流血こそ我が涙なり ——美少女ウェスタン復讐劇——

ソメガミ イロガミ

流血こそ我が涙なり

scene01 邂逅かいこう


「ミルク。たっぷりよ? ギリッギリまで」


 マーブル色にきらめく長髪を風になびかせ、タバサは酒場のカウンターに腰掛ける。


 大きなトランクを自分の側にドン、と音を立てて置いた。


 豊満な胸が大きく揺れ、周囲の男の視線が一気に集まる。きっ、と睨みつけて鼻を鳴らす。


「あ、あと1ミリ!! 1ミリ注いで!」


 そうかと思えば、慌てて店主に懇願する。あわてんぼうの小娘のように。そうして、並々に注がれたミルクを受け取った。


「ここらじゃ見ない顔だね」


 店主が呟く。タバサはコップの淵からズズズッと慎重にミルクを啜った。


「昨日来たのよ。向かいの宿に泊まってる」


「へぇ、向かいの」


 店主は噛み締めるように言う。


「じゃあ、ハントには会ったか?」


 ミルクを喉に流し込むタバサの動作が止まる。店主はちょっと笑って、グラスを拭き始めていた。


「ハントぉ? だれよそれ」


 口の周りに白髭をつくったタバサが首を傾げる。服の袖でぐしぐしと拭う。


「もう半年近く宿に泊まってんだよ。素性の知れない賞金稼ぎだから狩人ハントってワケだ」


「へぇ〜。こんな辺鄙へんぴな村に……。面白いじゃない。まだ宿にいるなら顔くらい……」


 タバサの声を遮り、木製の音が店中に響いた。


 スイングドアの微かに擦れる音。


 店の入り口に一つの小さな影があった。


 成人男性にしては小さいその体は大きなポンチョに覆われており、背中には大きなライフルが背負われていた。身長を優に超える長身に、グリップは床に引きずられている。


 店主がくい、と顎で指した。


さ」


 直径五十センチはあろうつばのテンガロンハットを深くかぶり顔は見えない。


 ハントは、一直線にタバサの隣に座った。


「…………みず」


 放たれた注文。


 意外にもそれは、可愛らしい女の声であった。


「またか……。そろそろ酒を飲んじゃくれないかねぇ」


「昼間から酔ってなんかいられないってば」


 じろりと辺りを見渡せば、昼間から酒を飲んでいたボンクラガンマンばかり。ハントはちょっと肩をすぼめて、出された水に手をつけた。


「アンタがハントかぃ? 店主に聞いたよ。賞金稼ぎで生計立ててんだね。それに女ときてる……アタシと一緒だねぇ」


「そういうあなたはタバサ・ゴールドウィン。噂に聞く風水ガンマンさんでしょ?」


 


 その名を聞けば西部の野郎どもは皆口を揃えて、風水ガンマンの噂を語る。


 風水はご存知だろうか? 


