第3話 調査
緊急会議が終わり、それぞれ寮に戻った隊員たち。
「私は出動まで仮眠とるけど、
「あたしはちょっと外出してきます」
「りょーかーい」
軽く手を振り、
咲良はウエストポーチからスマホを取り出し、
「もしもし? どうしたの?」
彼がスマホを片手に首を傾げている姿が頭に浮かび、咲良はふふっと笑った。
「え、なに笑ってんの?」
「ごめんごめん。理津くんこのあと時間ある?」
「ん? うん、大丈夫だよ」
「手伝ってほしいことがあるんだけど、寮の玄関で待ってるね」
「わかった。すぐ行くよ」
電話を切って少し経つと、理津が走ってきた。
「お待たせ。手伝ってほしいことって?」
「裏世界について調べたいなぁと思って。あたしの実家に大きな書斎があるんだけど、あんまり入ったことないんだよね。魔法使いや裏世界に関する文献もあるから、理津くんも一緒にどうかなって」
「なるほど。たしかに親から、先祖が魔法使いだーって聞かされたけど、裏世界について書いてある本ってなかなかないもんね」
裏世界管轄特殊部隊は、魔法使いの家系しか入隊できない。入隊については任意だが、二人は乗り気だった。というのも、咲良は小さい頃から魔法少女に憧れ、理津もファンタジー小説やアニメが大好きだったからだ。
二人は電車を乗り継ぎ、寮から三十分ほどかかる咲良の実家に向かった。
両親はどちらも働きに出ており、家には誰もいない。咲良は合鍵をリュックから取り出して中に入り、家の中をどんどん進んでいった。
豪邸な実家に見とれていた理津は、置いていかれないように慌てて靴を脱ぎ、きちんとそろえて端に置く。
「お、おじゃましまーす……」
理津の声が、広い家に響いた。
咲良はある場所まで行くと急に足を止め、床についた取っ手を勢いよく引っ張る。すると地下に続いているのか、階段があった。すごいな……と理津は感嘆の息を漏らす。振り返った咲良は苦笑いを浮かべた。
階段を下っていくと、まるで図書館のような書斎が広がっていた。四方八方が本で埋め尽くされ、全部読むには何日かかるのだろうと理津は考える。
「この中に魔法使いや裏世界に関する文献があると思うんだけど……見ての通り、整理されてないんだよね」
「こんなに沢山の中から探すの……?」
「そういうこと」
「なかなか骨が折れる作業だね」
二人はそれぞれ片っ端から本をあさる。小説にエッセイ、実用書、絵本、図鑑、雑誌。色々な本が並ぶ棚から、理津は黒い背景に白字で『魔導書』と書かれた、間違いなく魔法使いに関するであろう一冊の本を取り出した。すると、一冊分空いたスペースの奥に、見るからに怪しいボタンを発見する。
「さらぁ~! なんか変なボタンがある!」
本棚の上の方を探していた咲良は、興奮した様子の理津に気づくと、ゆっくりと踏み台から降りた。
「どれどれ?」
「ここ」
「めっちゃ怪しいね……」
「お、押してみて良い?」
普段は大人しくて小心者なのに、ワクワクしている理津。対照的に、咲良は怪訝な表情を浮かべた。
「危険かもしれないよ?」
そう言うと、理津は腕を組んだ。
「あれじゃない? ボタンを押したら本棚が動くやつ」
「そんな都合の良いこと起こるのかな」
不審がる咲良だったが、彼女自身も好奇心の方が勝ってしまった。
理津が瞳を輝かせながらボタンを押すと、ゴゴゴゴッという音とともに本棚が動く。そして新たな通路が出現した。
「……理津くんの予想通りだったね」
「でしょ」
顔を見合わせ、思わず笑った。
薄暗い通路を、スマホのライトで照らしながら進む。突き当たりに小さな部屋があった。あまり生活感のないその部屋には、十冊ほどの本が並んでいて、机と椅子が一つずつとベッドが置かれている。
なによりも二人の目を奪ったのは、地面で七色に光る魔法陣だった。
「な、なにこれ」
「わかんない……これも裏世界に繋がってるのかな」
先ほどまでの興奮は消え、二人は魔法陣を見つめる。少しずつ不安な気持ちが大きくなっていった。
「とりあえずこの部屋にある本を見てみよう」
咲良が率先して本棚に手を伸ばす。取り出した紺色の本の表紙には『マルテミア』と英語で書かれていた。理津もそばに寄って手元をのぞき込む。
「魔法使いの名前かな?」
「うーん、そうかも。それよりも理津くん、英語得意?」
「え? まあ多少は」
「なら良かった。これ中身全部英文だから読解よろしく」
理津は素直に本を受け取った。部屋にあった椅子に腰かけ、ページをめくる。咲良は日本語で書かれたものを選び、ベッドに座った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます