103.私を貰って。
「認めぬぞ、認めぬっ!! この私が、私が!!!!!」
追い詰められた暗黒魔王ベガルドが大きく後退して魔法を唱え始める。ベガルドに集まる黒き魔力。それは先程のミーアの魔力を遥かに凌駕するものであった。
「村比斗君っ!!!」
ミーアが叫ぶ。
同じ魔法使いだから分かるその意味。村比斗は微動たりせずにベガルドを見つめる。
「くははははっ!!! さすがのお前も恐怖で動ぬか!! これを食らって生きていた者はいない!!!」
ベガルドの右手に禍々しい漆黒の球体が浮かび上がる。
「死ねええ!!
黒き球体はジリジリと音を立て、周りの空間を歪めながら村比斗に向かう。
「
ミーアの叫び。しかしやはり村比斗は動こうとしない。
ジリジリジリジリ……、ボフッ……
球体は村比斗の体までたどり着くと小さな音を立てて消滅した。
「は? ど、どういうことだ……!?」
唖然とするベガルド。本来彼が放った暗黒球は触れたものすべてを消去、無に帰す魔法。逆に消されることなどあり得ない。村比斗が言う。
「ああ、言い忘れていた。俺よ、今、スキルで魔法無効の
「ま、魔法無効……?」
「そう言うこと。つまり今の俺に一切の魔法は通じない」
目を大きく開け愕然とするベガルド。
「そ、そんな馬鹿なことが!!! ベ、ベルファイヤー!!!!」
焦ったベガルドの腕から発せられる地獄の業火。
ゴオオオオオオ……、ボフッ……
しかしそれは村比斗に当たる寸前に消えてしまう。
「ぐあああっ、ああ、そ、そんなことが……」
ベガルドの心の底にあった勇者への畏怖が徐々に大きくなる。
「認めぬぞ、認めぬっ!!!」
ベガルドは自分に言い聞かせるように大声で言う。
「
ベガルドの体から黒きオーラが放たれる。村比斗は彼のステータスを確認。
(純粋なステータス強化。すべての値が上がっている。なるほど)
何もしなくても圧倒的強さのベガルド。通常ならこの
「くたばれえええ!!」
ベガルドが高速で村比斗に向かって突進してくる。振り上げた拳に高濃度の暗黒魔力が込められている。
「がああああああ!!!」
ドン!!!!
やはり微動たりしない村比斗に、強化されたベガルドの拳が直撃する。
(な、なんだ、この感覚……!?)
ベガルドは自分の拳が村比斗の顔の直前で、何か空気の壁のようなものに阻害されて止まってしまったことに驚く。村比斗が言う。
「ああ、言い忘れていた。物理無効の
「は? そ、それじゃあ……」
村比斗がこぶしを振り上げて答える。
「ああ、そうだ。魔法も物理も効かない。お前はもう、詰んでるんだよ!!!!」
ドオオオオン!!!
「ぎゃああああああ!!!!!」
村比斗の拳を受け後方へと吹き飛ばされるベガルド。顔面からは真っ青な血がどくどくと流れ出す。
(勝てぬ、勝てぬ、このままでは勝てぬ……)
ベガルドは倒れながらこちらに向かって歩いて来る村比斗を見つめて思う。
(ならば!!!!)
ベガルドは残った全能力を使って『六騎士』達とは別の場所にいたマロンの元へと光速で向かう。
「きゃあ!!」
そして辛い現実を目の当たりにして動けなくなっていたマロンの首を掴んでそのまま持ち上げる。ベガルドに掴まれ苦しそうにするマロン。ラスティール達に「しまった!」と言った空気が流れる。
(こ、このままこいつを人質にして、一旦魔界へ帰って、そして再度計画の練り直す!!!)
ベガルドが村比斗に向かって笑って言う。
「くはははっ!! 勇者よ、動くな!!! 動けばこいつの頭が……」
ドン!
「え!? ぐあああああ!!!!」
突如響くベガルドの叫び声。
マロンの頭を掴んでいた彼の腕が、突然途中から切れて地面に落ちた。
「ぐわあああ、お、お前……」
ベガルドが気付くとすぐ目の前に剣を持った村比斗の姿があった。手には輝く六聖剣。ベガルドはすぐに理解した。村比斗が尋ねる。
「そんな事だろうと思った。お前が考えることなど」
「お、お父様はどうしたのですか!!!」
震えるマロンが目に涙を流して叫ぶ。姿かたちは自分の父であるベガルド国王そっくり。多少若くなり筋肉はついているが、自分の父親にそっくりな者がこのように悪行をする姿は耐えがたいものがある。ベガルドが答える。
「ゆ、勇者よ……」
「なんだ?」
「一番最初に言ったお前の言葉『このまま大人しく魔界へ帰れば見逃してやる』って話、あれは本当か……?」
「ああ」
ベガルドは地面に座り込み涙するマロンを見て言う。
「じゃあ、教えてやる。殺したわ!!! 殺して私がその姿を乗っ取ったんだ!! 楽しかったぞ、王様ごっこ!!! ぎゃははははっ!!!!」
「う、うわあああん!!!!」
それを聞きマロンの中でずっと我慢していた何かが切れて大声で泣き始めた。ベガルドが斬られた腕を押さえながら後方へと飛び叫ぶ。
「じゃあな!! 私は魔界へと帰る。そしてまたお前達を、……!?」
空中に浮いたベガルドは、自身に向かって放たれる真っ白な波動に気付き体を強張らせる。
「お、おい、これって……、うわああああ!!!!!」
真っ白な光はベガルドを包み込むと、そのまま彼を蒸発させるように消していった。村比斗が言う。
「あ、忘れてた。女の子を泣かす奴は許せないんでね」
「む、村比斗様……」
座り込んでいるマロンに村比斗が手を差し伸べる。
「あいつは浄化させた。辛いとは思う少しでも気持ちが楽になれば……、え?」
そう言い掛けた村比斗にマロンが抱き着く。
「好きです。村比斗様……」
マロンが涙を流しながら言う。
「マロンを、マロンを貰ってください……、マロンをひとりにしないでください……」
「い、いや、ちょっと……」
余りに真剣な表情のマロンを見て一瞬たじろぐ村比斗。
「村比斗おおおおお!!!!!」
気が付くとラスティールがこちらに向かって全力で走って来ている。
「あ、ラスティー……、えええ!!??」
しかし村比斗はすぐに彼女が構えた剣に目が行く。
「何をしているんだああああ!! 貴様っ!!!!!」
村比斗は慌てて抱き着いているマロンを離し、逃げ始める。
「ま、待てラスティール。あれは違うんだ!!!!」
逃げながら弁解する村比斗。ラスティールが叫びながら追いかける。
「何が違うのだ!! この浮気者っ!!!!」
「何言ってんだよ!! それより魔王やっつけたぞ、パンツくれよ!!!!」
逃げながら村比斗が答える。
「パンツだと!!?? ああ、パンツもやるから私も貰えっ!!!!」
ラスティールは走りながら興奮し、爆弾発言をしたことに気付かない。村比斗が答える。
「な、何馬鹿なこと言ってんだよ!? と、とりあえずパンツをよこせ!!!」
ラスティールの顔が激怒の顔に変わる。
「な、何だと!? 私の存在は、パンツ以下なのか!!!!!」
「ち、違うわ!! 俺はパンツが好きで……」
「私よりパンツが好きなのか!!! ゆ、許さぬ!!! 乙女の純情をオオオオ!!!!
「ひえ~!!!」
ラスティールの激怒のオーラを感じ取り村比斗は全力で逃げ出した。
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