 古代中国の思想より生まれた、吉凶禍福を地脈と方角から導き出す……言わば運のコントロールシステムだ。


 要塞を攻め込む方角にしても、古代においては風水を参照し、攻め込まれやすい方角にまじないをかける、という手段も存在した。


 風水無頼 タバサは、それを利用し、迫り来る敵を一網打尽にする。


 魔女。


 妖女。


 悪魔。


 あらゆるものに例えて恐れられる、殺し屋。


「そ。よく知ってるわネ」


「いえいえ」


 ハントはちょび、ちょびと子猫のように水を飲む。小動物のようにも思える動きだ。


 砂を含んだ風がタバサの頬をくすぐる。


 彼女はニヤリと微笑んだ。


 感心し、そして自らの悪名が轟いていることに喜びを感じながら。


 だが、笑うその瞳の奥には、もう二度と戻れない過去が浮かんでいた。消すことの出来ない、風水が自らを導いた血の道標が……。


scene02 タバサ


 アタシが風水に出会ったのは出来心からだった。


 アタシは田舎町に生まれ、両親、妹 ルールゥと共に仲良く暮らしていた。パパのことも、ママのことも、妹のことも好きだった。


 けれど、両親が時々妹ばかりを可愛がってしまうことだけは少し気に入らなかった。


 自分は姉。


 割りを食ってしまうこともある。


 妹は可愛いのだから。


 そう思っても、モヤモヤは晴れない。


 幼いアタシは、その答えを自分で探し出そうとした。


 そうして……風水に救いを求めた。


 自分の苦難を解決する術は何処にあるかを占うため。


 そう、それだけだったはずなのに……。


「……え?」


 その方角で見つけたのは、拳銃であった。


 護身用に父親が外で持ち歩いていたリボルバー拳銃。


 黒く光る殺しのライセンス。


 占い程度に解決法を見出すなんて馬鹿馬鹿しいと、私は笑った。


 けれど、何故だかアタシは手を伸ばして。


 拳銃に触れていた。


 重い。


 アタシには重すぎる武器だ。


「はは……」


 アタシは自分の言動を笑いながら、銃を元の場所に戻そうとして…………。


 扉の開く音を聞いた。


 頬を汗が伝う。


 音の方に視線を寄せる。


 木製扉の軋む音が止む。


 そこには。


 そこには、パパが立っていた。


「タバサ? 何をしてるんだ?」


 何気ない問いかけ。


 なんでもない言葉。


 けどアタシはその言葉に驚き。


 拳銃を床に落とした。


 音。


 空気を震わせる銃声おと


 身を縮ませるような爆発おと


 世界を変えてしまった白煙おと


 アタシの瞳には、血を噴き出す父親の姿が映った。


 それは思考の糸を容赦なく切った。


 自分よりもはるかに大きな男が、一瞬で床に倒れ落ちた。


 自分が不満をもっていた男が。 

 (ちがう。アタシはパパを愛していた)


 たった一瞬で消え去った。

 (死んだ。アタシのせいで)


 風水で占った通りに。

 (風水で占ってしまったから)


 解決した。

 (ちがう)


 妹をもう可愛がらない。

 (ちがう)


 パパは最期にアタシを見ていた。

 (アタシ、だけを)


 アタシだけを

 (アタシだけを)


 殺した

 (殺した)


 殺した

 (殺した)


 パパを

  (わたしが)


 目前に広がる血の泉。


 アタシの顔を映す真っ赤な水面が。


 風に静かに揺れる。


 風が、吹いている。


 心が、落ち着いていく。


 瞳を紅色が侵して。


 そして、心は。


 心のモヤモヤは、感じない。


 穏やかだ。なにも感じないほど。


 アタシはそっとリボルバー拳銃を持ち上げる。


 風水はアタシを救った。


 風水はアタシにパパを殺せといった。


 ねぇ、風水。


 次はどうすればいいのかしら?


