第2話

「どっちにしても鬼は殺されちゃうじゃないか」

 物語を聞かされた子供たちは、揃って鬼に同情していた。

「それじゃあ、誰かが鬼の役をやってみよう。鬼がどこで間違ったか分かるかな? 間違った鬼のごっこ遊びだよ」

 一人の子供が手を挙げた。

「はい、じゃあ鬼のお面をかぶってね」

 子供が一生懸命鬼の役をこなす。だが、どうやっても最後には人間に退治されてしまう。

「先生、分からないよー!」

 残念ながら、一年かけても正解をだす子供は居なかった。

 先生から正解を話すことは決してない。教わることに意味はないのだから。

 子供たちがこの幼稚園に通うのはあと一年。毎月一度のごっこ遊び。

 最終最後のその日、鬼になった子供がとうとうお面を投げ捨てた。

「どうやってもダメだもん。もうやらない!」

 子供たちの間の空気が固まった。大事な鬼のお面を投げ捨てるなんて、絶対先生に叱られると。しかし、先生は全く逆の反応をした。

 大きく幼稚園中に響く拍手をした。

「すごい! よくできたね!」

「え?」

「なにぃ?」

 困惑する子供たちに、先生は拍手する手を止め「えらいね」とお面を投げた子供の頭を撫でた。

「世の中にはね、鬼と人間のように、絶対一緒になっちゃいけない相手がいるの。鬼は月からでちゃダメだったのよ。私たちがこの国の外に出ちゃダメなように」

 先生は、この子供たちには明るい未来があると信じた。

 だがやはり、間違った先生だ。

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分岐点 西野ゆう @ukizm

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