偏屈
彼女は疎まれていた。最初は何からだっただろうか、微かな記憶からすると恐らく嫉妬だろうか。難癖を付けられて服を汚され、ペンを盗られ、水をかけられ、色んな意味で標的……いや、『まと』扱いをされた。
堪えて、歯を食い縛って、拳を握り締めて、それでも手を上げることはしなかった。
即ち抵抗の意志無しと見なされた。
次第にそれは地域に広められ、彼女はすぐに様々な悪意に晒されることとなった。唯一の救いは親であった。
親であった。
親は消された。
殴られたのか、蹴られたのか。平らになっていた。丁寧に均され、カーペットとなって畳を紅く染め上げていた。
優しく、強く、そして大好きだった。
頼るものは失くなった。
耳を澄ませば、否、澄まさずとも分かる。パチパチと小さな音がする。それは炎の音。頼るべき者を奪った上に帰るべき場所も燃やそうというのか。
そうか。
私はいらないのか。
自己すらも喪おうとしていた彼女は想う。
どこで偏った?
何で偏った?
どうして?
おしえて
おしえろ
はやくしろ
こたえろ
『屈しないこと』。それは母の教えであった。
彼女は狂った。
屈しない。
屈することがない。
もういいや。
何もないのだから。
あるとしても壊れた心しかない。
じゃあ、壊れちゃえ。
アタシが悪いわけない。
世界の偏りが悪いんだ。
だったら。
押し返す。
『偏れッ!』
怨みが神に届いた。
空虚なるモノ。
世界の裏を。
奇跡が起こり、全ては偏った。
燃えた家は元に戻る。
代わりに他の全ての家屋が燃えた。
生傷が治る。
代わりに他の全ての者に生傷が顕れた。
親が蘇生される。
代わりに他の全ての親が死亡した。
失ったものは全て取り戻した。
嫌なものも無くなった、これで楽しい生活を
「きけけけけけけ……?」
親は元通りではなかった。
失った心、魂は戻らなかった。
どうして?
『どうして?』
『アタシが悪いの?』
彼女は壊れた。
自我もなく星を歪め、磁場を偏らせ、寿命を操作して、進化確率を動かして、
何も残らなかった。
ただ、空虚なだけ。
ねじれて、ゆがんで、こわれただけ。
何をしても意味を見出だせない。
何もないからすることもない。
果たして自分に救済はあるのか。
それは、死という安寧だけで。
『まだ、戻ってこれる。俯かないで』
だから、その姿がやけに印象的だった。
そして、今の彼女は。
「ウディーア!練習だから!」
「や!ボク行かない!」
「子供じゃないでしょ!」
「ボクはここで十分出世出来るの!」
「嘘おっしゃい!」
偏りを見つけて、直すことを仕事にしていた。しかし、今回の仕事はやけに難題であることに悩んでいた。
CRAZE 濁烈叫悦のアスラトシカ・ジンジャー @Vaemilrior
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