第3話 後輩と通話
『せんぱい!今何してますか?』
帰宅後、夕食と入浴を済ませて自分の部屋に入ると、チャットにこんなメッセージが送られてきた。
『ちょうど風呂上がったところ。何か用事?』
『ひまです!』
『本当に暇なのか?宿題はちゃんとやったのか?』
『やってないですけど提出は明後日だから大丈夫です』
「はぁ……」
『暇でもないし大丈夫でもないだろ。溜まる前に片付けとけ。俺もまだ残ってるし』
『むぅ』
『どうした?』
『通話したいです』
『だーめ。宿題が先。応援してるから』
そんなメッセージの後に『FIGHT!』のスタンプを送ってみたが、既読してから返信が遅くなったあたり、多分不服なんだと思う。
『いじわる』
……仕方ないなぁ。
『宿題しながらだったら通話していいよ』
『ほんとですか!?』
『分からないとこあったら教えてやれるかもだし。萌花が良ければ』
『イヤホンつけました!かけていいですか?』
早い。しかも元気。
まぁいい。せっかくだから俺も通話しながら宿題を片付けてしまおう。宿題の効率は落ちるが仕方ない。
あのまま放っておいたら萌花はそのまま宿題やらない可能性も出てくる。割とそういうことするやつなんだコイツは。
「まったく。萌花のやつめ……」
萌花のメッセージへの返信もせずに、俺はそのまま萌花のチャットから通話ボタンを押した。
2秒もかからずに応答が返ってきた。
『もしもし。せんぱい?』
耳元から、甘ったるい音色の声が聞こえてくる。
まるで二次元から飛び出してきたかのような、可愛い系の声音。
通話する時の萌花は囁くような喋り方になるので耳がちょっとくすぐったくなる。
「あぁ。聞こえてるよ。宿題の準備はいいのか?」
『はい。今進めてます』
「いい子」
『えへへ』
数学のプリントと格闘しながら、萌花のことを軽めに褒める。
こういうのは、まず始めることが大事なのだ。始めることが一番大変なのだから、まずそこから褒める。
完成度や結果なんてものは二の次だ。
『ねーせんぱい』
「んー?」
『お話、したいです』
「何だよ?言いたいことでもあったか?」
『そこまで重要なことでもないんですけど……』
イヤホン越しに聞こえる音には、萌花の声以外にも、紙にペンを走らせる音も聞こえてくる。
話しながらではあるが、ちゃんと真面目に問題を解いているようだ。
『私、せんぱいの声聞いてると安心します』
「なんで?」
『わかんないです』
「そう」
『せんぱいは安心しますか?』
「萌花の声で?」
『はい』
「どうだろ。聞いてて心地いい声だと思うけど……」
癒される、とか言ってしまうと萌花が調子に乗りそうなので黙っておく。
でも……。
「話しやすいって意味では、確かに安心してるかな?」
『やった。お揃いだ』
いや、こういうのにお揃いとかあるのか?……とも思いはしたが、萌花が嬉しそうなので何でもいいような気がしてきた。
「なぁ萌花」
『なんですか?』
「俺、お前と通話するの好きだよ」
なんで今になってこんなことを言ったのかは分からない。
でも、なんとなく言いたくなったのだ。
これは紛れもない本心だったから。
『嘘だ。先に宿題しろとかいじわる言ったくせに』
「本心なのになぁ……」
『じゃあなんで通話のお誘い断って宿題やらせようとしたんですか?』
「いや、当たり前だろ……」
だってそんなの……。
「萌花と通話する時ぐらい、宿題のこととか考えずに萌花の声聞きたい」
『……!』
「今だって宿題に気を取られて萌花の話に集中できてないし、なんかもったいないだろ」
『せんぱい、なんでそんな恥ずかしいこと言うんですか……』
ん……?
「あれ、俺もしかして凄い変なこと言った?」
『……言いました』
「宿題に気を取られすぎたせいだな」
『なに宿題のせいにしてるんですか。せんぱいが言い出したのに』
「悪い……」
萌花の恥ずかしそうな声が聞こえて、そのまま通話上で変な空気が流れた。
『せんぱい』
「何?」
『宿題、早く終わらせましょう』
「そうだな」
『そしたらいっぱいお喋りしたいです』
「……俺もだよ」
それから俺たちは、会話を少なめにして速攻で宿題を片付けた。
宿題を片付けた後の萌花との会話は弾んだが、時間が深夜に差し掛かろうとした辺りで萌花の返事は段々とおぼろげになり、宿題による疲労感もあったのか萌花は……。
『Zzz……』
「まぁ、そりゃそうなるよな。もういい時間だし」
これ以上は明日の朝も起きられなくなる。
俺もそろそろ限界だ。
「おやすみ。萌花」
返事もしない後輩に最後の挨拶をして、俺は通話を終了した。
萌花とせんぱい ~何かと近い2人の日常~ 浅葱 @RENOA0808
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