サイドテール最高!! と叫んだ日から隣の席の子がサイドテールにしてきた

わだち

サイドテールこそ至高

 リハビリを兼ねた短編です。

 よろしければどうぞ。



***



「サイドテールこそ至高に決まってるだろ!!」


 僕――斎藤和樹さいとう かずきが思わずそう叫ぶと、さっきまでの喧騒が嘘の様に教室が静まり返る。

 お昼ご飯を楽しみながら談笑していたクラス内のイケイケグループからクラスの隅で今期のアニメの話をしていたオタクグループまで何故か僕の方を見ていた。


 さっきまで僕と好きな髪型について語っていた友人ですら何も言葉を発せない異様な空気の中僕の隣の席にいた音無おとなしさんが鋭い目つきで僕を睨みつける。

 

「なんで?」

「え?」

「なんでサイドテールなの?」


 隣の席の女の子にサイドテールが好きな理由を問い詰められる。

 まさか、高校生になってこんな体験をするとは思わなかった。


 音無さんにそんなこと言う必要ある? と強気に返せたら良かったのかもしれないが、生憎と僕は小心者だ。

 普通にビビって正直に答えてしまった。


「首のうなじがはっきり見えるところと、顔の横のサイドテールを撫でる仕草とかが艶めかしくて魅力的に見えるところが好きだからです!!」


 ああ、終わった。

 周りの視線も音無さんの目も怖くて見れない。

 きっと明日から僕のあだ名はサイドテール大好きマン、略してサイダイマンだ。


「あっそ」


 音無さんは僕に向けて冷たく言い放ち、教室を出て行った。

 それから事の発端である「好きな髪型について語ろう」と言い出した僕の友人が僕の肩にポンと手を置く。


「お前、ちょっとキモかったぞ」


 本気で殴ろうかと思った。



***



 サイドテール大好きマン――サイダイマンと呼ばれる恐怖に怯えながら翌日登校すると、意外にも殆どのクラスメイトからサイダイマンと呼ばれることはなかった。

 これには驚きではあったが、思えば元々僕はクラスでも目立つ方ではない。

 昨日はそんな僕が叫んだからこそ目立ったのであって、特に仲良くない人をおかしな仇名で呼ぶ変わり者はこのクラスにはいないらしい。


 これで僕も一安心である。


「よう! サイダイマン!」


 そう思ったのも束の間、僕に笑顔を向けて来たのは佐藤和也かずや――僕の友人だ。


「おはよう、和也。それとその呼び方はやめろ」

「いいじゃねーか。サイダイマンの仇名が広まればキャラ付けに成功するぜ? これまでクラスの冴えない男子Ⅾくらいだったが、仇名ゲットでネームドキャラになれるぞ」

「そんなキャラ付けいらない」


 和也からすれば昨日の出来事は笑い事だろうが、僕からすれば大事である。

 サイドテール大好き! と叫んだだけならまだしも、サイドテールのどういうところが好きかを隣の席の音無さんに語ることになったのだ。

 完全に黒歴史である。


「それにしても、和樹がサイドテール愛を語ったっていうのに誰もサイドテールにしてないな」

「そりゃそうだよ」


 僕が女の子なら寧ろ二度とサイドテールにはしないと思う。

 サイドテールにすればサイドテール大好きな僕に舐めまわすような視線で見つめられることが確定するのだ。

 それを知って尚、サイドテールにしてくる人間は余程サイドテールが好きな人か僕に見られても構わないという勇者だけだろう。


 自分で言ってて悲しくなってきた。


「はぁ」

「どうした? ため息ついて。やっぱりサイドテールが見れないからか?」

「誰のせいだと思ってるんだよ」

「いや、叫んだのも音無さんに理由を大声で言ったのもお前の責任だろ」

「うぐっ」


 和也の言う通りである。

 「サイドテールはないわー」と冗談で言われた時に、カッとなって叫んだのも僕だし、言わなくてもよかったのにとち狂って音無さんにサイドテールへの愛を語ったのも僕だ。

 それだけにやるせない。


