第4話 謎の銀髪の少女②

ルナが槍の先端をロドリゲスに向ける。


「はあ、はあ、クヒッ! その槍に刻まれた魔術ルーン文字。貴様、名のある魔術師だな?」

ロドリゲスは叩きつけられたダメージがでかかったのか、顔だけを動かしてルナを見ると不気味に微笑んだ。


「私が名のある魔術師かどうかは知らない。だけど、この人は殺させない。私が守る。『Strengthening the身体強化 body』」

ルナは槍を片手に何か呪文のようなものを呟くと、常人離れした速さでロドリゲスに突きを放つ。


だがしかし、ルナの突きはロドリゲスに届く直前で止まった。

ロドリゲスがいつの間にか出していた2本目の短剣を使って、槍を受け止めていたのだ。

「おっと、危ない。怖いことするねえ。キヒヒ」

ロドリゲスはそう言うと、今度は自分のターンだと言わんばかりの笑みを見せて、ルナの槍をはじき返して襲い掛かる。

「キヒヒヒ! 死ねえ!」

「『Shield』」

ロドリゲスの短剣の刃がルナに刺さろうとしたその時、ルナが手をかざして、何かを唱えた。

すると、透明な膜のようなものがルナと俺の周りを覆い隠して、

ロドリゲスの短剣をはじき返した。


「防御系の魔術か。キヒッ! いつまで保つかな?」

ロドリゲスは気味の悪い笑い声をあげると、短剣を何本も取り出し、同じところに何度も何度も投げつけ始める。


4,5回その膜が防いだ辺りからだろうか、膜に小さなひびが入り始めた。


「くっ、このままじゃ、ジリ貧。あなたは邪魔だから後ろに下がって!」

ルナも自分の魔術が長くはもたないと思ったからか、こちらを向いて後ろに下がるよう促してくる。


「わかった」

「ありがとう。じゃあ」

ルナは素直に従った俺に感謝すると、槍を構えて何かを唱え始める。


「……空気よ纏え! 『Air blastエアブラスト』」

ルナが何かを唱え終えると、槍の矛先に空気の渦が生み出され、突きを放つと同時に、矛先に纏っていた空気の渦がロドリゲスに向かって一直線上に進んでいく。


ロドリゲスは短剣で防御していたがルナの突きの威力に負けたのか、短剣の刃は砕け散った。


「なっ! ぐああああ!」

ロドリゲスは予想外の出来事に驚愕し、避けようとするが、さすがに間に合わず、その一撃を喰らっていた。


勝ったのか?

そう思った瞬間、ロドリゲスが口角を上げて笑い、


「「なっ!?」」

俺とルナは突然のことに驚きの声を上げる。


「驚いたか? 驚いたよな。キヒヒヒヒ!さて、私の居場所がどこかわかるか?」

どこからかロドリゲスの声が聞こえてくる。


ロドリゲスの本体を探すためにその声の発生源を調べようとしてみるが、部屋全体から響いていて、場所が特定出来ない。


いったいどこから声が?

そんなことを考えていると、

「ぐっ、に、逃げて!」

ルナが急に膝をついて倒れる。


どうやら、先の技の反動で弱ったところを狙われたらしい。


「る、ルナ!?」

ルナの元に駆け寄ろうとするが、手で制されてしまう。


「逃げて!あなたがこの毒を喰らったら死んでしまう」

ルナは必死になって、俺を逃そうとする。


ど、どうすればいい?

体が恐怖で動かない。見えない事が怖い。

ルナもやられた。そうだ。勝ち目なんてない。諦めろよ。


そんな言葉が脳裏にちらつく。


そ、そうだ。あきらめ……。

そう思った瞬間、幼い頃の思い出が蘇る。


『僕はね。皆を助けるヒーローになりたいんだ』


……れるわけないだろう!

