第2話:夫婦の契りと姉妹の誓い
「どうしてですかニニギ様!?」
「……何の話だサクヤ?」
「私が知らないとお思いですか!? 姉の話ですっ!」
それは古き神話にまで遡る話だが、とある一組の夫婦がいた。
男に見初められた女は時を共に生きる契りを交わすのに、女の父からひとつの条件を言い渡されていた。
天より舞い降りた男との縁談はありがたい話とはいえ、その条件を飲めないのであれば縁談は断ると言われたのだ。
男は問題ないと女の父の条件を快諾し、後日に見目麗しき女とともにやってきたモノを見て言葉を翻し態度を一変させたのだ。
「サクヤよ。我が彼女を迎え入れる訳にはいかないのだ」
しかし男の態度はとても女の話を聴くようなものではなく、流れる川の水のように通り過ぎた。
「何故なのです!?」
「……サクヤ。姉のことは忘れなさい」
「姉を、忘れよと? 実の姉を忘れよというのですか!?」
理知的な男は神の孫であり、その力はまさしく神々の片鱗を感じさせるものだった。
地上にいる男たちの中で誰よりも強く、誰よりも聡いことだろう。
しかし男は口数が少なく、そして説明をすることはない。
「待って! 待ってくださいニニギ様!」
一夜を共にした男は征伐のために何の説明もないまま家を出てしまう。
私はただ、貴方と話をしたいだけなのに……。
――――――――――――
【???】
この身に満ちる穢れを視るか。
繁栄あらば衰退があろう。
壱の繁栄を叶えたくば弐の嫉妬を向けられよう。参の愛を得たくば肆の悋気を向けられよう。
この世に何も失わず得られるモノなどないことを、あの男は知らぬのか。
完全無欠の完成された神の血は、永劫無窮に変わらず消えず蓄えられ続ける呪怨を見て見ぬ振りをするというのか。
悟りすら得られぬこの世の数多の邪心から永きに渡って護り続けたのは誰だと思っているのか。
この身に満ちる穢れを視よ。それでもお前は妹だけを愛するというのか。
私が護り続けたものを奪いながら、それでお前は何の感情も湧かないというのか。
「憎い。ニクイ。憎イ。あァ……怨メシイ……」
この身に満ちる憎悪は、禊ですら洗い流せぬ。
流れるる川の底で、永劫に変わらぬ
さざれ石のように怨み辛みを重ねていこう。
この身がすでに汚らわしいというのなら、穢れ堕ちた神となって……汝らに報復しよう。
我が身に消えぬ憎悪がある限り……。
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