「はぁ。僕さ、白瀬しらせさんが時々するサイドテール好きだったんだよ」

「ああ、確かに。白瀬さんって色々髪型変えるもんな」


 白瀬さんとは僕らのクラスで一番可愛いと噂の白瀬あおいさんのことだ。

 今日もクラスメイトに囲まれて微笑んでいる姿は百合の花のように美しい。

 白瀬さんの胸の辺りまで伸びた明るめの茶髪がサイドテールになった日は一日中ガン見してしまったほどだった。


 だが、あのサイドテールを僕はもう見ることは出来ないだろう。


 サイドテールが見れない悲しみからか目から塩水が零れ落ちて来た。


「嘘だろ、お前泣いてんのかよ?」

「サイドテールゥゥ……」

「な、泣くくらいなら頼んでみろよ。サイドテールにして下さいって」

「そんなの愛の告白じゃないか!」

「お前の告白特殊すぎだろ。まあ、でも確かにお前の好きな髪型って知っておきながらサイドテールにする奴がいたら、そいつはお前のことが好きだったりしてな」

「そんな人がいるわけないだろ!」


 僕がそう叫んだ瞬間、教室の扉が開き、僕の目の前の和也がハッと息を呑む。

 いや、和也だけじゃない。

 クラスメイトの中にも何人かが驚きの表情を露わにしていた。


 なんだ?

 僕の後ろで何が起きている?


 少しの恐怖と好奇心を胸に、恐る恐る振り返る。

 そこにいたのは一人の美少女。


「音……無さん?」

「なに?」


 そう、その美少女は僕の隣の席の音無さんだ。

 彼女はいつものように無表情で僕の隣の席に座る。

 だが、僕も和也も目の前の光景が信じられずに何度も瞬きをした。


 それもそうだろう。


「そ、その髪型どうしたの?」


 彼女は何故かサイドテールにしていた。



***



 音無京香きょうか

 僕の隣の席に座る彼女は俗にダウナー系と分類されるような、感情の起伏が少ない大人しい美少女である。

 スタイルもよく、男子からも女子からも人気……かというと意外にもそうではない。

 

 感情の起伏が少ない彼女はあまり笑わない。

 それ故に、彼女と会話したものは彼女の余りの反応の薄さにメンタルを破壊され、彼女の前から姿を消すらしい。

 そういったことから、彼女は一部の男子たちから「ハートブレイカー」と呼ばれているらしい。


 ちなみに「ハート」には心と恋愛的な意味のハートの二つの意味が込められているらしい。

 とてもどうでもいい。


 とにもかくにも、音無京香という女子は分かりにくい人間なのだ。

 そんな彼女がサイドテールにしてきた。それも、僕が「サイドテール大好き!」と叫んだ翌日にだ。


 なんで?????


「好きなんでしょ」

「だ、大好きです」


 その髪型どうしたの? という僕の問いに対する彼女の返答はそれだった。


 予想だにしていない返答に脳死で感情が溢れ出たが、どういうことだ?

 まさか、音無さんは僕がサイドテールが好きだからわざわざサイドテールにしてくれたというのか!?

 そ、それってまさか音無さんは僕のことが好き――。


「私も」


 そう思ったが、どうやら音無さんもサイドテールが好きらしい。

 一瞬、音無さんが僕に恋しているのかと思った。


 ま、まあ隣の席の美少女が僕のこと好きなんて奇跡ないよね。

 寧ろ、隣の席の子が僕の好きな髪型をしてくれるというだけでも十分奇跡だ。

 神様に感謝しよう。


 そう思ったところでタイミングよく先生が教室に入って来た。

 音無さんのサイドテールをじっくり見たい気持ちをグッと堪え、視線を前に向ける。


 正直ありがたい。

 もし、先生が来なければ僕は本能のままに音無さんのサイドテールを凝視していただろう。

 そうなれば音無さんに嫌われていたに違いない。


 いや、でも音無さんは僕がサイドテール大好きと知りながらサイドテールにしてきている。

 それはつまり僕に見られる覚悟があるということではなかろうか?


