第2話 招集

「二人の初陣ういじんに、かんぱーい!」

 テンション高めの葉月はづきがグラスをかかげた。


 周りにはスーツ姿のおじさんや若者のグループがたくさんいて、ガヤガヤと店内はにぎわっている。咲良さら理津りつゆう、葉月の四人は居酒屋に来ていた。


「足を引っ張ってしまい、すみません……」

 うなだれる理津の肩を、隣に座る優は優しく叩いた。

「攻撃当たってたし、そんな落ち込むなって」

「そうそう、まだまだこれからだよ」と葉月もはげます。

「つ、次は頑張ります」


 ――裏世界管轄特殊部隊は、高校卒業後から入隊することが可能だ。表向きはNPOとして活動していて、現在、隊員は総勢二十人で構成されていてる。出動は各グループごとシフト制。昨日は優たちC班の当番だった。


「先輩たちはいつからこの部隊に?」と咲良。

「俺は二人と同じ十八歳からだよ。だからもう五年も経つな」

「私は二十三から」


「お二人は……」と咲良に続いて理津が質問しようとしたとき、丁度料理が運ばれてきた。

「お待たせしました! 竜田揚げとイカリング、だし巻き卵です!」

 さわがしい店内にハキハキと大きい声が響く。白いシャツに黒のスキニー、腰に赤いエプロンを付けた従業員は、料理をテーブルにスッと置く。「ごゆっくりどうぞ~!」と流れるように去っていった。


 その姿を見送ると、葉月は早速イカリングを頬張る。

「うま~」

 片手を頬にあてて、うっとりする葉月。


 三人はそんな彼女をあきれた表情で見つめた。優はテーブルの隅に設置してあるタブレットを手に取る。注文履歴を確認し、はーっと盛大なため息をついた。

「昨日の今日でイカはないだろ」

 優の抗議に、理津と咲良も無言でうなずく。


「えー、だっておいしいじゃん。みんなも食べなよ、ほらほら」

 皿を押し付けてくる葉月をかわし、優は竜田揚げに箸を伸ばす。ビールを片手に、一人黙々と食べ始めた。


「つれないなぁ、優は。咲良ちゃんと理津くんは食べるよね?」

 上目遣いで新人を見つめる葉月。

「遠慮します……」と二人は苦笑した。


 ◇◆◇


 咲良と理津が入隊して一カ月が経った。


「咲良ちゃん起きて! 緊急招集だって」

 葉月の声で目を覚ます。隊員たちはみな同じ寮に住んでいて、咲良と葉月は同室だ。下がるまぶたをこすっていると、急いで身支度をしている先輩に気づき、咲良はベッドから飛び降りた。


「緊急って、裏世界で何か起きたんですか?」

 速足の葉月に置いていかれないよう小走りする。寝起きのため、咲良の髪の毛はところどころはねていた。

「わからないけど、緊急ってことはたぶんそうだろうね。今までも何回かあったんだよ」


 廊下で優と理津の後ろ姿を見つけ、一緒に会議室に入った。他グループのみんなが真剣な表情で席についている。四人も長机に一列に座った。

 隊長である神崎が前に立つと、みんな姿勢を正す。


「近ごろダストが急増している。おそらく流行り病やら物価高騰やらが重なったからだろう。それに五月は一番ダスト発生率が高いからな」

 そこで一旦言葉を切り、隊員たちの顔を見回す。


 一息つくと、再び口を開いた。

「そういうことだから、今夜からはシフト制をなくし、十人ごと一日交替で討伐とうばつに向かう。今日のメンバーは……」

 名前が次々と呼ばれ、威勢いせいの良い返事が会議室に響く。優と葉月もならって返事をした。


 会議が終了し、ぞろぞろと部屋から出ていく。C班の四人も会議室をあとにした。

「四人一緒のグループじゃなかったね」

「武器のバランスを見てのことだろ」

 葉月は少し残念そうだが、優はさして関心がなさそうに返す。

「まあ、咲良ちゃんたちのグループには隊長もいるし、安心だね」


 廊下を歩きながらそんな会話をしていると、咲良は同期たちに気づき、手を振る。理津も含め、みんな高校一年のときに入隊説明会に参加していた。咲良は改めて、あの日は衝撃だったな、と思い返す。


 ――高校に入学してすぐ、咲良の家に一枚の手紙が届いた。母はその手紙に目を通すと、「もうそんな時期なのね……」とこぼした。


「お母さん? どうしたの?」

「あのね」と切り出した母は、一度大きく深呼吸すると、改めて咲良に向き直った。そのあとの告白は、鮮明せんめいに脳裏に焼き付いている。


「お母さんたちのご先祖はね、魔法使いなの」

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