非現実的日常生活
烏森明
第1話 悪魔くんの日常1
悪魔くん。
周囲からそう呼ばれる青年は、彼の姉が行きつけの喫茶店でバイトをしていた。
彼にとってこの店は、大好きな姉の紹介で入り、姉がよく来る最高の職場だった。……つい先程までは。
彼は今日も姉のお気に入りであり、自分も気に入っているこの喫茶店で楽しく働いていた。
しかし、お昼頃の混んでいる時間帯に来た二人の中年女性が、会計を終えた後出入口で永遠と話し続けているせいで、入ろうとしている客や食事を済ませて出ようとしている客の迷惑になっていたのだ。
ちなみに当の本人達は一切他人の迷惑なんて考えていないような態度で堂々と出入口を占拠していた。
全く迷惑な話である。
「マスター、あのおばさん達何とかならないかな?」
そう常連客の一人がカウンターで珈琲を入れるマスターに言った。
どうしたものか、とマスターは思う。
ここは常連客しか来ない隠れた喫茶店。
だからこそ、いつも来てくれている常連客にゆっくり過ごして欲しいのだ。
このような迷惑客が常連客に不快な思いをさせているのは店としてもよろしくない。
どう対応するべきか困っていると、すぐ側でサンドイッチを作っていた悪魔くんはこう言った。
「マスター、あの人達もっとお金とっても良くない?迷惑料ってやつ。」
「そうだね、私もそう思うよ。」
ため息混じりにそう言うマスター。
その間も問題の女性達はいっこうに動かない。
さすがに常連客やこの後来るはずの姉にとって邪魔だなと思った悪魔くんは、作り終わったサンドイッチを客に渡して出入口に向かった。
そして、とびっきりの笑顔を携えて迷惑客である彼女達に話しかけたのだ。
「あ、さっきのお姉さん達じゃん!また来てくれたの?全然いいんだよ!一日二回でも三回でも気にせず入ってね!」
悪魔くんはグイグイと二人を押しながら中に入り、マニュアル通り席に案内してお冷を並べた。
慣れた手つきでメニューを渡し、お腹を空かせてランチを食べに来た客と同じように対応した。
そう、文字通り迷惑料をぶんどることにしたのだ。
そんな彼の対応もあってか、女性二人は渋々注文した商品を食べ終わると、直ぐにお金を払い、そそくさと帰って行った。
その様子を見ていた常連客からは拍手が、マスターからは感謝と自慢のコーヒーが送られた。
そのコーヒーを片手に休憩時間を貰った悪魔くんは、窓の外から見えた姉の姿に飛び出して行った。
これが悪魔くんと呼ばれる青年の日常の風景である。
余談だが、この後例の女性二人を見た人物は居ないとの事。
きっと恥ずかしくてどこか遠くに行ってしまったのだろう、とマスターに聞かれた悪魔くんはいつも通りの笑顔で答えたそうだ。
非現実的日常生活 烏森明 @karasumori_akira
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