 いやいや、落ち着け。

 折角のサイドテールを僕の気持ち悪い視線で失うわけにはいかない。

 ここは我慢、我慢だ……ッ!


「んっ」


 僕が必死に我慢していると、突然音無さんが首を軽く振り始めた。

 おかげで視界の端で音無さんのサイドテールが見え隠れする。

 それはまるで視界の端で音無さんのサイドテールが僕を誘惑するダンスを踊っているみたいだった。

 

 み、見たい!

 今すぐ音無さんの方を見て、彼女のサイドテールと共に首を揺らしたい……!


『へへっ。見ちまえよ。大体、思わせぶりな音無さんが悪いのさ。心の奥で彼女もオレにサイドテールを舐めまわされたいって思ってんのさ』


 お、お前は悪魔!

 なんて恐ろしい甘言で僕を惑わしてくるんだ。

 いや、だが僕には天使という味方がついている! お前なんかに絶対に屈しない!


『ええ、その通りです。サイドテールを舐めまわす程度で満足するなんてサイダイマンの風上にも置けません。先ずは、サイドテールを目でじっくり凝視した後、鼻でその香りを堪能する。それから、サイドテールが風で揺れる音を耳で楽しみ、その手触りを全身で感じ取る。サイドテールを舐めまわすのはそれからです! 五感をフルに使ってこそ、真のサイダイマンを名乗ることが出来るのです!』


 え……僕の天使、ヤバすぎ……。


『な、なんだこいつ……! こんな恐ろしい奴の相手なんてしてられるか!』


 ああ! 逃げないで、僕の悪魔!

 サイダイマンな天使と二人きりなんて嫌だ!


『放せ! 俺だっててめえらサイダイマンと一緒なんて嫌だ!』


 僕を天使と一緒にするな!


 結局、悪魔を引き留めている内に朝礼が終わり、トイレに逃げ込むことで僕は音無さんの誘惑から逃れることに成功した。



***



「ねえ」


 昼休み、今日も昨日の様に友達の和也と昼食を食べようかと思っていると、横から声がかかる。

 少しだけ緊張しつつ横を向くと、そこには音無さんの姿があった。


「お昼、一緒に食べない?」


 突然の提案に思わず固まる。

 なんで? と問いかけたい気持ちをグッと堪え、周囲を見渡すと、視界の端に和也の姿が写った。

 僕と同じかそれ以上に驚いた表情の和也は僕と目が合うとフッと微笑み、静かに僕に背を向けた。

 まるで、俺のことなど放っておけというかのように。


 昼休みに男二人だけで女子の好きな髪型で盛り上がる僕らは彼女は愚か女子との関りも多くない。

 それだけに、和也はこの機会を逃すなと言いたいのだろう。


 確かに、これは絶好のチャンスだ。

 既に音無さんがサイドテール愛好家ということは判明している。ここで音無さんと仲良くなれば、僕の学校生活はバラ色に変わるに違いない。


「う、うん。喜んで」


 意を決して返事を返すと、音無さんは手提げカバンを片手に顔色変えず席を立つ。


「じゃあ、ついてきて」

「うん」


 一人で歩き出す音無さんの後を弁当を片手に慌てて追いかける。


 移動中に会話は無く、音無さんは少し早歩きで中庭に出る。そして、中庭の木陰に手提げカバンからレジャーシートを取り出して広げ、その上に腰かけた。


「ん」


 音無さんはポンポンと自分の横を手で叩く。

 座れ、ということだろう。


「お邪魔します」


 一声かけてから、音無さんの横に腰かける。

 木陰の中は涼しく、時折吹き抜ける風が心地よかった。


「食べよ」


 そう言ってカバンからパンを取り出し、音無さんは食べ始める。

 その姿を横目に、僕も弁当を食べ始めた。


 お互いに食事を始めてから数分、パンを食べ終えた音無さんが僕の方をジッと見つめてくる。

 こうも見られるとお弁当も食べにくい。


「どうしたの?」


 思い切って見つめてくる理由を問いかけると、音無さんはサイドテールの毛先を指で絡めながら「別に」と呟いた。


 か、可愛いいいい!!

