第1話
僕の夏は終わったけど、世の中の夏は終わった訳では無い。むしろ、これからだ。
受験生は夏が勝負と言われている。この暑い夏を乗り越えて秋を迎えなければ。
僕は玄関先で靴のつま先をトントンしてドアノブに手をかける。
ドアを開けると一気に蝉の音が僕の鼓膜に響いてきた。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。
世界最高峰とも言われている音楽団のような迫力を受ける。
夏にしか聞けない蝉のオーケストラ団だ。
蝉は卵から孵化して7年目で地上に出る。本当に1週間しか生きられないのか。
学者よっては、1週間以上生きるという人もいるが僕は異議を唱える。
理由は一つ。ロマンチックさに欠けるから。
何を持って、ロマンチックというのか。高校生の僕に完全に理解できるものじゃないけど。
そんな気がする。いつか答えが見つかればな。
こんなことを考えている暇じゃない。早く塾に行かなきゃ。僕は自転車のチェーンを外して
すぐに乗っかり蝉の声が響きまくっている住宅街を駆け抜けていった。
もう少し時期が進み、勉強で多忙な夏休みも佳境になっている八月下旬。
学級委員の僕は学校の空き教室で担任から9月に開催される文化祭の説明を受けていた。
「~という感じで9月の末に開催する予定だから。とりあえず、二学期最初の日にクラスでの時間を1時間貰っているから、そこで話し合いしようか。」
ほんとはやりたくてしている学級委員の僕はうなずくことしかできなかった。
「ごめんよ~。山原。でも、もうひとり海野さんがいるから。協力して進めてほしいな。よろしく。」
そういって古岡先生は教室からでようと席から離れる。
「あ。そうだ。食堂の自販機でジュースでも買ってあげようか。」
「……行きます。」
申し訳なさそうにしているから先生なりの気遣いかな。僕も先生の後に続いて、席を外した。
いつも賑やかな食堂も静かだ。体育館が近いからバスケ部やバレー部の声が聞こえてくる。後輩たちは秋の高体連に向けて練習しているはず。
「山原。どれがいい? 」
「コーラでお願いします。」
ガゴンっ。!
「はい。どうそ」
「ありがとうございます。」
「じゃあ、そこの椅子に座ろうか」
プッシュッ!!
蓋を開けた炭酸が勢いよく音を出す。
「山原は受験に向けた勉強はどうなの?」
「順調だとおもいます。これから過去問や模試しっかりやっていきます。」
「そうか。俺は丁度山原の時期は勉強してなくてな。 ハハハ」
古岡先生は自虐的に述べる。
「そこから、二学期始まってから急いで勉強しても遅かったなぁ。案の定志望校に落ちたね。」
懐かしそうに、遠くを見ながら話している。
「でも、どうにかして今こうやって教員している。人生何があるかわからんよ。」
「そうそう。先生としてというか。同じ男として言っておくけどな。男はね、本当に弱い生き物だよ。いちいち過去のことを引きずったりする。どうしてだろうな。」
「後悔のないように。いくらあがいても後悔したときには遅いからね。」
「でも後悔することが必要なのも人生だ。よくわからないよ。」
僕はその時。直観だけど、コーラの味を一生忘れることはない気がした。
夏が終わる。
かき氷を君に @navi_kakukaku
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