私はロボットでは

結騎 了

#365日ショートショート 209

 吹き荒ぶ風の音を聞きながら、男はキーボードを叩いていた。

「やったぞ。これでいけるかもしれない」

 マグカップを片手に、女がそばに立つ。

「やっと出来たの? 例の開発中のAI」

「そうなんだよ。まずはこれを見てくれ」

 ディスプレイに映るウェブページには、『私はロボットではありません』の文字が並んでいた。

「そもそも、これがどういうものか知っているかい?」

 ずるりと、マグカップからすすりながら女は首を横に振った。

「『私はロボットではありません』というチェックボックスは、文字通り、人間かロボットかを判断するものだ。とはいえ、これをチェックしただけで分かるはずがない。ポイントはその前の行動なんだよ。ページのスクロール速度や、マウスカーソルの挙動、そしてチェックを入れる際の回数。そういったものから総合的に判断して、スパムを弾くんだ」

「分かったわ。つまり、あなたが開発していたのは……」

 男は指を鳴らして答えた。

「正解。人間らしい無駄な動きをするAIだ。それが出来るロボットだよ。ウェブページを閲覧しながら、意味もなくページを戻したり、マウスカーソルをぐるぐるさせたりする。そんな不規則な動きをした後に、『私はロボットではありません』にチェックを入れるんだ。そうすると、ロボットでありながら認証を突破できるだろう」

「やったじゃない。すごいわ」

 窓の外、風はより一層強くなり窓を叩いていた。枯れ木が悲鳴を上げている。

「これでウェブサービスがいくつか使えるようになる。少しずつ、出来ることを増やしていこう」

「ええ、もうそれしか方法はないものね」。女はマグカップの潤滑油を綺麗に飲み干した。「あっという間の核戦争。まさかアンドロイド2体だけが残るなんて、思いもしなかったもの」

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私はロボットでは 結騎 了 @slinky_dog_s11

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