 明らかに何かあるけど、自分で言いたくはない。相手に気付いて欲しいという気持ちを代弁するいじらしい仕草だ。

 サイドテールじゃなくとも出来るが、個人的にはサイドテールの女子がやる破壊力は絶大だと思う。


 しかし、僕の考察が正しいならば音無さんは僕に気付いて欲しいということがあるということになる。

 それは一体なんなのだろうか。


「ねえ」


 我慢できなくなったのか、音無さんが僕に声をかける。

 その表情はいつもの無表情だが、どこか緊張しているようにも見えた。


「さわる?」


 そう問いかけながら、彼女はサイドテールをこれ見よがしに手で揺らす。


「な、なにいってんの!?」

「さわるって問いかけてる」


 何でもないことのように言うが、音無さんの提案は恐ろしいものだ。

 サイドテールに触れる。

 それはサイドテール愛好家にとってこの上ない喜びである。

 いや、そもそもサイドテール愛好家に限らず異性の髪に触るというのは本来特別な行動だ。

 気軽に触っていいのはよほど親しい相手か、美容師くらいのものだと僕は思っている。

 それに、折角綺麗に結われたサイドテールが触れられることで壊れてしまうかもしれない。

 どんな美しい芸術品も素人が下手に手を加えればそれは駄作となる。


 それにも関わらず、音無さんはサイドテールに触っていいと言っているのだ。


「ほ、本気?」

「冗談に見える?」


 見えない。

 僕の知る限り、音無さんは冗談を言うようなタイプでもない。


 ゴクリ、と生唾を飲み込む。


 ここで断ることは出来る。

 寧ろ、それが無難な一手だ。


 しかし、折角のサイドテールに触れられる機会だ。

 これから先の人生、僕に何度サイドテールに触れられるチャンスが来るだろう。

 きっと、その数は多くても数回。

 僕に彼女が出来なければ0回だろうし、彼女が出来たとしても僕がサイドテールにして下さいと頭を下げなければそのチャンスは訪れないだろう。

 ならば、数少ないこのチャンスを逃す手はない。


「触らせてください」


 僕がお願いすると音無さんは宣言通り僕の目の前にサイドテールを垂らしてきた。

 感謝の気持ちを胸に合掌してからサイドテールに触れる。


 おお……。

 サラサラとした髪質はまるで絹のよう。

 手触りは勿論、木洩れ日を反射して輝く髪は眼福だ。

 そして、手でサイドテールを握った時の絶妙な太さがたまらない。

 森に丁度いい木の棒が落ちていたら拾いたくなるだろう。あの感覚だ。

 どうにも手放せない、不思議な魅力がある。


 しかも、それだけじゃない。

 さっきから音無さんのサイドテールからは僕の鼻孔をくすぐるフローラルな香りが漂っている。

 極め付きは音無さんが時折漏らすくすぐったそうな声だ。

 普段あまり表情の変わらない音無さんの声は何とも扇情的でおかしな気持ちになって来る。


 正に視覚、触覚、嗅覚、聴覚で僕は今サイドテールを満喫していると言っていいだろう。

 つまり、後は味覚でサイドテールを楽しめば僕は名実共に真のサイトテール大好きマンに至れる――じゃない!!


