第13話 喋らない猫はただの猫だ。
わたしと黒猫のアリシアが学校の廊下を歩いていた。
「やはり、自分の足で歩くのも悪くないな」
アリシアが猫の姿で歩くのを先生方も放任である。何故かと聞かれたら。それは留学生の申請をして、正規の生徒として扱われているのであった。
「ジャン、学生証もあるぞな」
カード式の学生証には猫のアリシアが写っている。写真は自動証明写真機に行って手動で撮ったらしい。
しかし……。
あれ?アリシアの学生証の写真が薄くなり始めていた。アリシアに訊ねてみようと話かけると。
「にゃー」
何がにゃーだ。もう一度……。
「にゃー」
言葉が通じない⁈
わたしはこの様な事態は弱い。わたしがオロオロとしていると。廊下の向こうから夜葉が近づいてくる。
「夜葉!アリシアに何が起きたの?」
夜葉はただの猫の様になったアリシアを見て。
「簡単な事です、この世界のことわりになじみつつあるのです」
つまりは喋る猫などこの世界には居なくて、それが自然の摂理であり。要約するとアリシアがただの猫に成りつつあるらしい。わたしは難しい顔をしている夜葉にアドバイスを頼んでみる。
「この世界のことわりを斜め上にすれば……」
斜め上……そうだ!アリシアの居た、異世界とのトンネルを作ればいいのか?
わたしの質問に夜葉は頷く。
「術式のエネルギー源であるマギの強いところを探さなければ」
つまりはこうだ、異世界とのバイパスを通してこの世界のことわりに斜め上から干渉するのである。マギ……猫神様の前などいけそうである。わたしは学校を早退して猫神様に向かう。
「にゃー」
黒猫の姿のアリシアが付いて来てくれるのが救いである。まだ、理性が残っているのだろう。
わたしが猫神様の前までくると。
術式を描く。
猫神様の社に突風が吹いて空に黒い空間が現れる。
「よし、いけそうだ!」
バリバリ!
落雷と同時に黒い空間からペット用の小屋が落ちてくる。
!!!
「あれ?わたしは何をしていたのだ?」
黒猫のアリシアが再び喋り始める。ペット用の小屋……確かに斜め上だ……。
この小屋は異世界とのバイパスとなりアリシアを再び喋る猫に戻したのだ。
まさにシリアスとギャグの境目である。
「アリシア、この小屋に住めば異世界とのバイパスで繋がっているから、もう、大丈夫だよ」
わたしはペット用の小屋をかついで自宅に帰る途中にて時々、残念な人を見るような視線を感じた。それでも、自室まで小屋を持っていくと、アリシアが小屋の中に入る。
「おぉ、ふかふかだ」
小屋の中で丸くなるアリシアは幸せそうである。
あぁぁ、疲れがどっと出た。
わたしは長い今日の終わりを感じていた。
***
今日は黒猫のアリシアが不在である。異世界からのペット用の小屋を召喚してから、アリシアは異世界に簡単に帰れるようになった。わたしも異世界に行ってみたいが、別の体になるらしい。
さすがに猫の体の生活は嫌である。
うん?
小屋が光っている。どうやら、アリシアが帰ってきたらしい。術式が描かれて黒猫が現れる。
「にゃんで、猫の姿なのかな……」
と、言いつつ黒猫の姿を気に入っているらしい。
「今日も公務、公務で疲れた、おでんでも食べたわ」
身分の高い家の愚痴らしい。しかし、おでんなど何処で覚えたのであろう?
ま、いいや。わたしも小腹が空いた。コンビニでおでんを買うことにした。
自転車で一走りである。
わたしが帰ってくる頃にはアリシアは寝ていた。
気ままに、昼寝など、まさに、贅のかぎりである。わたしは小屋の中で寝ているアリシアを起こして二人でおでんを食べる。
……。
二人でガツガツとおでんを食べる。言葉は無く無言である。
さて、平和な一日が終わっていく。
この物語は終わりである。
喋る黒猫が現れただけのお話であった。
わたしはアリシアと二人でおでんを食べたと今日の日記帳に書くのであった。
極貧悪役令嬢は黒猫の姿で活躍する? 霜花 桔梗 @myosotis2
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