分岐点

西野ゆう

第1話

 今日は大の月の三日月。

 輝く部分は僅かだが、じっくり見ると円形の輪郭を薄く描く月。その影の部分に鬼が集う。

 黄金色に輝く弓は、鬼をとどめるはり

 山稜に三日月が触れると、鬼が山に下る。

 無数に居る月の鬼のうち、たったひとり山に下る。

 くたりくたりと、山道を踏み鬼が下る。

 迎えの人間たちが、いつものように二列に並び山へと向かう

「やあ、今月のお鬼は働き者かね」

「やあやあ、今月の鬼は横着者かね」

「やあ、今月の鬼は正直者かね」

「やあやあ、今月の鬼は曲者かね」

 鬼を見つけた人間が、錫杖しゃくじょうを鳴らして問う。

「儂は月から逃げてきた死にかけの鬼じゃ。儂を助ける人間は誰じゃ。儂を見放す人間は誰じゃ」

 鬼も金棒を錫杖のように持つ。そして地面を打ち鳴らして再び問う。

「儂は死にかけの鬼じゃ。儂を殺すのは誰じゃ。生かすのは誰じゃ」

 山頂からふもとに伸びる二本の道。人間の列もその二つの道同様二つに別れた。

此方こちらにおいでなれば飯を食わそう」

「此方においでなれば飯を食わそう」

 どちらの人間も同じことを述べる。

「どっちの道をゆけば明日に辿り着くのじゃ」

「此方だ」

「此方だ」

 やはりどちらの人間も同じことを述べる。

 鬼は知恵を絞った。

「月への道は此方じゃの」

 鬼は自分が下りて来た道を指して言った。

「さにあらず」

「さもあらん」

 左の人間は嘘をついた。右の人間は正直だ。

 鬼は右の人間について行った。

 鬼は夕餉ゆうげを食べさせられたが、その後生贄となり湖に沈められた。


 今日は小の月の三日月。

 今度の鬼は嘘つきの人間についていった。嘘つきの人間どもを喰らい尽くしてやろうと。

 しかし、鬼は逆に捕まり、はりつけられ、八本の槍で突かれた。

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