「どうしたの?」


 慌てて音無さんのサイドテールを手放し、距離を置く。

 そんな僕の様子を怪訝そうに音無さんは見つめていた。


「いや、なんでもないよ」


 危なかった。

 あと少しで僕は変態になるところだった。

 サイドテール……あれは麻薬だ。過剰摂取は僕の脳をいずれ破壊するに違いない。


「もういいの?」

「う、うん。ありがとね。でももう大丈夫」

「そう」


 いつもの様に何を考えているのか分からない表情で音無さんはそう呟いた。


 それにしても、音無さんはどうして髪を触っていいなんて言ったのだろうか。

 普通、余程親しい相手でもない限りそんな許可は出さないはずだ。


「どうだった?」


 不意に音無さんはそう問いかけて来た。

 どうだった、というのはほぼ間違いなくサイドテールのことだろう。


「凄くよかったです」

「そう」


 ほんの少しだけ、音無さんの口元が緩んだように見えた。


 その表情を見て、僕は一つの決意を固めた。


「ねえ、音無さん。なんでサイドテールにしたり、僕にサイドテールを触らしてくれたりするの?」


 緊張を押し殺して問いかける。

 いくらなんでもやっぱり今日の音無さんはおかしい。

 僕のことが好きなんじゃないかと勘違いしてしまうような行動ばかりだ。


「分からない?」


 僕の問いかけに期待を込めた目で音無さんはそう返した。


「ぼ、僕のことが好きだったりして」


 冗談のつもりだった。

 だが、音無さんはいつものような力のない目で、「うん」と呟いた。


 うん?

 え、まじで?


「好きだよ。斎藤のこと」

「ほ、本気で言ってる?」

「うん」

「な、何で!?」

「顔がいいよね。平凡だけど、優しそうな顔つきが好き。穏やかな話し方とか、不愛想な私にも話しかけてくれるところとかいいなって」

「僕が言うのもなんだけど、もっとかっこいい男子いっぱいいるよ? それに、僕より優しい人もたくさんいると思うんだけど……」

「斎藤がいい」


 真っすぐ音無さんが僕の目を見つめる。

 その表情はいつもよりずっと明るく見えた。


 そして、彼女の言葉に嘘が無いことを察して僕は困り果てていた。


 どうしよう。

 音無さんは可愛い。おまけに僕のためにサイドテールにしてきてくれるという健気な一面もある。

 ぶっちゃけ、付き合えるなら喜んでという思いはある。


 だけど、それは音無さんがサイドテールにしたからだ。

 変な話、今の僕は音無さんではなくてサイドテールが好きなんじゃないかという思いがある。

 それは音無さんに失礼じゃなかろうか。


「僕は……サイドテールが好きだ」

「うん」

「音無さんの気持ちは嬉しいよ。でも、きっと僕は音無さんじゃなくてもサイドテールの女の子に告白されたら喜ぶと思う。今の僕は音無さんのことが好きだって言う自信が――」


 ぺちん。


 頬に当たった柔らかな感触。

 その正体は、音無さんのサイドテールだった。


「いいよ」

「え?」

「私のサイドテールは好き?」

「大好きです!」

「なら、いいよ。私も斎藤にサイドテール抜きで好きになってもらう自信ないよ。だから、サイドテールをきっかけに出来たらいいなって思ってる」


 フッと音無さんが微笑むと共に中庭に風が吹き抜ける。

 微かに揺れる音無さんのサイドテールに、普段よりほんの少しだけ柔らかな音無さんの表情。

 

 トクン、と僕の心臓が軽やかに跳ねた気がした。


「そろそろ昼休み終わりそうだし、教室戻ろっか」

「ま、待って!」


 立ち上がり、教室に戻る準備を始める音無さんを呼び止める。


 結局、僕の中で明確な答えは出ていない。

 僕は音無さんのことを好きなのかどうか。

 ただ、一つだけ分かっていることがある。


「明日もよかったらサイドテールにしてきてくれないかな?」


 微かに揺れるサイドテールと緩んだ頬。

 

 僕が音無さんのサイドテールでしか満足できなくなるのは、この数年後の話である。

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