玄野さん」

明子さんはニッコリと笑いながら近づいてくる。


やべえぇ。前回、子供扱いしたことを根に持っていたらどうしよう……。

もう会うことはない。

そう無意識のうちに思っていたからいつの間にか忘れていたけど。

覚えていたら、根に持たれていたらどうしよう。

明子さんの突然の登場に俺は内心冷や汗ダラダラだった。


「え、ええ。久しぶりですね。明子さん」

苦し紛れの作り笑顔になりながら挨拶をする。


早くこの場から逃げたい。

それが叶わないのなら、明子さんに早くどこかに行って欲しい。

胃が痛くなるのを我慢しつつ、嵐が早く過ぎ去ることを願う。


「ふふっ、そんなに固くならなくてもいいですよ」


固くなりたくてなってるわけじゃないんです。

あなたが何を思っているか?

前回会った事を根に持ってないかがただ気になるだけなんです。


「ふう。わかりました。それで、明子さんもなぜここに?」

俺がそう聞くと、明子さんはアッとなにかを思い出したかのような顔をした。


「そうでした。忘れていました。実は今日から特別にあなた達の修行をつけることになったんですよ」

「え?」

俺は自分の耳を疑った。


修行?

なにそれおいしいの?

うん。聞き間違いだよね。


「えっと、もう一度お願いします」

「今日からあなた達の修業をつけることになりました」

「……マジすか」


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