第二話 エピローグ

 このたびの魚雷投下実験の成功で、停泊中の艦艇へ、敵の根拠地への航空攻撃手段を敷島皇国海軍は手に入れる事が出来た。

 この功績は大きく、三木は航空本部と海軍大臣から功績を讃えられ感状を与えられることなった。

 勿論、滋野の雷撃機も五式雷撃機として採用が決定。

 注文が入り生産拡大のための工場拡張を含めた予算が与えられ露子の会社は、大きくなった。


「乾杯っ!」


 正式採用が決定した夜、露子は嬉しさのあまり格納庫で無礼講の祝賀会を開いた。

 中海の周辺にある高級料亭から料理、置屋から芸者を呼び寄せ航空隊の隊員全員を集め正式採用されたばかりの五式雷撃機を前にして派手に乾杯の音頭をとった。

 荒々しく杯を掲げていたが、皇国人離れした容姿と生来の明るい性格もあって、西洋の神話に出てくる勝利の女神のようだった。

 海外の文化に触れることの多い、士官や古参下士官はより強く思っただろう。

 露子の喜びようを見ると成功させて良かったと勝士は思った。


「よくやったのう、三木少尉」

「岸本教官」

「あー、そういう固い話はなしじゃ。今日は無礼講じゃろう」


 敬礼をする勝士に岸本は手を振って止めさせた。


「今回はありがとうございます」

「いや、三木少尉の基本設計が良かったんだ。殆ど修正する必要はなかった」


 尊敬する教官に褒められ三木は嬉しかった。

 乾杯してビールを飲み干そうとする。


「で? 露子嬢とはどうなんじゃ?」

「ぶっ」


 急に聞かれて勝士はビールを吹きだした。

 ハンカチで濡れた顔や服を拭いてから冷静に勝士は答える。


「あれとは腐れ縁です。今でもあいつが設計した機体をテストする羽目になっていますよ」

「そんな事はどうでもいい。進展はどうなんじゃ?」

「進展とは?」


 分かっていて勝士は、はぐらかした。

 父親に似て破天荒で、明るくて、誰もが好意的に接するパワフルな少女。そのまま成長して女性になった幼馴染み。

 子供の頃から見ているが貴族でありながら、半分外人の血が流れており容姿が浮き立つのに臆することなく、むしろ武器にして振る舞い、貧民街でガキ大将的な地位に立ったのが露子だ。

 兵学校に入校して離れても、いや、離れる期間が長い程、再開する度に、ますます魅力的な女性に成長していく。

 父親が亡くなったときは流石に気落ちしていたが、すぐに立ち直り、会社をもり立てた。

 決して、親の七光りではなく自ら輝くのが露子だ。

 でなければ、今この光景はない。

 露子が設計した機体が実力を認められ採用されたのだ。

 好意を持っているかどうかなら勿論ある。

 少なくとも、何度も<死に戻り>しても露子が設計した機体に乗り、成功させようと頑張るくらいには好きだ。

 だが、口に出して言うのは<死に戻り>の事もあり、勝士には出来なかった。

 三木の態度に岸本は、嘆息しハッパをかける。


「お前の大きな魚雷が露子嬢に命中させれば良いだろうが」


 岸本は勝士の両脚の間を見ながら言った。

 勝士も釣られて視線を脚の間へ向けると顔を青くした。


「結構です!」


 前回の失敗、投下した魚雷が機体へ跳ね返り足下から魚雷が突き出した時のことを思い出した勝士は、青ざめて離れた。


「こりゃ、少し焚き付けんとだめか」


 だが岸本は勝士の態度を誤解して、男子ながら老婆心を膨らませた。


「どうしたのかね」


 そこへ様子を見ていた鷹野本部長が声をかけてきて岸本が事情を話す。

 すると鷹野は「任せろ」と一言言って懐から写真を取り出し、露子の元へ向かった。




「一寸! どういうこと!」


 宴会が終わる寸前、露子が眉をピクピクさせ額に血管を浮き上がらせながら勝士に迫ってきた。


「なんだよ」

「何、知らない女に鼻を伸ばしているのよ!」

「何のことだよ」

「とぼけないで! この写真は何!」


 見せられたのは女を侍られせた勝士の写真だった。

 身に覚えがありすぎた。

 部屋の内装は泊まったホテルのスイートで間違いない。


「ど、どこでこれを」

「さっき鷹野さんから預かったの!」


 露子の方からアタックさせようと先日カジノホテルのVIPルームで勝士が女を侍らせる写真を送ったのだ。

 勝士が奥手なら露子の方から迫らせるしかないと考え、激昂させ問い詰めさせるために鷹野が渡したのだ。

 余計な事をしやがって、と勝士は毒づいたが、手遅れだ。


「ねえ、説明して」


 追求してくる露子から勝士は逃げようとした。

 だが側に控えていた毬恵さんが追いかけ勝士を捕らえた上に関節を極めてきた。

 これでは最早逃げられない。

 勝士は露子が納得するまで弁明する羽目になった。

 因みに、許して貰った条件には露子の考案した実験機のテストパイロットを務めることだった。

 航空本部からも許可が出ていたらしく、しばらくの間、勝士は露子の考案した、とんでも飛行機、もとい先進的すぎる実験機に乗せられる羽目になる。

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