そうだ。ここで逃げたら、ここで諦めたら、俺はきっと後悔する。


「ふうー」

覚悟を決め、肺の中にある空気を全て吐く。

一旦、頭を真っ白にして、状況を確認する。

こちらからは敵の姿は見えない。

そういえば、前にも似たようなことがあったはずだ。

えーと、あれは俺が幼い頃に会った男とかくれんぼをした時だった…。


・・・


「はい。零君みーつけた」

男の声が後ろから聞こえてくる。

「えー!な、何で5秒も経たずに見つかったの?僕、頑張って隠れたのに・・・」

幼い頃の俺は思いのほか早く見つかって、拗ねていた。


「あはは。なら、今日は零君にかくれんぼで相手をすぐに見つけるコツを教えようか。それはね・・・」


・・・


それは、気配。すなわち周りの空気から存在を感じ取ること。


目をつぶり、感覚を研ぎ澄ましていく。

空気の流れを読み取り、不自然な場所を探す。

本体はどこだ?

どこにいる?


ルナの傍、いない。自分の近く、いない。天井、いない。

どこだ?

壁の近くは・・うん? ここだけなんか変だ。明らかに周りに似せようって感じがする。

ここが、当たりなのか? いや、分からない。でも、迷っている時間もない。一か八か。

「ルナ。回復に専念してくれ」

そう言って、黒板に向かって走り出した瞬間、

「逃げようとするとは舐められたもんだなぁ」

背後からロドリゲスの声が聞こえてくる。


振り返るな!

恐怖で震える脚に鞭を打って走る。


あともう少し。あともう少…し……⁉

そう思ったところで、足に何かが刺さった。


「うっ!」

痛い。痛い。痛い。


足の方に視線をやると、どうやら、ロドリゲスの放った短剣が片足に刺さったらしく、床に真っ赤な水たまりが広がっていく。


あと少しだ。届け!

痛みをこらえながらも必死に手を伸ばしてあるものを掴む。


よし!あとはこれを……投げつける!

「喰らえ。爺!」

手に持っていたものを投げた瞬間、教室内が真っ白に染まっていく。


「な、何を? げほっ! これは・・チョークの粉?」

ロドリゲスは手についたそれを見て困惑していた。


「ふん。何をしようが無駄だ。死ねえ!」

「ロドリゲス。

そう口にすると同時に、ロドリゲスの背後から槍を構えたルナが現れる。


「『神器開放!聖槍ロンギヌス』」

ルナがそう言うと、槍の魔術ルーン文字が碧色に輝き始め、矛先が白く染まっていく。

すると、槍から途轍もないオーラのようなものが溢れ出していき、場を支配した。


「な、何をする気だ!?」

チョークの粉塗れになったロドリゲスは身の危険を感じたのか、慌て始める。


「いけえええ!」

「はあ!」

ルナは槍を片手で持ち、ロドリゲスに向かって投げる。

槍は音速を超えて空間を貫いていく。


ズガンッ!

建物全体が揺れるような大きな衝撃が走り、

土埃のようなものが辺りに舞う。


やったか! あ、あれ? 身体が……。

バタッ!

そんなことを考えた瞬間、先ほど受けた短剣の毒が全身に回ってきたのか、

力が入らなくなっていき、その場に倒れ込んだ。


「キヒヒヒヒ。まさか、この私がこのざまとは……」

砂埃の奥からロドリゲスの弱った声が聞こえてくる。


やばい。倒しきれてなかった。早く逃げないと……。

急いで立ち上がろうとするが、力が入らない。

「はあ、はあ。がはっ! キヒヒ! このままでは死んでしまうなあ。キヒヒ。なら、せめてお前だけでも道連れにしてやる!」

ロドリゲスはルナの一撃でできた傷から血を流しながらも、短剣を片手に俺を刺そうとする。


「うっ、あ。ダメ」

死が近いからなのか。ルナの声がどこか遠いものに聞こえてくる。


「止めだー! 死ねえぇぇぇ!」

ロドリゲスが短剣を振り下ろそうとした瞬間、

壊れた窓から、一本の矢が飛んできて、ロドリゲスの首を貫いていった。


「「「えっ?」」」

突然のことにその場にいた3人の声が被る。


ビッシャア!

秒も経たないうちに、ロドリゲスの首に空いた空洞から血が噴き出して、教室の床が真っ赤に染まっていく。


「な…ん……だ…と……⁉」

ロドリゲスは驚いた表情をしながら倒れていった。


「お、終わったの…か?」

やばい。意識が、ああ、もうダメだ。

薄れゆく意識の中、ルナがこちらに駆け寄って来るのが見えた。


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