やましくない二人の、やましすぎる瞬間
- ★★★ Excellent!!!
軽妙な会話と絶妙な心理描写が読者をぐっと引き込むこの作品。
主人公・小長井椿の一人称による語りはテンポがよく、読んでいて心地よいリズムがあります。
仕事に誇りを持つ現代女性のリアルな独立心と、つい感情的になってしまう人間らしさのバランスが見事です。
物語の中心は、彼女の前に現れる旧友・山岡伸明とのやり取り。
彼の唐突な訪問、軽口、図々しさ――すべてが「鬱陶しい男」として描かれていますが、その裏には単なる友人以上の“自然な距離感”が感じられます。
特にクライマックスの「やましくないならここで言ってみなさいよ」という椿の挑発と、それを真正面から受け止める山岡のプロポーズは、声に出して笑いながらも心の奥がじんと温まりました。
タイトルの「やましくない話」は、皮肉でもあり、真実でもあると思います。
二人の関係には確かに“やましさ”がありませんが、その裏には長い年月で培われた信頼と愛情が静かに息づいています。
大人になっても不器用なままの二人に、誰もが自分を重ねてしまう――とても温かくてチャーミングな作品です。