 占って。


 迷いはなかった。


 風水はアタシを導いた。


 だからその答えに笑ってうなづいた。


 心配するママを撃ち。


 泣く妹を撃った。


 そして、風水の方角通りに家を出た。


 幸せになれる場所を探して。


scene03蛇喰いスネークイーター


 酒場は飲んだくれの喧騒に満ちていた。


 鼻の曲がるような匂いと耳を塞ぎたくなるような大声の飛び交う中で、タバサは二杯目のミルクを頼んだところだった。


「飲んでばっかり。ちゃんと食べないと体に悪い」


 ハントは言う。その言葉通り、タバサは細く、不健康そうに見えた。やつれている、とまでは言わない。


 だが、細い。


「金がないの。お金があるなら一ポンドステーキくらい食べたいんだけどねぇ……」


「……ますたー。ステーキ、あるでしょ。出して」


 タバサがこぼした愚痴を聞くや否や、ハントはカウンターに金を並べる。


 ぴん、と伸ばされた皺の多い紙幣が店主の手に渡ると、タバサの目前には一ポンドステーキが出される。


「えぇ……っとさぁ」


「たべて」


「貴女も食べなさいよ」


「わたしはいい。そんなに食べられないから」


 水をちょびちょびと口に含む。


 そして軽くお腹をさすった。


「自分が食べられない分、人の食べる姿が見たいの」


 ハントの足先は、心なしか楽しそうに、ぱたぱたと踊っていた。子供のようだ、と感じる。微笑ましい、とも。


「そういことなら、遠慮せず食べちゃうけど?」


 軽く指差し、確認する。ハントはそれに反抗しない。ただ期待を込めたように皿の上に置かれた赤々しい、血のたぎるようなステーキ肉を見る。


「うん」


「じゃっ。ありがと、いただくよ」


 かぶりつく。


 久しぶりの食事だった。


 身体中に力が湧く気がする。


 肉汁が血液に溶けていく。


「うーっっ!! これ、これぇっ!!」


 あはは、と真っ白い歯を見せて豪快にタバサは笑った。ハントはその様子をどこか楽しげに眺めた。


 膝をつき、指を組み、その上に自分の顔を乗せて。


「宿に半年も泊まってんだってネ?」


 タバサはコップを音を鳴らしてテーブルに置き、ハントに目を向けた。


 彼女は恥ずかしそうにハットを深く被った。


「まぁ、うん。賞金稼いで宿に泊まって、その日暮らしの生活だけど」


「どこの町でもそんなに長く居座ってるのかしら?」


「ううん。ここが初めて。どうしてもやりたいことがあって」


 ハントはそういって、じっ……とタバサを見た。


 タバサは腰元の拳銃に手をかざす。


 その視線に含みを感じた。


 空気が冷たくなっていく。


 張り詰めていく。


「へぇ……」


 瞬きを一瞬だけする。


 両者向かいあったまま。


 ほんの一秒にも満たない沈黙。


 タバサは唇を軽く舐めた。


「なんだい?」


 ゆっくりと問う。


 面白がるように口角を歪め。


 弧を描かせて。


 ハントはテンガロンハットを人差し指で持ち上げて、タバサを見た。


「人探し」


 タバサは見た。


 その顔を。


 自分が殺したはずの妹の顔を見た。


「ルゥ……ッ」

 

 光を反射する美しいブロンド。


 覗き込むような蒼い瞳。


 ぷっくりとした愛らしい肌。


 健康的な血色は、砂埃でかすかに汚れている。


「やっと見つけたよ。お姉ちゃん」


 タバサは銃を抜くことさえ忘れていた。


 憧憬どうけいに身を委ねながら、しかし殺意は胸の内にある。


 彼女はハントから目が離せなかった。


 まるで彼女が世界の中心であるかのように。


 唇が半開きになる。


 漏れ出たのは乾いた吐息。


「なるほど。探されてたワケ」


 小さくうなづく。


「なら、やることはひとつネ?」


 ハントは背中に背負ったライフル銃を素早く手に持ち替えて、床をついた。まるで杖のように。


「うん」


 彼女は銃に支えられて生きながらえてきたのだ、と言わんばかりに。


運命ケジメ、つけるよ」


 二人は席を立つ。


 そのまま、酒場の外へ出た。


 吹くのは木枯らし。


 吹かれるのは二人の女。


 酒場の外の広場————死の荒野に、二人の死神は立っていた。互いを見つめ合いながら、きたる運命を見定める。


 一人は吉凶を。


 一人は風を。


 陽光は二人の僅か十メートル程の距離に形容し難い緊張を作り出す。


 呼吸一つし難い、地獄の間合い。


「風水はね、静の占術さ。けど、闘いは生き、蠢くものだ。ちょっと工夫が必要なの……」


 タバサはそう呟き、トランクを荒野の上に置く。


 ロックを外す。


 勢いよく飛び上がったトランクの蓋。


 中にあったのはサークル状の物体。


 ダーツの的にも思えるそれは、東洋の文字が刻まれた奇妙奇天烈な羅針盤であった。

 

