オットセイ

あるところのとある水族館。そこで行われる目玉のショーには多くの客で満席になっていた。

「B先輩、ショー綺麗ですね。」

「そうだなA。」

 そこにいる二人の男女はそんな会話を交わす。

「こんなところに本当に爆弾を持った人がいるんですかね。」

「あんま声に出すなA。ここに刑事2人いるのは機密情報なんだから。」

 小声で話す2人、実は刑事なのである。

「だってこんな脅迫状出したら入りにくくなるのは目に見えてるじゃないですか。」

「きっとなんか作戦があるんだよ。それにあくまでこの情報はトップシークレット、バレないように荷物検査だって最低限しかないんだからきっと抜けてここにくるはずだ。そのために俺たちがいるんだよ。」

 Bはスマホを取り出して後ろをチラッと確認してスマホに目を落とす。

「予定では次のショーで来ることになってる。だからそれまでショーを楽しもうぜ?」

「まあ、いいでしょう。どうせすることも周りを見つつショーを見るだけなんですから。」

 そうしてショーを見る2人。

 次の演目はオットセイのショーだった。

「先輩。」

 唐突にAが口を開く。

「オットセイって得ですよね。」

「なんだ急に?」

「だってよく考えてください。あいつら手を叩いて『オウwwwwwオウwwwww』って言ってくるんですよ?でもそれはオットセイがやってると大してムカつかないじゃないですか。私、おっさんが目の前でおんなじことやってきたら普通にぶん殴りますよ?」

 そしてAは手をグーにして見せる。

「そりゃそうだな。でもよ、それは人間がやるからムカつくのであってそれ以外ならムカつかなくないか?」

「‥‥確かに。」

「だったら『オットセイが得』じゃなくて『オットセイを含めた動物が得』なんじゃないのか?」

 Bの言ったことに少し考えるA。

「でも先輩、チンパンジーとかオランウータンとかがやってきたらちょっとくらいムカつきません?」

「それは確かにムカつくな。」

「ほーらやっぱり!」

「そう考えるとオットセイぐらいだな。その行動ができてその行動やってムカつかないやつ。」

「そうですよね!?だから私はオットセイが嫌いです。ムカつかないから誰も止めない。自由にそんなことができるってことです。私も先輩におんなじことやってみたいです。」

「それが本音か。でもよ…」

「なんですか?」

「それってみんながムカつかずに俺を煽る姿を見ててほしいってことだろ?」

「はい」

「俺がムカつかないと意味なくないか?」

「あ」

 こいつバカだな思ったBのケータイに着信が来る。

「あーまじですか?あーはいはい、わかりました。はーい。」

 ピッと通話を切ったBにAが質問をする。

「先輩、なんだったんですか?」

「爆弾魔、捕まったってよ。」

「え」

「入口の関門に引っかかったんだってよ。」

「…まじですか?」

 その時、ちょうどショーが終わりを迎えた。

「うし、ショーも終わったし帰るか。」

「えぇ…なんだったんですか、今回の犯人。」

「世の中、こんなバカばっかりだと捕まえるのが楽なんだけどな〜」

 ショーを見てオットセイの話をして帰った2人の刑事。2人の平和な日常は今日も続く。

 

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