104.新たな旅立ち

【暗黒の時代】と呼ばれる歴史に、終止符が打たれた。


 それは新生『六騎士』による魔王軍の討伐。そしてベガルド王国を中心とした人々の復興。強き勇者に支えられた皆の心によるものであった。



(色々あったな……)


 村比斗はホワイト家本邸の庭で復興作業をする雑用勇者達を見つめながら思う。

 現世での不慮の事故。異世界転移。そしてみんなとの出会い。



(村人だったと分かった時はマジで詰んだかと思ったけどな……)


 村比斗が苦笑する。



「村比斗様、お手紙です!」


「ああ、ありがとう」


 ひとり座る村比斗に王都にいるローゼンティアから手紙が届く。



『愛しき村比斗様。ティアは寂しゅうございます。ティアは村比斗様のことを思い毎日眠れぬ夜を過ごしております。早く婚儀を行い一緒に暮らせる日をお待ち……』


 村比斗は相変わらずなローゼンティアを思い苦笑する。

 ローゼンティアにレナ、マッド、そしてマロンは王都再興の為に今必死で頑張っている。魔王軍の憂いがなくなった今、村比斗から教わった技術で順調に復興が進められている。



(マロンはやっぱり有能だな)


 その中でも特に指揮を振るうマロンの存在が大きかった。

 もともとダメ兄の尻拭いをずっとしてきたため、物事を無理なく処理する能力が磨かれていた。混乱する復興作業の中で、これほど順調に言っているのは彼女のお陰だと言わざるを得ない。





「村比斗」


 ひとり座る村比斗にラスティールが現れる。


「ラスティール」


 金色の長髪。真っ白な肌。程よく大きな胸。やはり贔屓目に見てもラスティールは可愛い。



「隣、いいか?」


「あ、ああ」


 ラスティールは持っていたふたつのカップを村比斗に手渡す。



「ありがと」


 村比斗が礼を言ってそれを受け取る。



「……」


 少しの静寂。ふたりが同時に口を開く。



「「なあ……」」



「え?」


 顔を見つめあうふたり。村比斗が言う。



「な、なんだよ。お前から言えよ」


「い、いや、それがだな……」


 ラスティールはカップを両手で持ちながら下を向いて恥ずかしそうに言う。



「あ、あの、例の件……」


「例の件?」



「ああ、その、お前が、私のパンツを欲しいって話だが……」


 村比斗も顔を赤くして答える。



「あ、ああ。そんな話もあったな……」


 ベガルドを倒した後、『私も一緒に貰え!!』と言いながら追いかけまわされた記憶が蘇る。



「あれは、その……、今でも欲しいのか?」



「欲しい」


 そこだけは即答する村比斗。



「ふっ、そうか。ならば……」


 そう言い掛けたラスティールの言葉を遮るように村比斗が言う。



「ついでに、も欲しい」



「え?」


 ラスティールが下を向いたまま固まる。村比斗が慌てて言う。



「い、いや、怒るな! その、俺だって……」



(えっ?)


 村比斗はラスティールが涙を流しているのに気付いた。



「ラ、ラスティール?」


 ラスティールが涙を流し笑って答える。



「あ、あれ。なんで涙が、これは違うんだ。これは……」


 村比斗が思う。



(こんな涙見せられたら、もう俺の負けだな……)



「え?」


 村比斗は頬を赤らめて涙を流すラスティールをそっと抱きしめた。



「村比斗……?」



「俺とずっと一緒に居て欲しい……」


 耳元でささやかれる声。ラスティールは全身の力が抜ける感覚に陥りながら答える。



「うん……」


 ラスティールは嬉しさで頭がおかしくなりそうになっていた。興奮と緊張。恥ずかしさと喜び。それでも思う。



(こんなに強い勇者となった村比斗……、ん? あれ?)


 そこまで考えた時、ラスティールがある事に気付く。




「な、なあ、村比斗……」


 ラスティールは村比斗に懐かしい感じを覚え尋ねる。



「お前って、今、確か勇者だったよな……?」


 ラスティール達はあれから村比斗に起こった勇者への転職の話を聞いている。だからこそのあの強さ。暗黒魔王ベガルドを凌駕する強さも納得していた。村比斗が答える。



「え? 勇者? 違うよ。俺、だよ」



「は?」


 ラスティールが混乱する。村比斗が答える。



「ああ、あれからさ、頭の中で女の声で『レベルがカンストしたから転職できます』って何度も言われてさ。魔王と戦っている時は気にならなかったけど、あれから四六時中頭の中で言われ続けちゃって鬱陶しいからまた転職した」


「お、おい、お前、何を言って……」



「でさ、何になろうか悩んだんだけど、やっぱり村人がいいだろ? だってまたお前達を強くさせられるんだぜ!」


 呆然とするラスティール。

 目の前の男は再び村人に戻ったという。



「あれ? どうした? 俺が村人になって良かったんじゃないのか?」


 ラスティールが静かに尋ねる。




「なあ、村比斗……」


「なに?」


「その転職の選択肢って色々あったんか?」


 村比斗が少し考えて答える。



「ああ、あったな。殆どの職業があったかもしれん」


「なぜ司祭に転職しなかったんだ……」



「司祭? なんで?」


「司祭になればある程度経験を積んだ勇者を別の職業に転職させられるんだぞ……」



「へ? マジで!!??」


 青ざめる村比斗。安易にまた村人に戻ってしまったその意味をようやく理解する。



「俺、またやっちまったのか!?」


「ああ、やっちまった」


 村比斗が両手で頭を押さえて言う。



「い、いや、悪気はなかったんだ!! ごめん! 怒らないでくれ!!!」


 いつでも逃げられる体勢を取りながら言う。ラスティールが笑って答える。



「怒るものか。大魔王を退けた勇者様だぞ、お前は」


「だけど……」



 ラスティールが村比斗の手を握って言う。


「また旅に出ないか」



「旅?」


「ああ、旅だ。お前がエルフの里で貰ったあのペンダント、ああいったものがまだこの世界にはあるかもしれん」


「あ、なるほど」


 村比斗の顔が明るくなる。



「その輝石の秘密を探せばこの勇者だらけの馬鹿げた世界を変えられるかもしれん」


「確かに! その通りだ!!」


 村比斗もラスティールの意見に賛成する。



「じゃあ、一緒に旅に行こうか!!」


 ラスティールも村比斗の手を握り返して言う。




「あー、ふたりだけでどこ行くのよ!!」


 握った手の上に、別の小さな手が乗せられる。



「ミ、ミーア!?」


 そこには水色のボブカットの少女、ハーフエルフのミーアが立っている。


「ミーアも一緒に行くよ!!」


 ラスティールが笑って答える。



「ああ、そうだな。また三人で旅をするか!!」


 村比斗が言う。


「またふたりで俺を守ってくれよな」


 ラスティールが笑顔で答える。



「ああ、もちろんだ!! 私に任せてくれ!!!」


 村比斗とミーアもそれに笑顔で応えた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――

今話にて完結となります。

最後までお読み頂きまして本当にありがとうございました!!

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俺以外、全部勇者。 サイトウ純蒼 @junso32

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