八門遁甲羅盤はちもんとんこうらばんッ!! それがこの羅盤の名前。そしてルゥ、アンタを殺す運命さだめの名前さ!!」


 八門遁甲——それは古代中国より伝わる兵法であり、呪術の一種であった。戦略戦術において吉凶の方角を推し量り、奇跡とも言える事柄さえ起こしてしまう術だ。


 本来それは攻め入る土地に用いる。例えば、この方角は凶の土地である。この方角は吉の土地である……というふうにだ。


 だがタバサの八門遁甲はそんな大スケールではない。


 もっと小規模に運を導き出す術。


 タバサは八門遁甲盤をゆっくりと足で回転させる。それは正確な方角を測る為に。


 ハントは、無理に攻め入りはせずただライフル銃を構えて警戒する。


 自分が果たして凶の方角に立っているのか。


 それとも吉の方角に立っているのか。


 彼女には分からないのだから。


 タバサの足が停まる。


 挑発するように、鋭くハントを睨めつけた。


驚門きょうもんだよ、アンタ」


 次の瞬間、ハントはなんとも言えない悪寒を感じた。


 どこから?  


 彼女がそう戸惑った瞬間————。


 目の前の、構えていたライフル銃が灼け溶けた!!


 一瞬。


 コンマ一秒さえかからなかったのではないか?


 地面、小さくも深い穴があいていた。

 

 燃える穴が。


 彼女は悟った。


 ライフル銃を溶かしたのは、だったのだ!


 驚門とは、予測できない状況や精神面での安定性に欠く状態へ追い込まれる方角である。


 だが通常ここまであからさまな脅威が、たかが十メートルしか離れていない両者の間で起こるなどあり得ないことだ。


 それを可能にしているのがこの町に宿った地脈の霊力。これにより、八門遁甲の威力は何十倍にも跳ね上がっているのだ。


「これが運命力ちからよ」


 得意げに呟き、タバサはゆっくりと歩を進める。そして、数歩歩いた位置で立ち止まり敵を見据えた。


 銃を構える。


 古びたリボルバー拳銃。


 両親を殺した凶器に違いなかった。


 ハントにもうライフルはない。


 彼女は両手を上げた。


「撃ってよ」


 懇願。


 そこに怪しい奸計トリックがあるのか。


 構うものか……タバサはそう考えを捨て、妹に銃口を向けて。


 引き金を引いた。


 まさにその瞬間、大地が揺れた!!


 思わずタバサは揺れ、無様に転がった。


 そしてタバサは初めて気が付いた。


 自分が立っていたのは地面の上なんかではない。


 巨大な回転卓の上だった!!


 砂埃をかけられ、巧妙に隠されていたのだ。


「半年。でも、無事完成した……」


 ハントは立ち、タバサを見下ろしていた。彼女がこの巨大回転卓を作り、地面を蹴り回転させたのだ。


「これがお姉ちゃんの八門遁甲を崩す策! 背水円陣ルーレットゲヘナっ!!」


 そう。


 現在彼女たちの位置関係は逆転していた。


 吉の方角にハント。そして驚門にはタバサ。


 タバサは自分の唇を舐めた。


 目を見開く。妹の顔を脳裏に刻むように。


 蹴った————ッ!!


 地面を!


 回転卓は再度回転する。


「運が離れたんなら、もう一度引き寄せるだけなのよォッ!!」


 タバサは吠え、吉の方角で思いっきり地面を踏んだ。


 ブレーキをかけるように。


 煙塵が舞い上がる。


 同時に凄まじい勢いで地面にめり込んだ足により、回転が止まった。


 タバサは銃を向ける。


 卓の向こう側のハントに向け————


 


 じゃあハントは何処へ。


 答えは簡単。


 タバサは素早く見上げた。


 空宙そら!!


 ハントは回転卓が回る直前跳躍していたのだ。


 二人の影が重なる。


 吉の方角 休門の上空にはハント、地面にはタバサ。


「これで運の差ハンデはなしっ!」


 ハントはそう言い口をすぼめる。


「何言ってんのかな! アタシにはリボルバーがあるってのにさァッ!」


 構える。


 大した距離ではない。


 外すはずがないとハントの脳天を狙い……。


 瞬間、彼女の視界を何かが遮った。


 ハントの唇の間から何かが飛び出した。


 慌てて撃つ。


 だがそれは細く、銃弾はかすり抜けていく。


 かすり抜けた銃弾は、ハントの肩、胸に見事着弾した。


 噴き出る血を浴びるタバサの顔面に、細身のそれは落ちてきた。


 蠢く身体。


 それは————


「蛇ッ!?」


 マンバだ!!

