第12話 呪いのライフスタイル

 最近の夜は寒いのが更に寒い。気候変動だか知らないが迷惑な話である。


 と……。思ったら、夜葉が部屋の中にいる為だ。


 わたしはこないだの続きをねだるがその気はないらしい。夜葉はポテチを食べてアリシアと一緒に携帯で動画を観ている。実に不機嫌である。そう、場所が問題なのである。二人でベッドの上に乗って動画を観ている。ここはわたしのプライベートスペースなのに。


 わたしはブツブツ言いながら、机に向かい宿題をしている。


 と、あああ……。


 夜葉の舌が欲しい、あの綺麗な指先でもいい。


 しかし、満月の夜に元の姿に戻ったアリシアの肉体美も捨てがたい。体は疼くが寒くて虚しくなる。


 ホント、今日は寒いなー。ストーブの火力上げよう。


「あ、ついでにポテチおかわり」


 アリシアがわたしに声をかける。授業の課題を済まさなければならない、この現実に少し絶望する。


 しかし、いくらバカでも高校くらいは出ておいた方がいい。


 近くて公立なら何でもいいと少し偏差値の高いこの高校に入ってしまったのが運の尽きである。わたしはポテチをアリシアに渡すと机に戻る。


「あ、ジャパニーズ呪いアイテムのわら人形を注文しておいて」


 二人に頼むと勉強を始める。わら人形は大手通販サイトの密林で売っているらしい。使い道は勿論、二人を呪う為である。


 翌日、ホントにわら人形が届いた。釘まで付いている。


 しかし、トンカチはない。ここは包丁で我慢しよう。


 わたしは術式を走らせるか迷う。


 それは術式を走らせたら。ホントに効力が発生するからだ。


 本来、マギの力は呪いだけではない。


 アリシアに術式を教えてもらい、わたしも術式を使えるようになったのだ。


 まいいや、包丁でザクザクして気分転換をしよう。


「アリシア、毛を一本ちょうだい」

「呪いの術式を使うのか?」

「大丈夫、ただの気分転換」

「呪う事には変わりないのか」


 アリシアは首を傾げて考えている。当たり前か……呪われて気持ち良いものではない。


「実は……ジャパニーズ、呪いアイテムのわら人形を二つ買ったのだ」

「ならザクザク、二人でやろうぜ」

「で、夜葉はどうする?」

「わたしはパス、ただのわら人形でも呪いの効果出てしまう」


 ヴァンパイアだもんな。


「よし、決まった、庭に出てザクザクやろう」


 そして、わたし達二人は無言でザクザクするのであった。


 少し虚しい……。


 わら人形の件から数日後。わたしは大量に出ている課題をこなしていた。ふと、隣を見ると、アリシアがベッドの隅で寝ている。わたしはやりかけの課題の手を止めて。アリシアをベッドから引きはがす。


「夏樹、わたしに恨みでもあるのか?」


 恨みはないが一日中寝ているアリシアが羨ましいのである。


「令嬢の時も公務以外は好きな時に寝て、起きるのも気まま生活であったぞ」


 ……。


 少しは働けよ、鶏を飼うだけでタマゴが食べられるだろうに。アリシアはわたしの手からずるりと落ちると元のベッドの隅に歩いて行く。確かに極貧とはいえ令嬢である。しかも悪役なので他人の頭にくることばかりする。わたしは教えてもらった術式を実行する時だと感じていた。術式を走らせて、白猫になるか試してみた。


「カライ、カライ!口の中がカライ」


 アリシアが飛び起きる。やはり、素人の術式ではダメか。大体、黒猫の姿になったのは高度な呪いの術式である。簡単な術式では変な反応しかでないのかもしれない。


「夏樹、唐辛子を口の中に突っ込まれた気分だぞ」


 ここは素直に謝ろう。


 わたしの謝意にブツブツ言いながらベッドの隅でまた寝始める。

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