 

 蛇は鋭く牙を剥き出し、タバサの首筋に噛み付いた!!


 マンバの神経毒は、首筋の牙から全身へと血管を通じて伝達されていく。


 蛇遣いガンマン ハントの奇策であった。


scene04 双子の月


 ねぇ、おねえちゃん。


 月は二つあるよ。


 水面に映った月と、夜空に輝く月。


 水面の月はわたし。


 夜空で輝くのがおねえちゃん。


 わたしは、おねえちゃんのそばにいたいな。


 おねえちゃんを支えてあげたいから。


 わたしがおねえちゃんにそう言うと、彼女は私の額を軽くつついた。


「バカね。アタシに構わず、自分で輝きなさいよ」


 でもね、おねえちゃん。


 わたしおねえちゃんがすきだから。


 ————離れたくなかったの


scene05 尾を食む蛇よ


 マンバは本来臆病な生き物である。


 強力な神経毒を体に宿してはいるが、それは臆病な彼らに残された最後の手段であったのだ。


 ハントはそのマンバを胃の中で飼っていたのだ。特殊なゴム袋を胃に用意し、食物を通すルームと蛇の住むルームを分け隔てたのだ。


 それは長く苦しい仕込みだった。


 けれど、ハントにとってそれは苦しくはなかった。


 過去に比べれば、そんなものほんの少しの痛みだ。


 それに、彼女はマンバのことが好きだった。


 自分と同じで、臆病な彼らのことが。

 

 タバサの身体はもう動きはしなかった。


 緩やかな寒気が身に満ちている。


 穏やかだった。


 血に濡れ、死臭を纏ったこの体が浄化されていく気さえした。


 八門遁甲における休門は、慶事が訪れると言われている。


 それが、この祝福か。


 ゆっくりと息を吐く。


 呼吸は苦しいが、気持ちは楽だ。


「ねぇ、お姉ちゃん。どうしてわたしを連れて行ってはくれなかったの」


 見下ろされている。


 タバサの頬に雫が落ちる。


 ハントの……ルールゥの涙だった。


「わたしはお姉ちゃんになら殺されてもよかった。一緒に逃げてもよかった。なのに……」


「さ……ぁね」


 泣きじゃくる妹の前で、タバサはただの娘に戻った。


 死の運命を操る妖女は死に、今やか弱い少女が一人。


「あんたが、いきてるっ、てことは……銃口、もブレ……てた……っ、て、こと、か」


 反芻する。


 ブレていた。


 いや。


 狙いきれなかった。


「ばか、ねぇ……」


 タバサは目を細める。


「殺せなかった、だけよ」


 風水に、その時運に狂わされたけれど。


 嗚呼そうだ。


「ルールゥ、死ぬまで、側に、居てくれる?」


 微かに、手を伸ばそうとする。


 力は入らない。


 けれど、ルールゥはしっかりとその手を握った。


 暖かい。


 今まで感じたことがないほど。


「死ぬまで、なんて言わないでよ……っ」


 ルールゥは、瞳いっぱい、溢れんばかりの涙を溜めて笑った。


「死んでも、一緒にいてあげるっ」


 ルールゥのポンチョの下、お腹周りには大量のダイナマイトが巻かれていた。


「そっ、か」


 タバサは微笑む。


 ルールゥはマッチに火をつけて。


 静かに導火線にその光を灯した。


 


 ねぇ、見て。


 血が弧を描くわ。


 跳ねて、飛び散った血がまあるく描くの。


 綺麗ね、ルールゥ。


 まるで。


 まるで月のよう。




 飛び散るスパークが彼女達を最期まで照らしていた。


————————劇終

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